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第二十七話 アバランサーの滑空

「ハクバ」


 レイモンドに呼ばれ、ハクバは格納庫脇のパイロット待機室に足を踏み入れた。室内にはすでにビンスとフランも顔を揃え、出撃の時を待っている。


「今回は全機出撃で行くぞ。俺とレイモンド、フランの三機は敵の強襲揚陸艦へ向けて先行する。ビンスは本艦の直掩に回ってくれ」


 ハクバがそれぞれの持ち場を指示すると、三人は無言で頷いた。

 ルー商会の護衛の時はハクバとレイモンドの二機のみだったが、今回は相手が強襲揚陸艦二隻だ。最低でも四機、最大で八機のアバランサーを積載している可能性が高い。警戒しておくに越したことはないという、ハクバの冷静な判断だった。


「いやぁ、ヒリヒリしますね。この感じ」


 ソファで身を乗り出しながら、ビンスがニヤリと笑う。


「ビンス、あんた……状況分かってて楽しんでない?」


 フランが呆れたようにため息をついた。


「まぁ、久々のフル出撃だからね。気合いも入るってもんでしょ!」


「へぇー、やっぱちょっと頭のネジ飛んでるね、あんた」


「そうかなぁ? ハクバさんもワクワクするっすよね?」


「いいや? 俺はいつも乗ってるからな」


 ビンスはハクバにも同意を求めたが、あっさりと冷たくあしらわれる。彼は「ちぇっ」と頬を膨らませ、いじけたように背を向けてしまった。

 これから死地に向かうとは思えないほど、待機室の空気は弛緩していた。歴戦の傭兵だからこその、異常なまでの日常感。

 だが――その静寂を、艦内に鳴り響くけたたましい非常アラートが唐突に切り裂いた。


「よし、出るぞ」


 ハクバの短く鋭い号令と同時に、全員の目つきが戦士のそれへと変貌する。

 四人は一斉に立ち上がり、格納庫で待機する己の半身――アバランサーのコックピットへと素早く滑り込んだ。


『全機、発艦シーケンスへ移行。上部ハッチ、開きます』


 オペレーターの無機質なアナウンスと共に、ベサリウスの飛行甲板が重々しい駆動音を立てて左右に開いていく。リニア・カタパルトに固定された機体が、次々と射出位置へと押し上げられた。


「ハクバ、月影出るぞ」


「レイモンド、デッド・リッド、出る」


「フラン、デッド・リッド2、出るわよ」


「ビンス、デッド・リッド3、迎撃態勢よし!」


 巨大な空母全体を揺るがすほどの爆音と共に、リニアカタパルトが機体を連続で大空へと撃ち出した。

 強烈なGがパイロットたちの背中をシートに押し付ける。月影のメインスラスターが青白い炎を噴き上げ、巨体が重力を振り切って急上昇を開始した。


「クリス、レーダーの反応は?」


 ハクバはGに耐えながらイヤーカフのインカムを叩き、CICのクリスへ敵の正確な位置を問う。


『現在地から十五キロ離れた海域に二隻! 気をつけて!』


「了解した」


 先行する三機の編隊は、厚く垂れ込める雲海へと真っ直ぐに突入していく。

 視界が白い霧に包まれたのも束の間、高度六千メートルを突破した瞬間、雲を抜けた先の目に痛いほどの真っ青な空が、全天周囲モニターいっぱいに広がった。


「夜までには決着をつけてぇな」


 レイモンドが、レーダーで周囲の空域を警戒しながらインカム越しにこぼす。

 夜になれば、ステルス性の高いベサリウスは闇に紛れて逃げ切ることができる。だが逆に言えば、それまでに敵を沈められなければ、暗闇の中でアバランサー同士の泥沼の死闘を強いられることになる。

 ハクバがビームライフルへの換装を急がせ、早期決着を望んでいる最大の理由がそこにあった。


「少し飛ばすぞ」


「おう」


「了解」


 月影の背後を、二機のデッド・リッドが追随する。メインスラスターが唸りを上げ、三機の編隊は雲海を切り裂いて飛んだ。

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