森の化け物10
クロフは湖面に叩きつけられ、盛大な水しぶきを上げる。
咳き込みながら立ち上がり、声を張り上げた。
「話を聞いてください! ぼくはあなたを殺しに来たのではありません!」
頭上から敵意のこもった声が返ってくる。
「ならば何だというのだ。わたしのこの醜い姿を、天上の神々の前に引きずり出して、笑いものにでもしようというのか」
大蛇は湖面を渡す疾風のように走り、クロフに突進してくる。
「それこそ、お断りだ!」
白い鱗で覆われた巨体で体当たりをくらわす。
しかしクロフは寸でのところで体を反らし、水に濡れた短剣で銀の鱗を弾き、受け流した。
「それは違います!」
大蛇は水中に潜り、クロフから距離をとる。
「ならば何だというのだ! 何の目的があって、この地上までやってきたのだ!」
クロフは大蛇の問いに、しばしためらった。
「僕の本当の目的は、わからない。わからないけど」
わずかにうつむき、短剣の柄を握り締める。
「何か、もっと良い別の方法があるはずだ!」
クロフは短剣を手に、大蛇に向かって走っていく。
宿り木の靴は水の上でも、平野を走るがごとく彼の足を進ませた。
大蛇は向かってくるクロフにひるみ、体をよじらせた。
その一瞬の隙を、クロフは見逃さなかった。
渾身の力で短剣を大蛇ののど元に突き立てた。
大蛇の首から赤い血がほとばしり、痛みのためか辺り構わず暴れ回った。
クロフは大蛇にはね飛ばされ、湖の岸辺に叩きつけられた。
「おい、大丈夫か?」
今まで眺めているだけだったケーディンが、心配そうに駆け寄ってくる。
クロフは苦しげにうめき、ゆっくりと立ち上がる。
「ぼくは、大丈夫です。それよりも、彼女の怒りを収める方法は、何か無いでしょうか」
「彼女?」
ケーディンは素っ頓狂な声を上げる。
「あの大蛇のことですよ。あの大蛇とこの水が、恐らく、作物が実らなくなった原因を作ったのでしょう」
のど元に突き刺さった短剣を引き抜こうと、大蛇は狂ったように頭を振り回している。
「そこまでわかっているのなら、あいつを倒しちまった方が早いんじゃないのか?」