森の化け物15
しかしクロフは口元引き結び、決意に満ちた表情でうなずく。
「はい、ぼくはそう思います。なぜならあなたは純粋な目をしておられますから」
大蛇は何も言わなかった。
もう何事も言う気力が失せたのか、大蛇はゆっくりと首を水の上に横たえ、目を閉じた。
「お前の好きにするがいい。わたしを生かすも殺すも、お前にのみ可能なことだ」
クロフは長い息を吐き出し、しゃがみ込んだ。
「まだ人間を憎み、生き物を殺したいと、あなたは思っているのですか?」
大蛇は青い瞳でクロフを見つめる。
「当然だ。わたしはもう水の女神であった頃のわたしとは違う。この地上に生まれ落ちて、実際に地上の様子を見聞きし、感じ、わたしは変わったのだ」
それを聞くとクロフは静かに立ち上がった。
湖面は静まりかえり、ケーディンのうめき声がかすかに聞こえてくる。
「帰ります」
クロフは大蛇に背を向け、傍らでうずくまっていたケーディンに肩を貸す。
「あの化け物は、やったのか?」
片手で顔を覆いながら、ケーディンは尋ねた。
「いいえ」
クロフはケーディンの体を支えつつ、岸辺へと歩いていく。
「何だと! それじゃあ」
ケーディンの言葉を遮り、クロフは強い口調で答える。
「それについては、ぼくが何とかします」
「何とかって、どうするんだよ!」
ケーディンはクロフの手を振り払った。
「あの化け物を倒さないと、金は手に入らないんだよ! それじゃあ何のためにこの森まで苦労してきたって言うんだ! 俺は嫌だぜ。何としてもあの化け物を倒して金を手に入れるんだ!」
ケーディンはおぼつかない足取りで、湖の中央へと向かっていく。
「駄目です。まだ視力も戻っていないのに、無茶です」
クロフは慌てて、ケーディンの前に回り込んだ。
ケーディンは片腕をがむしゃらに振り回す。
「どけっ!」
「嫌です!」
クロフはケーディンの怒鳴り声に負けないくらいに、声を張り上げる。
「彼女を、あの大蛇をあなたが倒すことは出来ません。そんなろくに見えない目で戦って。あなたは命を無駄にしたいのですか?」