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第二十話 緊急事態

 首相官邸――総理執務室。

 星波はペットボトルのお茶で喉を潤し、防衛省から上がってきた膨大な書類に目を通していた。明後日に控えた野党からの質問主意書に対し、防衛省幹部へ照会をかけていた回答案だ。


「……従来型のアバランサーは、一機製造するのに一千億円以上。量産機でその値段なのだから、次期主力となるクサナギの開発費となれば、三千億は優に超えてくる。空母やイージス艦を造るよりは安く済むとはいえ、他国と比べれば我が国の防衛予算には限界があるわね」


 頬杖を突きながら、書類の数字をなぞる。

 考え事に行き詰まると、つい独り言が漏れてしまう。激務の中で星波が未だに直せない、数少ない癖だった。


「野党からは間違いなく、この急激な防衛費の増額を詰められるわね。クサナギの高機動スラスター周辺の新技術開発で、さらに出費が嵩んでいるし……ええっと、そのスラスターの仕様は……」


 彼女が技術資料の細かいテキストに目を凝らそうとした、その時だった。


「総理ッ!」


 バンッ、と乱暴な音を立てて執務室の重い扉が開かれた。


「……どうしたの?」


 飛び込んできた秘書官の藤九郞を見て、星波は眉をひそめた。常に冷静沈着な彼が、ネクタイを歪ませ、額にべっとりと冷や汗を掻いている。異常事態だということは火を見るより明らかだった。


「落ち着いて報告しなさい」


「は……はい! たった今、横須賀基地の在日米軍の一部が武装蜂起しました! 装甲車両の部隊が基地を突破し……現在、横浜の市街地へ向けて侵攻、無差別な破壊活動を開始したとのことです!」


「っ……!」


 星波は両手で机を叩き、弾かれたように立ち上がった。手元のペンが床に転がり落ちる。

 命が蹂躙されているという事実だった。

 星波は上着を掴み、執務室を飛び出した。


「……すぐに国会周辺にいる全閣僚を、地下の危機管理センターに招集して。走るわよ!」


 星波は上着を掴み、執務室を飛び出した。

 官邸ロビーで待ち構えていた記者たちのフラッシュと怒号のような質問を、SPたちに制止させて足早に振り切る。

 ――官邸地下、危機管理センター。

 息を切らせて駆け込んできた閣僚たちを前に、星波は上座に立つなり、鋭い声で会議の幕を開けた。

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