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5-24


 広場は地獄と化した。

 赤く燃える炎が一瞬で、緑黒に上書きされ。

 肌を灼くくすんだ炎、吸い込んだ空気で肺が爛れそうな熱。


 そんな緑黒の焔の中心に、フレアは立っていた。

 角を燭台に髪を焔のように立ち上らせた姿。


 獄炎騎の名に相応しく、不吉で不穏――不敵な笑みを浮かべ、不遜な態度で目の前のキマイラを見下ろし笑い声を上げた。


「ふっふふっ! あははっ! あーっはっはっはっは!」


 まるで今までと違うフレアの姿に、不安を覚える。

 それはママさんも同じなのか僕の腕を掴み、強く握った――けど。


「あれは――魔族笑い三段活用」


 出て来た台詞は間抜けそのもの。


「えっ、一体何を――うわっ!」

「喰らえ、地獄のヘルファイア


 問いただしたかったけど、フレアの台詞にかき消された。

 右手から更なる炎が吹き出て――もはや外には立っていられないほど熱い。

 僕、ママさんとヴィーィは宝玉の間に引っ込み熱を避ける。


 頭上に掲げた剣から上る炎は――天を衝く勢い。


 フレアはそれを静かに振り降ろす。

 いや音は遅れていただけっだ。

 振り切った後に耳を叩く弾けるような音。

 音を置き去りにした証。


「きま――あれ? なんで――」


 ただ、フレアの剣はただの鋼鉄の剣。

 こんな炎に、こんな振りに耐えられるわけもなく。

 剣は遠心力でバラバラになっていた。


「あぁ――剣が」


 熱すぎる炎の熱で柔らかくなった鉄。

 早すぎる振りで生まれた強すぎる遠心力に引っ張られた。

 刃に対して横に沢山の亀裂が入り、16等分に分かたれる。


 キマイラの7つの目が笑った気がした。


「不味いフレア!」


 けど、それは一瞬のこと。

 フレアが半身を翻しながら腕を戻すと、バラバラの剣がついてくる。


「どうなって――」

「炎を繋げているのでしょうか?」


 ヴィーィすらも声を上げる異常。

 バラバラの剣が一本の炎の糸で繋がっていた。

 戻した腕についてきて、鞭のようにしなる。

 かつて世界にあった奇妙な蛇腹の剣のような。


「あれは――伝説の魔族剣! 凄いわなんて格好良いの! ママも使いたいわっ! フレアちゃん後で貸してっ!」

「えぇ、ママさん――あの。ちょっと真面目に」

「あら、大丈夫よ――本当にもう大丈夫」


 ママさんはさっきまでの絶望的な表情じゃない。

 既に何時もの調子に戻っていた。


 というより、お茶らけている時のそれだ。


「いや、そのあんな姿になって。そもそもあの魔獣に勝てるかどうかも」

「勝てるわ」


 完全に信頼している。

 実際その通りにフレアはキマイラを圧倒した。


 魔族剣とかいうほとんど鞭となった剣で遠距離から切り裂く。

 山羊を蜥蜴を叩くようにすれば。

 先程まで喉すら切れなかったというのに

 蜥蜴の鱗は溶けるように砕けて

 山羊の角はすぱっと2つに分かたれた。


 別れた分、射程が伸びている。

 キマイラの爪も牙も尻尾すらも届かない。

 一方的な攻撃にキマイラの為す術は――一つ。


「ガぁぁぁぁっ!!」


 蜥蜴の咆哮。

 大きく開いた口、喉奥から覗く赤い光。


「さっきの熱風だ! ママさん。下がって」

「だからカイトちゃん大丈夫よ」


 緑の世界の中、キマイラの赤い熱の波が押し寄せる。

 フレアは避けない。

 立ったまま左手をかざす――と、熱風は萎んで消えた。

 まるで何もなかったかのように、熱と一緒に衝撃ごとどこかにいった。


 あとに残るのは小さな緑の焔のみ。


「やっぱり! 見てみて、魔族同じ属性の上位だから効かない理論よ! 凄いわっ!凄すぎるわっ! 高等テクなのよあれ!」

「あの――えっ何それ――魔族を付ければ何でもありなの?」

「でも実際そうなってるでしょ。やー凄いわフレアちゃん! 流石よ流石ぁっ!」


 『ヒーロー』になったというのは僕にしか知らないこと。

 勿論何かしたのは分かっただろう。

 フレアに何かあったのは分かるだろう。

 けど何だろうこの安心している感は。


「逆になんでカイトちゃんは、そんなに心配そうな顔なの? フレアをああしたのはカイトちゃんなんでしょう?」

「そう――だけど――あの姿はとても」

「そうでございます。あの緑の炎は――」

「大丈夫だって。変わってないわ。私の目にそう映っているから」

「目?」

「ええ、魔族の目は赤いでしょ。つまり?」

「魔力が多い?」

「だからよく見えるのよ」


 フレアの唾液。

 そういえば傷に効いた。


「体内の魔力の量までね。今までにない大量の魔力が流れたから、ちょっとびっくりしちゃったけど。間違いなくいつものフレアちゃんよものすごく魔力の量が多くて、ちょっと溢れちゃってるけど」

「ちょっと――?」

「ふふっ、体内の魔力からすればね」

「あれで? じゃあどれだけ今は魔力があるの」

「だから負けないわ。いえ、もう勝負にもならないでしょう」


 ママさんのいう通りだった。

 熱風が最大の射程だったキマイラに打つ手はなく。

 ただ遠距離から魔族蛇腹剣で削られていくだけ。

 鱗は剥がれ、目が貫かれ、毛皮は裂かれ、爪は砕け、角は折れ、牙は抜け。

 もはや可哀想と思えるほど。


 フレアもそう思ったのか、剣を引く。

 蛇腹を納めて一本の剣に戻し、力を込める。


「決める気ね。いけー! フレアちゃん!」


 フレアは両手で剣を掴み、力を込める。

 身体中から激しく立ち上る緑黒の焔。

 雲ごと吹き飛ばすが如く、空まで上がるほど、高く強く。


 それを剣一点に集中させ――突いた。


「いくぞ! 必殺っ! スーパァァァァー」


 あまりにも遠い距離からの突き。

 くすむ光に目が眩み、早すぎたのもあって良く見えなかった。

 それはキマイラも同じだったのだろう。

 一瞬で剣は伸びて、獅子の頭から尻尾まで刺し貫いていた。


「フレアァァァッッ!」


 大爆発。


 弾ける頭。

 降って来る血肉。

 キマイラは飛び散って消えた。


「ああぁっ何てこと――」

「ママさん。大丈夫?」

「お腹に障りが?」

「凄いわっ。自分の名前を必殺技の名前に組み込むなんてっ。パパすら出来なかった――偉業よっ! きゃー」


 久々に意味が分からない。

 そう思ったら、少し気が抜け――ぐるりと世界が回った。


「カイトちゃん!」

「カイト様!」


 怪我は治ったわけじゃなくて、ただ死なないだけだ。

 ぶり返す激痛の中、意識は遠のいて言った。



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