5-16
その日の朝、村にはフレアの声が響いた。
獣のような、大きく、遠くまで届く雄叫び。
「うぉぉぉぉおおっ! かっくいー!」
「うっほほうほほっす!」
魔獣や魔物ですら逃げ出しそうな歓喜の声が僕を目覚めさせた。
「んー」
「おはようございます」
「おはよう何かあった? この声って」
「フレア様とポリー様の防具が完成したとのことでございます」
「あーそっか、ミレイユがそろそろって言ってたかも」
久しぶりに1人の朝食。
1月近くも掛けた防具の出来は僕も気になる。
急いで食べて広場に行くと、既に防具をつけたフレアとポリー。
それ以外にもみんな集まっていた。
「格好いいわよフレアちゃん!」
「へへ、そうでしょ! あ、カイト!」
「おはようみんな」
「おはよううございます」
「どう? どう? かっこいいでしょ!」
くるりと回って見せて来る。
思ったより軽装な防具で、胸当てと足と手に少しだ。
お腹と肘と膝も出ているくらいの軽装だった。
「ウチのもどうっすか? この兜!」
「ポリーちゃん強そうよ!」
逆にポリーは重く見えた。
大きな丸兜が目立って、エプロンみたいな前掛けも新しくついて。
前から見ると防具のない場所が手と兜から飛び出た耳くらいだけだ。
「おお、似合ってるよ。格好良い。この素材の柄がいいね」
「でしょ!」
防具は金属製――おっちゃんが持って来た鉄を溶かしていた。
ただ普通の鉄じゃなくなっていたようで。
複雑な年輪のようなマーブル模様のような柄が黒の濃淡で浮かび上がっている。
「ちょっとだけ鱗かなって思ったっすね。前掛けは特に」
「ああ、確かにそう見えるな」
かつての世界で言うブラインドのような連なった形状だ。
鱗製と言われても納得してしまう。
「鱗ってなぁ。そんな素材と一緒にしないでくれよな」
「買ってくれた奴って、そんなにいい鉄だったの?」
「んな高ぇもん買えねぇって。単なる鉄だぁ」
「じゃあ?」
「そりゃ俺の腕だよ」
「――腕で素材が良くなる?」
「よくぞ聞いてくれたぜ! いいか? まず鉄っていうのはな――」
珍しくにっかり笑って解説を始める。
本当に技術屋だ。
本職の鍛冶士が余すことなく活かせるのが楽しいのだろう。
ただ――専門的過ぎて誰も理解してないけど。
「――るつぼの中で溶かして出来たのがこいつ。ダマスクス鋼ってわけよ」
「ダマスクス!」
「おお――ダマスクス。素敵な響きだ」
「格好良いっすねぇ」
「そうだろうそうだろう。武器にも防具にも適したそれはもう素晴らしい鋼なんだ。硬いし折れにくいし、しっかり命も守ってくれるぜ!」
「よーし! じゃあ、ためそー! ポリー!」
「うっす! 来いっすよフレア!」
早速剣と槍を構えて、打ち合い始める2人。
傷が付きそう――なんて僕なら思っちゃうけど。
命を預ける2人はそんなことを気にせず、わざと防具で受けている。
「フレアの結構軽装だな」
「ああ、フレアは動きがいい。素早さをスポイルするのは逆に危険と判断した。身体ごと行くタイプだけど、剣が長いし。狙われるなら手足から。特に足をやられるのは死活問題になるからな。そこを重点だ。流石にここはちゃんと保護してるけどな」
とミレイユは胸をどんと叩く。
「腰は何も付けないのかしら?」
「母親として心配か? ま、分かるけどよ。見ろよ。フレアの動き。腰を中心に身体を大きく使うだろ?」
「ええ、確かに」
「それに良く捻る。剣が長いからな、手だけじゃ振れない。腰の動きが制限されると攻撃の威力が落ちるだろ。それにさっきも言ったが、腰の前に手足が狙われるって」
「そう――ね」
「ま、本来なら鎖で帷子作るんだが。流石に足りないからな」
「――考えてるんだ」
「あったりまえだろうが。防具なんて一点物だぜ? それぞれ合わせて作るもんさ」
「じゃあなんでポリーは重装甲なの? 結構動くけど」
「ん? ああ、ポリーは身体の割に重いの平気なんだよ。つっても手足と背中は何もないから、思ったよりは重装甲でもないって。動きも阻害しないようになってるぜ」
「しかし、兜が目立つな」
「頭でっかいからなぁポリーの奴ぁ」
「そういや耳はなんで出したの?」
「分かったチャームポイント残したのね!」
「んなわけないだろ。耳覆うと索敵に支障が出るって言うからよ」
「え、あれ、結局耳で聞いてたんだ――」
「分からん。感覚って言ってたから慣れだとは思うんだけどな」
みんなの会話をよそに、戦いはどんどん苛烈になっていた。
ミレイユと手合わせをした時と違う――実力の伯仲したもの同士の攻撃は、互いの信頼もあって遠慮がない。
「ほう腕を上げたな」
「凄いわフレアちゃん! これじゃママじゃ相手にならないわね」
「おいぃ全然見えねぇぞ」
更に上がっていく2人のギア。
今はもう一合ごとに武器が飛び。
金属音が響き。
火花が散る。
――ただそれだけだ。
「何時の間にこんなに」
才能の差。
職業の違い。
それは分かっているけど。
果たして自分の領分でもここまで成長出来ているか。
少し嫉妬した。




