5-25
僕が気絶した後、戦いはすぐに終わったらしい。
直後におっちゃんがつれてきたミレイユの知人が到着。
その耳の長い2人組が実に強かったってフレアが興奮気味で語っていた。
槍と弓を持った美しい2人は戦い方も美しかった――なんてノヴァの弁。
相当強かったらしく、ゼラチナスマターの群れはあっさり壊滅。
しかも僕を診て「軽いけど」と言って回復までしてくれたそうだ。
お陰で夜には僕は目が覚めて、起き上がることも出来た。
当然、みんな無事。
となれば当然――宴だ!
「待て! キマイラ! この村はフレアが守る!」
無論よくわからない劇が始まる。
しかも、内容はさっきの戦い。
言うまでもなく主役はフレアで主演もフレア。
当たり前だが、誰も異論はなかったようで。
ノヴァもノリノリでキマイラ役をやっている。
「グァァァオォォ! クッテヤル」
「ぐあああっ」
なんか言葉を喋ってる。
そんなキャラじゃなかったはず。
ともあれ楽しそうだ。
「ママさん。大丈夫だったの? そのお腹」
「ええ、大丈夫よ。元気元気。食べたいよーって蹴ってるわ」
「そっか良かった」
「いやーフレアちゃん。やられちゃうぅぅっ!」
流石にママさんは劇に夢中。
邪魔するのは悪いか。
「ガーネットの方ってどうだったの?」
「んー頑張りました」
「え」
「――術の力がすぐなくなった」
「ああ、術酒は――まあ、飲みきっちゃうか」
「うん、箱一杯飲んだけど。私の魔力じゃ。一本飲んで2体――はちょっと足りないって感じだから。ま、焼石に水でね」
「――逃げたくても後ろが燃えてるし」
「ああ、キマイラの」
「ノヴァはそっち行きたがってたけど――駄目ね。足引っ張っちゃった」
「――修行するぞ修行するぞ修行するぞ」
「はいはい、何かやる気だしてんのよ。この子が」
「――バフ使えないんだもん」
魔族には効かない。
ガーネットも肉体強化を求めてない。
使える相手がポリーくらいしかいない。
「町に出て術買わないとね」
「――キマイラ勿体ない」
「勿体ない?」
「ほら」
とガーネットは劇を指差す。
「うわぁぁぁぁいくぞぉぉぉっ!」
「ちょ、ちょっと早いっす」
フレアが剣を大上段に構え。
ポリーがよじ登って緑の炎を演出。
炎って言うか草なんだけど。
「スーパーフレアァァァッ!!」
「グアァァァァァ。やあらあれえたああぁぁぁ」
やはり人間くさい表情と台詞で、ゆっくり倒れていくノヴァ。
「くぅぅぅぅっ、何度見ても感動の瞬間ねぇ」
感動――か。
分からない。
やはり魔族は分からない。
「爆発しちゃったんでしょ?」
「ああ、そっか。素材がとれなかった?」
「ほっとんど駄目だったぜ」
「うわっミレイユ。ゼラチナスマター役は?」
「終わったよ。最初だけだぜ出番。居なかったからってちょい役はひでぇよな」
「――出たかった?」
「いや、まあ――折角ならな? やるなら良い役がいいだろ?」
照れながら肉にかぶり付く。
今日のメインディッシュキマイラのもも肉。
「うーむ、やっぱり一回火が入ってるからかな。もも肉の癖にパサつく」
「フレアの炎で?」
「ああ、焦げてない部分を集めたんだけど。しっかりウェルダンだったぜ」
「へぇ、でも味はいいじゃない? 魔味だけならボアよりも」
「――食感は残念。総合ではボア優勝」
「確かに」
比べて食べなくてもボアの勝ち。
魔力量ならキマイラが圧倒しているだろうに、魔味だけでは決まらない。
料理の奥は深いなと思いつつ、向こうの劇は終わりを迎えようとしていた。
