第二十三話 アバランサー戦
阿部はクサナギのスラスターを吹かし、戦域を見渡すために一度急上昇した。狙うは、後方で指揮を執っているであろう米国のアバランサーだ。
街路を覆う煙は、発砲による硝煙だけでなく、米軍が意図的に撒いた煙幕だろう。上空からレーダーと熱源センサーを精査し、左方の市街地に一つの巨大な反応を捕捉した。
「見つけた! M-35パトリオット。あんな重装甲機を市街地に持ち出すなんて、何を考えているんだ!」
眼下でアスファルトを踏み砕きながら歩を進めていたのは、冬の分厚いコートのような増加装甲を全身に纏った巨体だった。鈍重だが、生半可な火力ではびくともしない。無骨すぎるシルエットゆえに国内のウケは悪いが、前線の兵士からは絶大な信頼を寄せられる傑作機だ。
ペダルを踏み替え、姿勢制御バーニアで繊細に機体を操りながら、ビル風を縫うように降下していく。だが、パトリオットもすでにクサナギの接近に気づいていた。両腕のミサイルポッドが開き、無数の銃口がこちらを見据える。
「来るか……!」
言葉と同時、パトリオットから四発のミサイルが連続で射出された。
コクピット内に、甲高いロックオンアラートが鳴り響く。阿部は咄嗟に背部のディスペンサーからフレアをばら撒き、機体を捻ってビルの陰へ飛び込んだ。熱源を誤認した二発のミサイルが、隣のオフィスビルに突き刺さり爆発を上げる。
あの分厚い装甲にアサルトライフルは通用しない。阿部はビルの陰に隠れた姿勢のまま、背のウェポンラックからもう一つの得物――長刀型の近接ブレードを引き抜いた。
「ふぅー……耐えろよ、俺!」
そして、スラスターを最大出力で解放。ビルの壁面を蹴り上げるようにして、雲を突くほどの高高度へと一気に舞い上がった。
雲海を抜けた頂点、眼下のパトリオットの真上を取った瞬間、機体を真っ逆さまに反転させる。重力に引かれるままの猛烈な急降下。凄まじいGが阿部の全身をシートに押し付ける。
パトリオットの対空レーダーも上空の脅威を捉えたはずだが、真上からの質量落下という死角への対応は致命的に遅れた。彼らが上を見上げたときには、クサナギの刃はすでに眼前に迫っていた。
阿部は両手で操縦桿のグリップを握り込み、脇を締める。
落下による圧倒的な速度と、十七メートルの機体重量がもたらす運動エネルギー。そのすべてを刃先に乗せた一撃が、硬直したパトリオットの脳天へと直撃した。
ギィィィンッ! と、鼓膜を劈くような金属の悲鳴が轟く。
通常であれば、装甲に弾かれて刃こぼれするか、ブレード自体がへし折れる。だが、極限まで高められた重力加速度は、本来刺さるはずのない重装甲を強引にこじ開け、巨体の頭部からコクピットごと完全に串刺しにしていた。
パイロットは即死だろう。
操縦桿から手首へ伝わった、命を断ち切る生々しい破壊の感触。阿部の胸は、言いようのない虚無感と恐怖で一杯になった。やがて。主戦力であるアバランサーを喪失したためか、各地で抗戦していた米兵たちは続々と武装を捨て、投降を始める。
時刻は十六時すぎ。半日もかからずに、この不可解な武装蜂起はあっけなく鎮圧されたのだった。




