↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

物語集

パンプキンパイ争奪戦! 〜君のその笑顔が見られるなら〜

作者: 辻堂安古市
掲載日:2026/10/24



武 頼庵さまの『木枯らしの風景企画』に参加しています。



 


 キーン

    コーン

       カーン

          コーン……




 2限目終了のチャイムだ。

 今日も「闘いのゴング」が鳴る。




 ……大袈裟?


 イヤイヤ。

 そんなことはない。

 これは「勝負」……いや、「戦争」なのだから。



 俺は上履きを履き直し、教科書を静かに閉じた。ノートは……始めから書いてない。そんなもんは後から誰かに借りればいいのさ。





 ……てかさ、早く授業終われよ「カリフラワー」!いつもいつも科学の時間「最後に大事なポイントを~」からが長ぇんだよ!そこで「直線の真っ直ぐさ」にこだわらなくてもいいから!


 ああもう!

 いちいちグラフ書き直すなよ!

 その白髪モジャモジャ頭、緑に染めてブロッコリーにしてやろうか!?






「はい、それじゃこれで終わり」


「礼!」

「あざっしたー!」


 くっそ出遅れたぁぁ!


「間に合えっ……!」


 俺は中央階段を駆け下って3Fから1Fへ走る。最短ルートは既に構築済み、踊り場にどちらの足で降りたらいいかまで最適化している!


 目指すは南校舎の1Fにある売店!

 そこまで行くのに北校舎3階から歩けば通常2分弱のところを、俺は最速38秒のレコードを持っている!




 先に言っておくが、うちの学校はよくマンガに出てくるような熾烈な争奪戦は起こらない。あれ、リアルで見てみたい気がするが……いや今はそんなことどうでもいい。


 目的の「ブツ」を手に入れるために、急げ俺!




「おばちゃんー!『例のヤツ』、まだある?」


「あー、ザンネンだけど今日はもうないね」



 うそーん……!

 チキショー カリフラワーめ!

 時間通りに終わってさえいればっ……!



「あららユウト残念ね。最後の1個は私でしたー♪」



 その声の方を見ると、そこにいたのは勝ち誇った顔をしたアオイだった。



「クソ―……「カリフラワー」の授業じゃなければ…!大体そっちは北校舎でこっちより近いんだから有利に決まってんじゃん!」


「文句言わないの。でも本当に美味しいよねー、ここのパンプキンパイ」


「まぁそれに異論はないけど」



 そう。10月と言えばハロウィン。

 そしてハロウィンと言えばパンプキン。


 というわけで、『目的のブツ』とは、この季節限定「パンプキン・パイ」のこと。これの争奪戦をしていたって言うわけだ。


 

 なんでそんな事をしてるかだって?


 それは元々は去年の今頃に、気まぐれで買ってみたアオイがドハマりして、「美味しいから食べてみて!」って持ってきたことが始まりだった。どっちかというとアップルパイ派だった俺でも美味いと思ったので、それから売店で見かけたときは、つい買ってしまうようになってしまった。


 ところがこのパンプキンパイ、曜日限定、数量ごく少数(多くても3個)なので、場合によっては買えなかったりする。ということで、いつの間にやら二人の間でささやかな「パンプキンパイ争奪戦」が繰り広げられるようになったのだった。他の生徒とはどうやらそこまで競合していない様子なので、だいたいどっちかは手に入れるんだけど。



 まあちょっと悔しい気もするが、元々軽いゲームみたいなノリでしている事なので、そこまで悔しくはない。「ドヤるアオイ」が可愛いとさえ思ってしまうし、こんなやり取りを楽しむためにやってるようなもんだ。


 ……俺「アップルパイ派」だし。


 うん。

 悔しくない。






 チクショーめ!

 カリフラワーの授業じゃなければっ……!







 ◇◇◇


 数日後の放課後。今日は部活が休みなので、下駄箱で待ち合わせして二人で帰ることができる。だいたいこんな時はすぐにバスに乗らず、しばらく歩きながら話すようにしているんだけど、今日はアオイがちょっと拗ねている。



「あ~あ。今日は二人とも買えなかったか~」


「まあそういうこともあるだろ。毎回2人で買い占めたら他の人にも悪いだろ?」


「ぶ~」



 足元には街路樹で植えられている桜やイチョウの葉が散り始めて、かさかさと音を鳴らしている。ひんやりと冷たい空気の中、夕陽が差した道が黄色くなってくると、秋の深まりを実感する。



「そんなに拗ねるなって。…ほら、これあげるから」


「あ!買ってる?ずる~い!」


「今日は授業早く終わったからな!」


「も~!なんで黙ってたの?」


「アオイのそーいう顔が見たかったから、かな?」


「……も~!恥ずかしいじゃん……!」





 手に持った袋からパンプキンパイを取り出し、半分アオイに渡す。嬉しさと恥ずかしさがまざった顔を、懸命に表に出さないようにしているのが、また何とも言えない。


「……ありがと」 


「どーいたしまして。さ、くおうぜ」


「うん!」


「まーた美味しそうに食うよな」


「だっておいしいもん♪」



 パンプキンパイにかじりつくアオイの笑顔が弾け、まるで夕陽のように輝いて見える。さっきまでの拗ね顔も悪くないけど、やっぱこの顔だよな。


 階段ダッシュの労力と150円。

 それでこの顔が見れるんなら、安いもんでしょ。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
曜日限定、数量限定のささやかな楽しみ♪ しかも二人でほとんど競うくらいだから、もしかしたらそんなに大人気ではないパンプキンパイかもしれないけども、 それが二人を繋ぐいつものお決まりみたいになってるのな…
甘酸っぱくも爽やかな青春の一コマという趣が御座いますね。 在庫少数で尚且つ曜日限定。 それは確かに、欲しい人にとっては競争率が上がりますね。
木枯らしに負けぬ温かい気持ちをありがとうございます♪(*^o^*) 好きな子の笑顔は嬉しいですね(*^ω^*) 読ませて頂きましてどうもありがとうございました。 m(_ _)m
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。