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5-23


 僕は弱い。


 けどキマイラにダメージを与えられた。

 フレアと違って。

 何故か。

 上手く隠れたから

 違う。

 捨て身だったからだ。

 フレアは生きて帰ろうとした。

 でも僕は違う。


「よしっ! 手応えっ――ぐああっ!」


 腹に走った衝撃に声が上がる。

 視線を降ろせば腹にはねじれた角がねじ込まれている。


 痛みより熱い。

 そして身体の浮遊感。

 上に吹き飛ばされた。

 屋根の遥か上まで飛ばされて――止まる。

 投げられた力と重力の均衡が取れたのは脳内の俯瞰と一致する視界の高さ。


 その浮遊感は一瞬で。

 すぐに身体は重力に負けて落下していく。


「カイトぉぉぉっっ! うわぁぁぁっ!」


 落下中の耳にすら届くフレアの声。

 落下中の目にすら映る赤いフレアの髪。


「いや――やったのか」


 目に映った赤は振り上げた剣、その鍔から走った――焔の輝き。


 魔法で生み出された炎は渦を巻いて剣から伸びる。

 大きく大きく育って、キマイラを飲み込む。


 その姿を身ながら地に落ちた。


 僕は命を掛けた。

 といっても命じゃないライフだけど。

 予定通りにことを運んだ。

 ライフ1つでここまでの成果を出せるなんて――実に満足した。


 けど予想外だったことはある。


 痛い。

 あまりにも痛い。

 全身がバラバラになりそうだ。

 かつて死んだ時は病気だった。

 ろくに歩いたこともない僕がした怪我といえば、せいぜい紙で指を切るくらい。


「病気の苦しみとは――違うな。単純な痛み――きつい――」

「カイト様っ! ご無事にございますか」

「あ、ああ――痛い。けど、ふっふふっ。想像通り――死なない」


 何故なら僕のライフは3つある。

 僕は宝玉と同じ領土の弱点だからだ。


 タワーディフェンスゲームにおけるライフ。

 それが僕にも適用されているはず。


 腹を刺し貫かれても。

 骨がボロボロに折れても。


 絶対に2回は死なない。


 けど想定外はまだあった。


「フレアちゃん逃げてぇぇぇぇっ!!」


 ママさんの絶叫。


「ガぁぁぁぁっ!!」


 キマイラの咆哮。

 大きく開いた蜥蜴の頭の口の中。

 赤い光――フレアの魔法剣と同じ色の光が喉奥から丸い光が飛び出す。


「いやぁぁぁぁぁっ」


 ママさんの声とともに、熱と風が叩きつけられた。

 肌は焦がれ、身体は宝玉の間の壁にぶち当たる。


 広場は炎に包まれた。

 松明は一瞬で燃え尽きて、濡れた草すら燃え上がり。

 屋根からは爆ぜる音が聞こえる。

 向こうのノヴァの家と僕の家までも届く広範囲の熱風。


「な、キマイラも炎が――耐性があったんだ」


 毛皮の間から、口の端から、まるで鎧のように炎を纏って立っていた。


「フレアちゃん、フレアちゃんがっ――ねぇフレアちゃんがっ!」

「えっあっ――ああぁぁ」


 獅子の口から漏れる炎は強く吹き出していた。

 明らかに違う炎だ。

 その炎の向こうには垂れ下がる腕。

 大きな牙には大きな角――口の反対側から垂れただらしない足。


「フレアっ」

「ねぇ何とか」


 ママさんの悲鳴、悲痛な叫び。

 キマイラの口から、だらしなく垂れるフレアの手足。

 弱まっていく炎の勢い。


 それは命の灯火とリンクしているように見えて。


「ノヴァァァァァッ!」


 ママさんも必死で助けを呼ぶ。


 僕のせいだ。

 甘かった。

 幾らフレアの成長著しく。

 まるで違う生物かのような戦闘能力を有していても。

 本当に覚醒して魔法剣を使えるようになったとしても。

 安心しては行けなかった。


 そもそもからして――

 森を抜けたい。

 向こうを見たい。

 一人で行けという話だ。


 自責の念がある。

 いや――あった。


 けど、僕の頭は妙にクリアになっていた。


「ママ様――逃げてください。時間は稼ぎます」

「でもぉでもぉフレアちゃんが」

「もう打つ手は――」


 何故か、僕の頭はすっきりとした晴れ晴れとした、燦燦と陽が輝いたよう。


「――あるっ!」

「カイトちゃんっほんと?1」

「何を」


 僕は振り返って宝玉の前に立つ。


「来い来い来い来い来い――来いっ!」

「カイト様」


 画面には映るのはいつもの画面。

 並ぶ塔と魔術師のアイコン。

 そこに下から新しいアイコンが現れる。

 チェーンの掛かった人の横顔のアイコン。


 掛かれた文字は『ヒーロー』


「来たっ!」


 タワーディフェンスゲームに置ける『ヒーロー』とは。

 塔以外の”強力”な戦力だ。

 自由にマップを動き、敵を攻撃。

 スキルを使って敵を殲滅することも可能。


「居たっ! フレアっ!」


 『ヒーロー』のアイコンを連打。

 変化した画面には横5縦2のマスに3頭身のキャラクターアイコンが並ぶ。

 村のみんなのアイコンだ。

 残念ながら僕のはない。

 やはりヒーローにはなれないらしい。


 けどそんなことより一番左上だ。

 赤髪赤黒い肌大きな角の女の子――『フレア』と名のついたアイコンを連打。


 出て来るダイアログは全部『yes』だ。


『ヒーローにフレアを指名しますか?』


「するよ! 分かり切ったことを聞かないでくれ」


 タワーディフェンスゲームにおける『ヒーロー』とは。

 単に強いだけじゃない。

 塔じゃないからHPがある。

 HPは敵の攻撃を受ければ減る。

 0になれば死ぬ。


 割とすぐ0になる。

 なのに、ヒーローは強い。


 何故なら、ヒーローはHPが0になっても蘇るからだ。

 何度死んでもその度復活する。

 そして僕のこの力はそれを完全に再現するはずだ。

 神の摂理を曲げようとも。

 命が3つある人間すら出来たんだ。


「よしっ! ママさんっ! フレアはっ!」

「えっ――えっあっ――何、この魔力――フレアちゃんっ?! 指が動いたっ!」


 変わらずキマイラの口に捉えられたフレア。

 ぴくりと指が動いたのがママさんの目には映ったらしい。

 間に合った。


「やった――ならもう負けることはな――」


 安堵は束の間だった。

 キマイラの口から漏れた炎が突然変わった。

 赤と白の煌めく炎だったものが。

 緑と黒のくすむ炎に。


「ふっふふっ、ふあはっぁっ! あーはっはっはっはぁぁっ!」


 そして狂ったように笑うフレア。

 キマイラの口を腕でゆっくり押し上げて、身体を出すと。

 まるでベッドから降りてくるように、さも当たり前のように、苦もなく地にたつ。

 緑黒に燃ゆる髪。

 緑にくすむ瞳。


――本当に良かったのか?


 嫌な汗が流れた。


 頭に思い出されたのはさっきのダイアログの文字。

 その不吉な言葉だ。


獄炎騎ヘルナイト フレアに進化しますか?』


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