第二十九話 月影の戦闘
「接触回線!? なぜ俺の名前を……てめぇ、何者だ!」
『イオグランデだ! よく覚えとけ! そして俺の相棒、この”アルゲンテウス”の名を冥土の土産に持っていけ!』
銀の機体――アルゲンテウスは、月影の装甲を蹴り飛ばしてわざと距離を取った。言いたいことだけを叫び、狂気じみた歓喜と共にブレードを腰だめに構える。
――突きで来るな。
ハクバの予測通り、アルゲンテウスが爆発的な推進力で突進してくる。風を裂き、雲を散らし、一直線に月影の腹部――メインジェネレーターの搭載部を正確に狙いすました一撃だ。
ハクバは刃を紙一重で躱し、ビームライフルを突きつけてカウンターを狙う。だが、アルゲンテウスはスラスターを悲鳴のように唸らせて空中で急停止すると、あり得ない挙動で反転し、再び死角から突撃してきた。
――なんだこの初速は……! アメリカ製の重装甲機で、こんな機動ができるはずがない!
ハクバは操縦桿を思い切り後方へ引き、限界ギリギリの回避を強いられる。
一方、アルゲンテウスのコックピットでは、イオが剥き出しの歯を見せて笑っていた。
――ヴィクターから聞いてはいたが、ここまで俺の動きを見切るとはな! アルゲンテウスの初見の機動に反応できたアバランサーは、お前が初めてだよ、ハクバ!
太陽の光が、白銀の装甲をギラギラと輝かせる。月面資源で鍛造された特殊合金のブレードが、天から降り注ぐように幾度もハクバへ襲い掛かった。
――くそっ! 時間が惜しいっていうのに!)
焦るハクバへ、イオの左腕に内蔵されたガトリング砲が火を噴く。
ハクバはビームライフルを盾にして防いだが、装甲の各所に被弾の衝撃が走る。何より、盾にしたビームライフル自体が限界だった。銃身はひしゃげ、内部機構が損傷している。この状態で次にチャージを行えば、内部の莫大なエネルギーが暴走し、機体ごと爆散してしまうだろう。
ハクバは即座にライフルを見切り、背部のウェポンラックへマウントし直すと、自身も近接用ブレードを引き抜いた。
精神感応炉が極限までパイロットの集中力を引き上げ、互いの刃が空中で火花を散らす。剣戟が重なるたび、月影のブレードは徐々に刃こぼれを起こしていった。イオの猛攻は一向に緩まない。
鋭い斬り込みが迫る一瞬の隙を突き、ハクバは月影を一気に下降させ、分厚い雲海の中へと逃げ込んだ。
「逃がすかよ!」
イオはスラスターの軌跡だけを頼りに、乱気流の吹く雲海へと迷いなく突入した。
視界は白い霧に覆われ、機体はガタガタと激しく揺れる。だが、イオは操縦桿から片手を離し、コンソールのスイッチを弾いた。左腕の装甲がスライドし、小型ミサイルの発射口が覗く。
――当たらなくとも、雲から炙り出せればそれでいい……!
イオが目を見開く。精神感応炉が彼の『視覚』とダイレクトにリンクし、システムが自動で目標へのロックオンを完了させた。
ペダルを限界まで踏み込み、月影の背中を直線の視界に捉えた瞬間。
「もらったァ!!」
視線誘導された二発のミサイルが、一直線に月影の背中へと吸い込まれていった。
着弾。
一発目の爆発。そしてコンマ数秒遅れて、信じられないほど巨大な二度目の爆発が雲海を吹き飛ばした。
莫大なエネルギーの誘爆が閃光となって弾け、アバランサーの巨大な瓦礫がアルゲンテウスのすぐ脇を掠めていく。
「……あっけねえな。アバランサーが爆散すると、ここまで派手な花火になるのか」
圧倒的な破壊の痕跡に、イオは月影を完全に粉砕したと確信した。
彼は興味を失ったように機体を反転させると、残る二機の傭兵を仕留めるため、高度を落として味方機の元へ向かっていった。




