第二十四話 事後処理
「先ほどの自衛隊の防衛出動により、在日米軍の一部部隊による武装蜂起は鎮圧いたしました。現在、横須賀米軍基地周辺は陸上自衛隊並びに海上自衛隊が完全包囲しており、国内のその他の在日米軍基地についても厳重な監視体制を敷いております」
無数のフラッシュが焚かれる中、星波は手元の原稿から目を離し、カメラの向こうの国民へ向けて淡々と説明を続ける。
「被害の全容は現在調査中であり、正確な死傷者数についてはお答えできる段階にありません。被害に遭われた方々には深い哀悼の意を表すると共に、このような事態を引き起こしたアルビオン政府に対し、強い遺憾の意を表明いたします」
世界各地で同時多発的に蜂起が起きているとはいえ、アバランサーまで投入され、これほどの被害を出したのは日本だけだった。これはひとえに、ヴィクターが日本の防衛力や政治的立場を下に見ているからに他ならない。星波は腹の底で煮えくり返るような不甲斐なさを噛み殺していた。
「総理! 今回の件は事前に予期できなかったのでしょうか!」
最前列の記者が、食って掛かるように声を張り上げた。
テロリストが国家を樹立したのだから、事前に何らかの兆候を掴めたはずだ――という理屈は確かに道理だが、完全な「たられば」でしかない。だが、記者たちは自社のスクープと大衆の怒りを代弁することしか頭にない。
「……それは、私の不徳の致すところではあります。しかし――」
「『不徳の致すところ』で済まされる問題ではありませんよ!」
「そうだ! これほどの犠牲が出て、責任問題は必至でしょう!」
記者たちが一斉に立ち上がり、国民の怒りを背負ったかのような剣幕で星波を問い詰める。テレビ越しの喧騒は、もはや怒号の渦と化していた。
プツン、と。
瓦礫の山に響いていた携帯ラジオの電源を、陸上自衛隊の戦車小隊長が乱暴に切った。
「あんなもん、誰に予期できるってんだよ……」
ため息をついて後方を振り返ると、ひしゃげたガードレールの傍らに座り込む若い将校の姿があった。
「阿部一尉。大丈夫か?」
「は……はい。少し休んだら、手伝いますから……」
阿部は自身を抱きしめるように両肩を掴み、ガタガタと小刻みに震えていた。
「いいよ、休んどけ。瓦礫の撤去とご遺体の搬出作業は俺たちでやっておく。……お前が来てくれたおかげで早期鎮圧できたんだ。助かったよ」
「はい……でも、いっぱい、死にました」
「……ああ」
クサナギのコクピットから降りた直後、阿部は道路脇で胃液をすべて吐き戻してしまった。
初の実戦。シミュレーターとは全く違う、人を殺す生々しい感覚。パトリオットの装甲を貫いた時の、あの重く湿った手応えが、両手にこびりついて離れないのだ。慣れてはいけない感覚だが、その感触はあまりにも色濃く脳裏に焼き付いていた。戦場から帰還した兵士の自殺率が跳ね上がる理由を、阿部は今、身をもって理解していた。
「何人……ですか……?」
虚ろな目で、阿部は小隊長に尋ねる。
「重軽傷合わせて、一万人以上だな。死者は――一千人を下らないだろうな。正確な数字じゃない。まだ瓦礫の下で見つかっていないご遺体も山ほどある」
「俺が……もっと早く、止められていれば……!」
阿部は顔を覆い、血と硝煙と焦げた肉の匂いが立ち込めるアスファルトへ、深く俯いてしまった。
「いいや、お前が五分早く来ようとも間に合わなかったさ。アバランサーは元々陸戦用の兵器じゃない。どうしても市街地では味方への被害を恐れて扱いが慎重になる。だが、侵攻する相手は容赦しない。それはどの時代でも同じだな」
「でも、それで死んだ人や遺族は納得しませんよ! 助かる命があったはずなんだ! もっと早く来ていれば!」
「自分を責めすぎるな。その後悔は、必ずお前を駄目にするぞ」
小隊長は、阿部の肩を強い力で掴んだ。
「後悔を糧に出来ない兵士は、戦場で自分を追い詰めて死ぬ。だから、責めるな。俺たちは自衛隊だ。生きて国民を守る義務がある。……泣くのは、今日だけにしろ」
そう言い残し、小隊長は部下に呼ばれて瓦礫の撤去作業へと戻っていった。
「綺麗事だけじゃ、この世界は変わらないんすよ……」
阿部は一人、血まみれの瓦礫に座り込んで力なくこぼした。




