森の化け物14
大蛇は首を持ち上げ、赤い舌を出して威嚇した。
クロフは手を引っ込め、悲しげな赤金色の瞳で見つめる。
「どけっ!」
背後から走り寄っていたケーディンがクロフの投げ捨てた剣を拾い、大蛇に斬りかかった。
大蛇は口を開け、向かってくるケーディンに毒霧を吹きかけた。
すさまじい悲鳴が辺りを振るわせ、クロフは思わず腕で顔をかばう。
ケーディンは剣を取り落とし、両手で顔を覆った。
クロフは苦しみ悶えているケーディンを見て、大蛇を振り返った。
「なんてことを!」
クロフは苦痛に満ちた表情で大蛇を見下ろしている。
「ははは、人間ごときにわたしが倒されるわけがないだろう」
大蛇は首から血を滴らせ、息も絶え絶えにつぶやく。
そこでクロフの悲しげな赤金色の瞳とかち合う。
「ふふ、わたしを哀れんでいるのか、火の神。こんな醜悪な姿になり、落ちぶれたわたしを」
「いいえ」
クロフは短く、はっきりと言った。
「ぼくはあなたの姿が醜いとは思いません。落ちぶれているとも思いません」
クロフはケーディンの姿を視界の端にとどめ、立ち上がった。
「僕が悲しいのは、あなたの心の中の悲しみです。あなたの言っていることは、正直ぼくにはよくわかりませんが、あなたがぼくを火の神を言うのなら、そうなのでしょう。そしてあなたを殺すことが出来るのがぼくだけだと言うのなら、きっとそうなのでしょう。でもぼくはあなたを出来ることなら救いたいと思う。その悲しみから解き放ちたいと思う。どうしてあなたはいつも苦しみ、悲しい瞳をしているのですか?」
大蛇は口元を奇妙にゆがめて、クロフを蔑むように見つめる。
「悲しんでいる? わたしが? それは傑作だ。わたしがお前に哀れみを受けるとは。神々はどういうつもりでお前を遣わしたのか、理解に苦しむ」
大蛇は力なく口を開く。
「ぼくには、太陽の女神様がぼくをここへ遣わした理由が何となくわかります。あなたの心を清め、土地の汚れを払い、大地を元の豊かな実りある土地へと戻すことを、神々は望んでおられるのだと思います」
クロフはひたと力強い目差しで大蛇を見つめていた。
彼の表情にいっさいの迷いはなく、赤金色の瞳には強い意志の炎が宿っている。
「心を清める? わたしが罪を悔い改めると、本気で思っているのか?」
大蛇はクロフの言葉を笑う。