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第二十二話 クサナギの出撃

東京都内・極秘地下格納庫。


「阿部! いいか、旧型の『ヨシツネ』モデルとは完全に別物だと思え! 機動力も感応炉のフィードバックも桁違いだ、振り落とされるなよ!」


 ハンガーに横たわる純国産の巨躯――新型アバランサー・クサナギを見上げながら、ヘッドセットを着けた整備長が怒鳴るように注意を飛ばす。


「了解してます! 整備長、ハッチを!」


 一通りの説明を聞き終えた阿部一尉は、ヘルメットのバイザーを下ろし、胸部のコックピットへ滑り込んだ。

 メイン電源のスイッチを押し込み、精神感応炉を作動させる。暗闇だった全天周囲モニターが瞬時に立ち上がり、密室のコックピット内に外部の映像がぐるりと展開された。


『システム・オールグリーン。精神感応率、規定値到達』


「準備完了です! 整備長、射出を!」


「ちょっと待て! まだ地上部の避難完了報告が――」


 整備長が管制塔と怒鳴り合っていたが、やがてハッとしてコンソールを見た。


「……ええ? もう退避完了したんですか!? 了解、ただちに射出シークエンスへ移行します! 阿部、出すぞ!」


 けたたましい警報音と共に、クサナギを乗せた大型リニアエレベーターが地上へ向けて急上昇を始める。

 この地下格納庫の真上は、都内でも有数の巨大な都立公園だ。

 建設当時はオフィス街にそれほど巨大な公園を建てるのかと、市民団体から非難を浴びたが、人口密集地の東京で有事にアバランサーを安全に射出するには、この広大な空間を利用する他なかったのだ。

 上空の住民の屋内待機と公園の完全封鎖が確認され、ついに天井部のカモフラージュ・ハッチが重々しい音を立てて左右に開いていく。

 開口部から、見えなかった晴天がまぶしい光となって差し込んできた。暗い地下から這い上がるようにして姿を現したのは、白銀の装甲に包まれた十七メートル級の巨人。


「こちら阿部一尉。0-X2『クサナギ』、出撃する!」


 機体が地上へ出た瞬間、背部の新型スラスターが青白いプラズマの炎と爆音を噴き上げた。


「ぐっ……!」


 凄まじいGが阿部の全身にのしかかる。整備長の言う通り、スピードが段違いだ。東京のビル群を瞬く間に足元へ置き去りにし、クサナギは一直線に横浜方面へと進路を取った。


「待っていろ、みんな……!」


 雲を切り裂き、猛スピードで空を駆ける。総理を悩ませた莫大な予算を注ぎ込んだその高機動スラスターは、東京から横浜上空までの約三十キロを、たったの一分足らずで踏破した。

 眼下には、黒煙を上げる横浜の市街地が広がっている。阿部は直ぐさま、現地の防衛線へ向けて全域通信を開いた。


「こちら航空自衛隊・アバランサー隊の阿部一尉である! これより上空から敵機への援護射撃に入る。地上部隊は直ちに射線から退避されたし! 繰り返す――」


 しかし、阿部が大声で呼びかけた通信機から返ってきたのは、整然とした応答ではなかった。


『こっちに来るぞ! そんな話聞いてない――ギャアアアッ!』


『第一分隊、全滅! 駄目だ、装甲が抜けねえ! これ以上は防衛線を維持できま――』


『くそっ! 第八分隊は生きてるか!? あの黒いアバランサーをどうにかして止め……うわぁぁっ!!』


 ひしゃげた金属音と断末魔の悲鳴が響き、次々と部隊の通信ロストを知らせるノイズだけが虚しく残る。

 同盟国だったはずのアメリカ製アバランサーによって、日本の警察と自衛隊の地上部隊が一方的に蹂躙されているのだ。


「……みんな、逃げてくれよッ!!」


 血の滲むような思いで叫びながら、阿部は操縦桿を強く握り締め、クサナギの機首を地獄と化した横浜の街へと急降下させた。

 一気に急降下した衝撃波が、ビル群の窓ガラスを次々と粉砕していく。

 ――ここはすでに戦場だ。多少の被害を無視してでも鎮圧しなければ!

 阿部は道路スレスレで機体を水平に持ち上げ、立ち込める硝煙の中を突っ切る。眼前に現れたのは、クサナギへと一斉に砲塔を向ける米国製の主力戦車群。ざっと四、五個小隊はいるだろうか。

 背中にマウントした百二十ミリ口径のアサルトライフルを前方へ構える。精神感応炉と人工知能が連動し、全自動で目標の捕捉を開始した。視界の中でブレていた照準マーカーが、ピタリと一点に収束した瞬間、阿部はトリガーを引く。

 轟音と共に三十発以上の徹甲弾が吐き出され、前衛の戦車二輌を文字通りスクラップへと変えた。


「ふぅーッ……はぁ……っ、はぁ……!」


 直前、戦車の傍らにいた米兵と、モニター越しに視線が交差した気がした。実戦経験などない阿部の心臓は、肋骨を突き破りそうなほどに早鐘を打っている。ヘルメットの中で息が詰まった。


「――押し返すぞぉ!」


 戦車隊の制圧射撃から解放された味方の歩兵たちが、瓦礫を盾にしながら前進を開始する。

 ――残りの戦車隊は頼むぜ、先輩方!

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