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プロローグ ある少女の独白

 初めに、この物語はフィクションである。

 実在する国名、建物、軍隊組織の名前が出てくるが全くの無関係であること、また時代も百年以上後に設定しているのは、ある程度の自由的解釈を持たせるためでもある。

 そして戦争を助長する作品ではないことを留意して読んで頂きたい。 

               著者


 世界にそれが出来たとき、戦争を呼んだ。民衆が揃って否定しても結局は政治家に押し通され、ついには完成してしまった。

 世界にそれが出回ったとき、国が一国滅んだ。量産が進み、戦争は加速した。

 各国は予期していたのか、予期していなかったのかは分からないが。情勢を鑑みて、民間人から軍人を徴兵した。反対意見も勿論出たが、抵抗空しく徴兵された。

 そして、世界は大戦を始めた。

 人型有人兵器『アバランサー』を使って。


 私がその機体を間近で見たのは、アメリカへ留学していた時のことだった。

 フロリダ州の大学で機械工学を学び始めて一年。友人も増え、英語での生活にも慣れてきた頃だ。

 アバランサーの台頭により、各国が軍事産業へ傾倒し始めたこの数年、世界中で硝煙の匂いが濃くなっていた。

 そんな中、私がここへ来た目的は、老人介護に役立つロボットを作ること。しかし、今のアメリカはアバランサー開発に巨額の予算を投じており、学友の多くも整備や研究といった軍事技術職を志望している。「介護ロボットのため」などと口にすれば、変人扱いされかねない空気があった。


「おー! ミサキー! 会いたかったよ!」


「ジェシカ、一限で会ったばかりでしょ」


 全身で抱きつき、頬を擦り寄せてくるジェシカを私は苦笑いしながら受け止める。


「それでも寂しかったのよ。ねえ、どうしてアバランサー工学を取らないの?」


「言ったでしょ、興味がないの。せっかくの技術が兵器転用されるなんて話を聞くと、なおさらね。戦争の道具を学ぶなんて、結局は殺し合いの片棒を担ぐことと同じじゃない」


 ジェシカは胸元まであるさらさらな金髪を耳に掛け、心底不思議そうな顔をした。


「どうして? ロマンがあって最高じゃない。機械科に進むなんて、みんなロマンを追い求めてるものよ。アバランサーはかっこいいし、自分の手で飛ばしてみたい。隅々まで研究したい。そうでしょ?」


 彼女の考えが極端なわけではない。アメリカの、特に若者の考え方は大抵こうなのだ。技術と戦争を結びつけて忌避する私の方が、ここでは異端らしい。

 元来は災害時の瓦礫撤去用に開発された機体だったが、いつしかそれは破壊のための道具へと姿を変えていた。


「それに、我が国アメリカ合衆国は世界最強よ? そんな国に戦争を挑む馬鹿な国はないわ。強力なアバランサーを持つことは他国への牽制になり、米日同盟をも強固にする平和の礎なのよ」


 日本人の私にもメリットがあるのだと、ジェシカは無邪気に同意を求めてくる。


「おい! あれ見てみろ!」


 その時、工学科の男子学生が叫んだ。彼は大窓に張り付き、空を見上げている。


「あれが新型か?」


「ゴツゴツしてんなあ」


「本当に空を飛んでる……」


 学生たちが続々と窓辺に集まり、目を輝かせながら青空を指差している。私もジェシカに腕を引かれ、中庭へと出た。直後、ジェット機のような爆音と共に、その機体が視界に飛び込んできた。戦闘機ではない。明らかに異質なシルエット。人を模した二足歩行の鋼鉄が、今まさに頭上を飛翔している。


「あれが、アバランサー……」


 確かに、ジェシカの言うロマンは分からなくもない。私も技術者の端くれだ。けれど、二度の大戦や冷戦を経てもなお、人類が戦争の道具を作り続けるという事実に、私は辟易していた。

 そして、この光景から五年後。二一一二年――アメリカ合衆国は突如として、滅亡した。

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