森の化け物1
一章森の化け物
彼女は世界にあるすべてのものが憎く、地上に生きるすべての生き物が恨めしかった。
木々の間から差し込む木漏れ日も、湖面を吹き渡る風も、岸辺に打ち寄せるさざ波さえも、何もかもが嫌で仕方がなかった。
彼女は特に森に住む生き物やそのそばに住む人間が嫌いだった。
空高くさえずる小鳥も、木のうろに住む子鹿も、湖でゆったりと泳ぐ魚も、畑を耕す村の親子も、彼女にとっては目障りで仕方なかった。
暗く冷たく静かな世界。
彼女はそんな世界を望んでいた。
彼女のそんな思いからだろうか。
いつしか彼女の住む森は木々が高く生い茂り、小川の水は濁り、臭気を放つようになった。
近隣の村々の井戸は枯れ、土はぬかるみ、畑の作物は育たなくなった。
村人達は住み慣れた村を捨て、移住せざるをえなくなった。
人の住まなくなった村々は、木々に飲み込まれ、暗い森の一部となっていった。
その地方を治める南の王は、作物が出来なくなった原因を突き止めようと、幾人もの人々を森に遣わした。
しかし、誰一人として戻ってきた者はいなかった。
そのうちに、その森には恐ろしい化け物が住むという噂がどこからかささやかれ始めた。
困り果てた王は、土地が腐る原因を突き止め、見事化け物を退治してきた者には、莫大な財宝と自分の娘であるフィエルナ姫を与えようとお触れを出した。
腕に覚えのある者達が集まり、暗い森に次々と挑んでいったが、無事に戻ってくる者はいなかった。
ある者は腕を、ある者は足を失い、息も絶え絶えに戻ってきた。
戻ってきた者達は、口をそろえて森に住む化け物のことを語った。
人々はますます恐れて、一年もすると森へ行こうという者は誰もいなくなった。
ある日、王の元に三人の若者がやってきた。
森の化け物を退治しようという若者三人に、王は喜び祝宴を開いてもてなした。
祝宴には数頭の子牛の丸焼きや森の果実、川魚などの料理が並べられ、広間は数百本のロウソクの灯りで真昼のように照らし出された。