死を報せる風
風が吹いた。また一人死んだ。私は風によって人の死がわかる。強く吹けば多く死に、弱く吹けば少なく死ぬ。さらに言えば、台風とかはもう酷いもんだ。嗚咽が出そうになる。
「また一人死んだな」
微少の風が吹いたのだ。こんな力、あっていいものじゃない。人の死がわかるというのは、辛いことだ。この私の力は、死んだことがわかっても、未然に防げない。ああ、私は何て無力だろうか。
「うわっ」
とたん、恐ろしいほどの突風が吹いた。今のは一体何人死んだんだ?私は足が震えた。あんな風、今までで初めてだったからだ。家に入ってテレビをつけると、目を疑いたくなるニュースが流れていた。戦争開始のニュースだ。なぜだ?なぜ人間はこうまで愚かなのだ。命をなんだと思っている。それにしても、先程からずっと吹いている風は、今死んでいく人間のものだろう。ああ、いやだ。もう風を感じたくない。私は嗚咽しながら泣いた。もういやだと。
「ううっ」
また突風が吹いた。また、何万人もの人間が死んだのだろう。私は大声を上げ、懇願した。
「おお、神よ。もういい。もう眠らせてくれ。私が間違っていたのだ。」
・・・私は不死身だ。死ぬことができない。愛する人が死んでいくのを幾度となく見てきた。昔、不死身になれるよう神に頼んだ。私は生きたかったのだ。ずっとずっと生きたかったのだ。消えていく仲間を見て、楽しそうに遊ぶ子供達を見て、私は不死身になりたかった。懇願のすえ、神は私を不死身にしてくれた。しかし神は同時にこの力を与えた。命の尊さをしるためにと。しかし、最初はわからなかった。人が死のうが、ただの風だった。だが、今ならわかる、命の尊さが。死ねない体になることで、大事な人が死んでいくことで、死を風で感じることで、わかったのだ。
『もう、おやすみなさい』
ふと、神の声が聞こえた気がした。そして突風が吹いた。いや爆風が吹いた。あぁ、近くに爆弾が落ちたのだな。報せの風ではなく、爆風が。しかし私は不死身、この爆風を越えたあと、また死の報せを受けるのだ。・・・体が壊れていく。・・・ありがとう。やっと死なせてくれるのですね。愛する人のもとに、行けるのですね。やっと許していただけるのですね。案山子であった私が人間に憧れ、そうなりたいと思った。あなたは温かく、人間にしてくださいましたね。でもすぐに私は、不死身でもありたいと思った。だからあなたは怒った。命の尊さを知りなさいと。無限の命などないのだと。あぁ、命とはなんと儚く、尊いものか。だから人間が輝いて見えたのだ。今を必死に生きるから。私は間違っていたのだ。あぁ、神様ありがとう。本当にありがとう。これで私はやっと眠ることができます。