表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/30

第三話 傭兵日常

 翌朝。二人は軍用ビークルを飛ばし、基地から数キロ離れたダイナーまで足を運んでいた。


「それでフラン。ビンスの野郎は?」


 レイモンドが、対面に座る女兵士――フランチェスカに問う。

 金髪をキャップに押し込み、深々とかぶった彼女は、気だるげにコーラのストローをくわえた。


「昨日ナンパした女と街へ消えたわ。たぶん、遅れてくる」


 フランチェスカ・リース。通称フラン。元アメリカ海軍航海士。十八歳で入隊したが、軍特有のしがらみに嫌気がさして自ら除隊。貯蓄を切り崩して放浪していた最中、ハクバたちと出会い、行動を共にすることになった。


「たくっ! 何してやがんだ、あいつは!」


 レイモンドは呆れ果てて、ブラックコーヒーを喉に流し込む。


「まぁいつものことだ。ゆっくり待とう」


 ハクバは足を組み、持参したタブレットをスライドさせる。

 ビンスは生粋の女好きだ。涼しげな目元と理知的な銀縁眼鏡、シュッとした顔立ち。その整った容姿を最大限に利用しているに過ぎないのだが、真面目なレイモンドにはそれが気に入らないらしい。


「すんませーん! 遅れましたー! いやあ、熱い夜を過ごしてしまって!」


 ダイナーの扉が勢いよく開いたかと思うと、ハクバの目の前にビンスが滑り込んできた。そのままの勢いで、ハクバが飲んでいたコーラを勝手に飲み干す。フランとレイモンドは白い目を向けているが、ハクバは怒ることもなく、空になったグラスを眺めた。


「朝飯でも食え。それから出発だ」


「良いんですか!? さすがリーダー! じゃあ、サンドイッチセットと――」


 ハクバの許しを得て、ビンスはトレードマークの銀縁眼鏡を押し上げながらメニューに見入る。その甘えっぷりに、レイモンドが苦言を呈した。


「ハクバさんよー。些か、ビンスに甘くねぇか? だからあいつはつけあがるんだぜ? 依頼人との約束の時間も迫ってる」


「待たせておくぐらいが丁度いい。それに、別につけあがってはいないさ。……俺はああいう奴、嫌いじゃないんだよ」


 ハクバがそう言うと、レイモンドはへいへいと肩をすくめて引き下がった。ビンスがハクバに懐く理由は、この寛容さにあった。幼い頃から紛争地帯で育ち、親兄弟を亡くし、里親にも見放された孤独な過去。そんな彼にとって、何も聞かずに居場所を与えてくれるハクバは、唯一の家族と呼べる存在なのだ。


「それで、次のクライアントは?」


 フランを奥に詰めさせ、隣に座ったビンスがサンドイッチを頬張りながら尋ねる。


「中国のルー商会だ。ロシアに運ぶ積荷を警護してほしいそうだ。洋上でのランデブーになる」


「積荷の警護ねぇ」


 レイモンドが怪訝そうに首を捻った。


「なんすか? レイさん」


「いや、きな臭いと思ってな。ルー商会と言えば、中国でも幅を利かせている裏稼業の大物だろう? そんな連中の積荷が狙われるとしたら、相手はなんだ? 海賊か?」


「その可能性は高いかもっすね。最近は軍用AIの輸出規制が厳しくなってるし。精神感応炉が月面で見つかってから、あまり輸出されなくなったけど。規制が入ってから再び、需要が跳ね上がった。アバランサーのOSに使われるような代物なら、喉から手が出るほど欲しい組織は五万とある」


 ビンスが的確な補足を挟む。女遊びだけでなく、こういう情報収集能力が高いのも彼が重宝される理由だ。


「まぁ、会ってみてのお楽しみだ。俺たちは傭兵だ。騙すつもりなら、返り討ちにするだけだ」


 二人の話を遮り、ハクバが席を立つ。


「一度、母艦に戻って準備してから向かうぞ」


「空母をわざわざ動かすのか?」


「ああ。念のためな」


「本気かよ……ただの護衛任務だろ?」


 ハクバの不敵なウィンクに、レイモンドは重い溜息をついた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