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第十六話 ヴィクターの思惑

 国家軍事指揮センターに集められたアレックスら政府高官は、アルビオンの兵士たちは無数の自動小銃を突きつけられていた。アバランサーによる完全包囲ののち、続々と降下してきたアルビオンの歩兵部隊がペンタゴンを制圧していく。


「すでにペンタゴン全域の制圧を完了。残存兵力は順次捕縛しています。安全保障システムも全体の六割を掌握済みです」


 フルフェイスのヘルメットを被った女性兵士が、漆黒のパイロットスーツを纏う人物へと報告を上げる。


「ご苦労。……さて。アレックス長官、少し話し合いをしましょうか。この国の未来について」


 パイプ椅子に縛り付けられたアレックスは、額に冷や汗を滲ませながら相手を睨みつけた。


「話し合いだと? 武力で迫っておいて、交渉が成立すると思っているのか」


「それは申し訳ない。強引な手段に出るしか、皆さんに声を聞いてもらう方法がなかったもので」


「へっ! 顔も隠したテロリスト風情が、どの口で言うか」


「ああ、そうでしたね。これは失礼」


 男は一切の丁寧な口調を崩さず、ヘルメットのロックに手をかけた。周囲のアルビオン兵たちが止めようとするが、男は意に介さず素顔を晒す。


「お前……アメリカ人か? いや、アジア系か……?」


 アレックスが困惑したのも無理はない。

 ヘルメットの下から現れたのは、さらさらと揺れる白銀の髪だった。北欧の血を感じさせる透き通るような白い肌を持ちながら、どこかアジア人特有の繊細な顔立ちも併せ持っている。年齢すら不詳の、酷く整った顔だった。


「どこで生まれたか……それは、私自身にも分かりません。改めまして、私がヴィクター・アルフレッドです。お見知りおきを」


 その名を聞き、アレックスは目を見開いた。


「お前がヴィクターだと? ふざけるな。先ほど全世界に流れた映像の男と違うではないか!」


「さすがの記憶力です。ええ、あの放送で矢面に立ってくれたのは、私の右腕ですよ」


 ヴィクターが視線を向けた背後から、見覚えのある男――映像で熱弁を振るっていた、横髪を刈り上げた金髪の男が進み出てきた。


「たくっ。ネタばらしが早えよ、ヴィクター」


「悪いね、イオグランデ。でも、彼らに信用してもらうには嘘はよくないだろう?」


 イオグランデと呼ばれた金髪の男は「あっそ」と悪態をつき、手にした自動小銃を肩に担ぎ直した。


「信用だと……? 貴様らの目的は何だ」


「おや。大統領の安否は聞かないのですね? 普通は真っ先に気にする部分でしょうに」


「どうせ殺しているんだろう。アルビオンの建国を宣言するなら、現職の大統領は邪魔なだけだからな」


「――そこまで読み取るとは、流石です。元々殺すつもりはなかったのですが、退陣を強硬に拒まれたので、やむを得ず。大統領、副大統領、下院議長、上院仮議長もすべて射殺したのであしからず」


 ヴィクターはわざとらしく伏し目がちになり、悲壮感を漂わせた。


「猿芝居はやめておけ」


「あらら、酷い言い草だ。……実際、血はできるだけ流したくなかったのですよ。私たちはただ世界共生を成し遂げたいだけなのですから」


「一国共生などとほざく奴らがやることか。銃口を突きつけての話し合いなど、テロリストの常套手段だろうが」


「テロには屈しない、という強い意志ですか?」


「ああ、そうだ。偉大なるアメリカは――」


「ですから、我々はテロリストではありませんよ」


 ヴィクターの冷ややかな声が、アレックスの言葉を遮った。


「アメリカの横暴があまりにも続いたため、やむを得ず武器を取り、やむを得ずアバランサーで旧き体制を破壊したのです。分かりますか? これは正当な『大義』を持った革命なのです」


 馬鹿げた詭弁だと一蹴したい。だが、ヴィクターの眼差しには一点の淀みもなく、自身の行いが絶対的な正義であると信じて疑っていなかった。テロ行為に正義も不正義もあってたまるか、とアレックスは奥歯を噛み締める。


「アレックス長官。我々の力になってはくれませんか?」


「……は? 何を寝言を言っている。承服するわけがないだろう」


「あなたは優秀なリアリストだ。今、アメリカ合衆国が世界に置かれている状況を、誰よりも理解しているはずだ」


 ヴィクターはゆっくりと歩み寄り、アレックスの肩に手を置いた。


「軌道エレベーターの優先使用。月面資源の独占。圧倒的な武力による他国への恫喝。……今は良くても、いずれ世界すべてを敵に回し、アメリカは孤立する。防衛のトップであるあなたは、その破滅の足音に気づいていたはずだ」


「…………」


「私が提唱する一国共生。……本当はあなたも、心のどこかでそれを望んでいる節がある。少なくとも、耳を傾ける価値はあると思い始めている。違いますか?」


 耳元で囁かれる悪魔の誘惑に、アレックスは沈黙するしかなかった。

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