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第十五話 占拠

 同刻――アメリカ合衆国、国防総省・ペンタゴン。

 アルビオンによるホワイトハウス襲撃の第一報から、すでに三時間が経過しようとしていた。


「状況は?」


 国防長官のアレックス・デュゼルスは、タブレットを随伴の担当官に押し付け、国家軍事指揮センターの重い扉を開けた。

 ペンタゴンの中枢であるその巨大なオペレーションルームには、国内のあらゆる軍事・諜報データが集約されている。壁面を埋め尽くすメインモニター群の前で、数百名の職員が絶えず情報を精査し、国産スーパーコンピューターへの入力作業に追われていた。


「ホワイトハウスの包囲網は完了しているな?」


 フロアの中央、巨大な円卓に両手をつき、アレックスは陸軍参謀総長をねめつけた。


「はい。すでに機甲師団と攻撃ヘリ部隊を展開済みです。アバランサー大隊もスタンバイ完了していますが、周辺の民間人の避難が完了していないため、突入命令は今しばらくお待ちを」


「遅い。たかがテロリスト相手に何を躊躇っている。即座にアバランサー隊を出撃させろ。ホワイトハウスごと吹き飛ばすんだ」


「し……しかし長官! アッシュフォード大統領がまだ内部で生存されている可能性が――ホワイトハウスごと爆撃など、正気の沙汰では……」


 アレックスの冷酷すぎる命令に、参謀総長は息を呑んだ。


「残念だが、大統領はすでに亡くなられたものと考えるしかない」


 アレックスは感情の欠落した声で切り捨てる。


「それに、アッシュフォード大統領ご自身も私と同じ結論に至るはずだ。生存の可能性すら低い一人の人命に固執し、国家の威信を損なうより、テロリストを速やかに排除して国内の安寧を取り戻すべきだと。……私はそう考えるが、君たちは違うのか?」


 アレックスは振り返り、銀色の鋭い眼光でオペレーションルーム全体を見渡した。その氷のような威圧感に、職員たちは無理やり背筋を伸ばされる。


「――はっ! 直ちにアバランサー隊を出撃させます!」


「機甲師団にも、一斉砲撃の開始を伝達しろ」


 これで一件落着だ。アレックスは確信していた。

 大統領を失った手痛いダメージはあるが、新たな大統領を選出するまでの辛抱だ。むしろ、アバランサーを用いた前代未聞のテロは、世論のアバランサーに対する風当たりを一層強くするだろう。それは厄介だが、鎮圧さえしてしまえばどうにでもなる。


「アレックス長官!」


 不意に、通信制服組の兵士が血相を変えて駆け寄ってきた。


「鎮圧の報告か?」


「いえ、その……」


「何だ? 歯切れが悪いな。何が起きた」


 兵士は恐怖に顔を引きつらせ、指を上へ向けた。


「ペンタゴンの上空に……所属不明のアバランサー部隊が……!」


「は……?」


 アレックスは眉をひそめ、足早にオペレーションルームを飛び出した。

 ペンタゴンの中庭へ出ると、職員や警備兵たちが呆然と上空を見上げていた。アレックスもそれに倣い、空へ視線を向ける。

 そして、絶句した。


『――こちらはアルビオン代表、ヴィクター・アルフレッドである。直ちに投降せよ! アルビオンに仇なす者どもよ!』


 曇天の空に浮かんでいたのは、一機の漆黒のアバランサーだった。

 細身のシルエット。背部とふくらはぎに剥き出しの大推力スラスターを備えた、見るからに高機動特化を意識した機体。

 だが、絶望はそれだけではなかった。

 漆黒の機体の周囲には、十機を下らない見慣れぬアバランサーが編隊を組み、ペンタゴンを完全に取り囲むようにして滞空していたのだ。その腕に抱えられた巨大なアサルトライフルは、すべてこの中庭――アレックスの頭上へ向けられている。


「一体……ホワイトハウスの部隊は、囮だったというのか……!?」


 情報では、敵の本隊はホワイトハウスに立て籠もっているはずだった。だが、目の前の光景は、彼らが瞬時にしてこのペンタゴンまで飛来したことを示している。

 圧倒的な機動力と、情報網の完全な掌握。何が起きたのか、国防長官であるアレックスにすら理解できなかった。


『貴官がアレックス・デュゼルス国防長官だな?』


 漆黒のアバランサーから、外部スピーカーを通してヴィクターの声が響く。

 機体がゆっくりと高度を下げ、アレックスの眼前へと迫る。

 一八メートルの鋼鉄の悪魔を間近で見上げた時、アレックスの心に湧き上がったのは恐怖ではなかった。ただ、圧倒的な暴力の前に膝を屈するしかないという、生に対する絶対的な諦めであった。


『投降せよ。さすれば、無益な血は流さない』


「…………分かった」


 アレックスは、力なく首を垂れた。

 こうして、ホワイトハウス襲撃からわずか半日。ヴィクター率いるアルビオンは、世界最強の軍隊を擁するアメリカの中枢機関を、完全に制圧してしまったのである。

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