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第七話 日常風景

 同日、夜――。

 空母ベサリウス、食堂区画。

 スパイシーな香りが充満する部屋で、レイモンドがスプーンを皿に投げ出した。


「しっかしまぁ……有名になるのも考えもんだな」


 カレーを平らげた彼は、食後の水を含んで大きく息を吐く。

 アバランサー隊の四人は、こうして食堂の一角を陣取って食事を摂るのが日課だ。

 食事当番はクルーによる持ち回り制。多国籍な部隊だけに、日によってメニューも味も変わるのだが、今日のカレーは当たりの部類らしい。

 ちなみに、ハクバだけはこのローテーションから除外されている。彼の手料理は、食べられるものではないと言われ、ベサリウスにおける最大のタブーとなっているからだ。


「贅沢言わないの。おかげで仕事のオファーはひっきりなしよ」


 フランが紙ナプキンで口元を拭いながら、苦笑交じりに返す。


「ま、確かに変な仕事もくるけどね。今日みたいに騙してきたり、下手すれば人身売買の片棒を担がされそうになったり」


「だからこそ、俺たちがアバランサーを持っている意味があるんだろう?」


 トレイに水の入ったコップだけを乗せて、ハクバが席に加わった。


「ですね! ハクバの人脈もあって、今は四機も運用できる! これだけの戦力があれば無敵ですよ! ねっ?」


 ビンスが身を乗り出して同意を求めるが、ハクバはそうかもな、と軽く受け流す。レイモンドは呆れたように鼻を鳴らした。


「そういう単純な話じゃねぇよ。……ま、ハクバの言う通りだ。気に入らなきゃ断るし、舐めた真似をされたら容赦はしない。俺たちは軍隊じゃない。あくまで傭兵だからな」


 力を行使する自由。それは暴力的に聞こえるかもしれないが、金と契約で動く彼らにとっての唯一の流儀だ。


「それで? 次の仕事は決まってるのか?」


 レイモンドが視線をハクバに向けた。


「ああ、日本だ。さっきキャプテンと詰めてきた。とある輸送船団が日本に帰港するまで、その護衛と航路の露払いだ」


「マジすか! やったー! 一度、『ジャポン』に遊びに行ってみたかったんですよ! SHIBUYAとか行っていいですか!?」


 ビンスが椅子をガタつかせて飛び上がった。


「ベサリウスも補給のために寄港する。依頼主との話し合い次第だが、上陸許可は降りるだろうよ」


「うひょー! ジャポン! サムライ! ニンジャ!」


「……そんなに行きたかったのかよ。てかお前、ジャポンってなんだ。ジャパンだろ」


「仕方ないわよ。ビンスったら、ハクバに拾われてからずっと戦場暮らしだもの。大都市の観光なんて初めてじゃない?」


 フランが弟を見るような目で微笑む。


「あー、確かにそうか。……なら、俺も降りるかな。久しぶりに旨いスシでも食いたい」


「私も化粧品を買い足さないと。日本のコスメは品質が良いって聞くし」


 次の目的地が決まり、殺伐としていたテーブルの空気が一気に華やいだ。

 日本。

 東洋の島国へ向けて、ベサリウスは舵を切る。

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