宝玉の間の奥から馬車が走って来る。
乗っているいるママさんとヴィーィがゆっくりと降りてフレアを指差す。
「誰だお前はっ!」
「妖しい奴」
「地獄からの騎士! スーパーフレア!」
どうやら助けに来てくれた2人は最初フレアを敵と思ったらしい。
「待て待てそいつぁちげぇ」
おっちゃんが止めて事なきを得た。
そしてフレアもここで魔力切れで倒れる。
劇は終了。
「あぁぁ良かったわっ!」
「流石だフレア。まさか自分の名前を必殺技に組み込むなんて――先を行かれたよ」
「でしょでしょ!」
ノヴァがフレアを持ち上げて回す中、みんなで拍手だ。
よくわからないイベントだけど、取り合えず良かった。
「そういや、あの助けてくれた2人ってどうしたの?」
「ゼラチナスマター一掃した後。ここのことをちょいと聞いて――えーと、俺は魔獣の素材拾ってたからな」
「おう、坊主に回復掛けてから帰っちまったぜ」
「でも、おっちゃんはいるけど」
「何か走ってもかわんねぇって」
「ええーグラールと?」
「化物ね」
「――ノヴァみたい」
「だからノヴァくらい強いっつったろ?」
「まあ、ちょいと相棒を馬鹿にされたみてぇで悔しいぃがな」
グラールが首を振って嘶きながら肯定。
多分「次は負けん」見たいな声を出しているのだろう。
そのくらい気合いが見えた。
「なぁ、そうだ。坊主よ。相棒をフレアみたいにできねぇか?」
「フレアみたいって?」
「スーパー化って奴だよ。緑になったんだろぉ?」
「ああ『ヒーロー』化だよ」
「あ、そうなんだ? フレアがずっとスーパースーパー言っているから」
「ううん『ヒーロー』ここは譲れない」
「お、おう。ネーミングにはうるせぇよな坊主って結構」
「決まってるものだから」
「まあなんでも良いけどよ。やってくれよぉ。きっと面白いぜぇ。角ぉ生えたりよぉ雷とか落とせるようにならねぇかな? あ、羽生えてとべんじゃねぇか相棒なら!」
確かに面白そうだ――と思った。
けど今は出来ない。
フレアも今は元に戻っているし、宝玉を操作しても『今は出来ません』と出る。
魔力が足りないか、何か条件があるらしい。
「不敬だぞ、イグ。女神様のつくりし、いと高き空を所有しようなどと言う思想」
「いや、そうじゃねぇって。かてぇな」
「幾らお前でも駄目なものは駄目。何物も触れてはいけない領域というものがある」
「今日の魔獣は空を飛んできたけど」
「しかし、死んだ。いや、だから死ななければならなかった。もしくは女神様の賜物だな。我らに与えられた試練」
「スーパーフレアになるための試練だったのだっ!!!」
「ふっそうだな。そうかも知れん。しかも見事応えた! 凄いぞ2人とも」
「やったねカイト!」
「えっ? 僕」
「そりゃそうでしょ」
「カイトちゃんが居なきゃスーパー化してないんだもの」
「ああ『ヒーロー』化ね」
一応訂正しておいたけど。
気になったことがあった。
――そうだろうか?
違和感があった。
空を飛ぶことが許されない?
有り得るのか?
「空は駄目?」
「ああ、駄目だ」
「なら――鳥とか虫は?」
そうだ。そういう飛ぶ生物は他にも――
「とり?」
「――むしって?」
「だから鳥とむ――えっ?! あっああっ!」
この反応は――知らない。
そう知らない僕の常識だ。
ひょっとして、この世界には――
いやそうだ
僕は見たことがない。
生まれてから一度も空に雲以外の影があるのを、
こんなに森の近いのに、この森でも虫を一匹も見たことが
――ないんだ




