5-22
塔を3種出して、キマイラに効果のある攻撃を見極める。
そして宝玉でその塔を強くする。
「フレア、矢も石も魔法弾も当たらないからっ!」
「分かった!」
最初に飛んだのは矢。
ついで魔法弾。
どちらも尻尾で払うと、キマイラは鼻から息を吐いた。
がっかり――いや小ばかにしているのか、鼻で笑った。
そして遅れて投石。
フレアは大きく動き、わざとらしく落ちて来る石を避けた。
これはキマイラも避ける。
何故なら自分と戦えるフレアが避けるほどだから。
キマイラも警戒した。
2人の間に石が降り注ぐ。
その瞬間、フレアは石の中に突っ込んだ。
虚をついた一撃。
「くそーっ! これでも駄目だー」
「そんなに硬いなんて――あ、フレアっ! 危ない!」
「えっ? うわぁぁっ!」
石の隙間から伸びた影。
尻尾の蛇が石ごと、フレアの足を払う。
「いやぁぁっ! フレアちゃん! フレアちゃん!」
「だい――丈夫!」
フレアは飛びあがりながら立ち上がると、払われた右足を踏み込んで見せる。
脛当ての泥汚れが蛇の鱗状になっているけど、防具は無事のよう。
ミレイユの見立て通り、ちょこまか素早いフレアの機動性を殺しに来た。
「投石の影を逆用してくるなんて――」
知恵がある。
同じ魔獣でもボアとは違う。
ボスだ。
場違いな魔獣。
桁違いな強さ。
タワーディフェンスゲームにおけるボスのポジションだろう。
ボスはそう簡単に倒れない。
基本的な攻略は長い距離を歩かせる、だ。
その間塔で討ち続けて少しづつ削る。
けど、今は距離がない。
ここで止めないといけない。
なら強い塔か――強い味方が必要だ。
今は全部ない。
塔を2本引き上げたのにノヴァは来ない。
異変には気付いているが、離れることが出来ていない。
厳しい。
塔の攻撃もどれも意味を為しているとも思えない。
どれを上げるか。
どれなら効果的か。
どれならダメージを与えられるか。
射手塔の矢――意に介していない。
投石塔の石――視界を防ぐ効果はあるけど、ダメージは矢に同じ。
魔法塔の弾――毛皮を少したわませる程度。
どれ――でも無理だ。
そもそもポイントの塔への割り振りは劇的な効果はない。
あるにはあるけど、ツリーの先に固まっている。
今振れるのは『攻撃力を10%上げる』か『攻撃速度を10%上げる』だけ。
それを3つ振ったところでどうにかなるとは思えない。
「くそっ何か――!」
宝玉の方へと振り向く。
ママさんは怯えている。
ヴィーィはママさんを庇うように立って奥へつれて行く。
ノヴァは――動けていない。
当然ガーネットたちも。
こいつに対処できるのは僕とフレアだけ。
塔が効果ないなら僕に出来ることは――
「――フレア! 魔法剣だ」
「でもまだっ!」
「一瞬、隙をつくる」
「でも」
「やるんだ。今ここで。練習はしているんだろう?」
「でもでも」
「出来る。出来るさ。強い相手の方が燃えるだろ?」
フレアは成長の余地が大きい。
魔族の中でも大きな角を持ち、冒険者としても経験を積み始めたところ。
もっとも成長する時期――のはずだ。
「燃え――る」
「ああ、燃える。逆境こそ成長のチャンス。ここで覚醒しないでどうする」
「覚醒――覚醒。やってみる、やってみせる!」
フレアに発破を掛けて、僕も斧を構えた。
僕が参加しても足を引っ張る。
それは分かっている。
斧の全力でも多分傷もつかない。
それは分かっている。
そしてそれはキマイラも分かっている。
「守らなくていい。攻めるんだ!」
「うん、いくぞぉぉっ!」
僕に出来ること、やっぱり塔を扱えるということ。
塔を理解しているということ。
キマイラにとってこの固有な攻撃は初体験。
幾ら知性が高く、逆用してくるといっても。僕より上はない。
例えば塔が解体出来ると分かっているのか。
作り直せると分かっているのか。
全部同じ塔に出来ると分かっているのか。
「建てろ――投石塔」
投石塔の攻撃は音で分かりやすい。
ぎりぎりと弓を引き絞り、抑えた縄を解き放ちひゅっと空気を切る。
スプーンに弓に当たる衝撃で、大きながごんという音とともに石が放たれる。
塔が立つ速度は覚えた。
音を頼りに3つ建てた。
攻撃タイミングがちょっとづつずれるようにだ。
「――フレアっ! 合図をしたら行ってくれ!」
無言で頷く。
凄い集中力。
キマイラもただ事ではない気合いに警戒をしている。
僕はしゃがみこんでぬかるんだ地面を掬う。
泥を顔に塗り、身体に塗り、服にも塗って――音を待った。
「今だ!」
「わあああっっ! でろーーっ!」
解き放たれた石。
雄叫びを上げるフレア。
キマイラの注意は僕には払われない。
石の後ろで泥に塗れ、迷彩を施した。
僕の姿は完全に石に溶けたはず。
それは僕からも同じ。
けど脳内では違う。
俯瞰で見られる僕にはキマイラの向きが分かる。
攻撃が見える。
位置が分かる。
「――ふぅ――」
石の雨が僕を透過していく。
重そうな石なのに地面への着地は極静か。
久しぶりの有り得ない違和感。
鈍い音を上げるのはキマイラの身体に当たる石のみ。
もはや俯瞰は要らない。
もはや気配を殺す必要はない。
音を頼りに音に紛れて走り出す。
駆け抜けた先にあった哺乳類の目。
山羊特有の横長の瞳ではなく、猫科の縦に伸びるタイプの瞳孔。
鋼鉄の剣が通らない毛皮を持つキマイラ。
果たして目すら鉄を通さないのか。
僕は飛びあがりながらその目に斧を叩きつけた。




