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5ー15


 広場の焚火の場所はいつの間にかアップグレードされていた。

 焚火を煉瓦が囲んで居る。

 今まで直火だった鍋も上からつるして置けるようになった。

 座る場所も石とか丸太とかではなく、ベンチのような椅子だ。


 しれっとミレイユが作ってくれたようで。

 夕食を作る時に屈まなくていいと特にママさんに好評で。

 村の集会所から、町の広場と呼ぶに相応しくなった。


 広場に集まったある夕方。

 いつものように火に掛けられた鍋を囲んで、出来上がりを待つ中。


「酒が消えた」


 遅れてやってきたおっちゃんが拳を握りしめて告げる。


「えっ?」


 全員がミレイユに視線を送った。

 料理を作るママさんたちですらだ。


「なんで俺みんだよ」

「だってジャンヌさんの――」

「姉貴と一緒にすんな! マジ心外だぜったくよ」

「ほら、イグさんがお酒持って来た時。凄い喜んでたじゃない?」

「酒はそりゃ好きだけどよ。姉貴みたいにこそこそ飲む真似なんざしないって」

「まあ、そうよね」

「じゃあ――」


 次に視線を移したのは――


「フ、フレア飲んでないよっ!」


 次。


「――違う」


 次とみんな酒好きの順に視線を移していく。


「ちょ、ちょっとなんで私――ないない。隠れて飲まないわよ」

「別に隠れて飲んだなんていってねぇんだよ。減り過ぎだっつーの」

「じゃあしょうがないでしょ。そんな――ねぇ?」

「――責めんといて」

「飲みすぎなんだよ。手前ぇらは」

「一週間もたねぇって。樽丸々一個だぜぇ? どうなってんだよ」

「仕方ない。それくらい久々の酒だったんだ」


 そういうノヴァはあんまり飲んでいない。

 好きそうで、強そうなのに僕とおっちゃんと同じくらい。

 多分、ママさんに配慮してのことだろう。


「そうよねぇ。仕方ない。仕方ない」

「そーだそーだ!」

「冒険者なんだし酒なんざ水みたいなもんだぜ」

「貴方違うでしょ。一応」

「俺だって元冒険者だぜ。それに鍛冶だってな――火を前に命張ってんだ」

「そうだけどよぉ。限度があんだろ」


 冒険者なら仕方ない。

 そんな風に聞こえる。

 実際、ニュービーでもそうだった。


「なんで冒険者には酒がいるの?」

「そりゃ―ー」

「おいしーから!」

「っすねぇ」

「いや、フレアそれじゃあ。怒られるでしょ」

「命懸けだからだ。金のために命を掛けて戦えば魂が濁る。酒で濁りを荒い落として女神に浄化して貰うのさ――」

「おーかっくいー!」

「っつーギルドの言い伝えを置いといても。身体動かした後の酒はうめぇからな!」

「――最高!」

「いえー!」


 何かのりのり。


「はぁ、駄目だこりゃ」

「まあこれはなくなるのもしょうがないわねぇ」

「もうねぇんだよなぁ。これじゃ酒が幾らあってもたんねぇわ」

「やはり酒がなければ冒険者も居付かないか」

「んだなぁ、酒がねぇとなぁ」


 酒か。

 酒を作る。

 正直分からない。

 かつての世界の知識なんてスマホの中でしか知らない。

 酒を飲める歳でもなかった。

 興味を持つ以前に存在すら認知していなかった。


 けど――何か。

 頭に引っかかる。

 スマホの画面に映る。

 映像と酒。

 結びつきそうで――もやもやする。



 翌日、日課の煉瓦焼きの間。

 隣で新しい炉を煉瓦で作っているミレイユに話を振ってみた。


「酒ってどう作るの?」


 ミレイユなら知っているんじゃと期待した。

 喉に引っかかった小骨のように、出そうで出なくて気持ち悪い感覚を。

 取り除くヒントをくれるかもしれない。


「いや、なんで? 作りたいのか?」

「うん、ないと冒険者が来ないんでしょ?」

「来なくはないって。ただ、依頼受けて帰るだけだ。村としちゃ旨味が少ない」

「領民になってくれないと」

「それだけじゃないって。飲み食いで金落としてくれなきゃ依頼の金丸々持ってかれるからな」

「ギルドで飲み食いするんじゃ?」

「それはデカいとこだけだ。ここにそんなん作らないって。せいぜいカウンターと依頼掲示板があるだけ。寝床は――まあここなら野宿でいいか」

「じゃあやっぱり酒が――」

「あった方がいい。ただ俺も知らないな。酒の製造は最高機密だ。あ、おっさんにでも聞いてみたらどうだ?」

「おっちゃんか――」


 昼過ぎのおっちゃんは割りとどこに居るか分からない。

 木工も大抵はミレイユに任せてしまえるようになってからは特にだ。


 グラールと森を歩くこともあるし、水路の道を使って川にいることも多い。

 ただ、今日はすぐ分かった。

 ノヴァと一緒に伐採をしていたから。


「酒? んなもん知ってたらとっくに作ってらぁ」

「そうだよね。おっちゃんならやってるよね」

「前にやってなかったか?」

「あーブドウの奴か? あれは失敗だった」

「ブドウ――かぁ」

「使ってるブドウは特定したんだけどなぁ。そっから先がなぁ。酒って感じがする味に到達しねぇんだよなぁ」

「フレアは喜んでたな」

「まぁ子供の喜ぶ味にしかならなかったなぁ」

「流石――でもブドウかぁ」


 何か頭にあるそれと違う。

 はっきりとそれは違うと分かる。


「違う――お酒のは?」

「ん、違う?」

「ブドウ以外の」

「ブドウ以外はなぁ。森ん中でとれねぇからなぁ」

「あれは近くなったって行ってなかったか? ほら、麦の奴」

「――麦!?」

「ん、飲んだことねぇか?」

「いや――ある。あるよ」


 何か引っかかった。

 小骨が抜けかかる。

 あと少し、掴めそう。


 ただそのあと少しがもどかしい。


――麦


 近い気がする。

 けど決定的に違う。

 画は違う。

 色が違う。


 ただ種類は近い。


 その夜寝たままの頭で考えた。

 夢に見た。

 かつての世界の夢。

 スマホを通じてみている画。

 白と赤の服を着た女の子。

 口に含む――白い穀物。


「米だっ」


 自分の声で目が覚めた。


「こ・め、でございますか?」

「あ、声に出てた?」

「はい」


 思い出したのは酒を作る映像。

 米を噛んで吐き出す。

 それだけ。

 多分それだけで酒になっていた――はず。


 正直はっきり覚えていないけど、試す価値はある。


「おはようございます。それでコメとは?」

「ああ、おはよう。うん、寝言かな? はは」


 ただ残念ながらヴィーィの反応的にこの世界に米はないらしい。

 たしかにみたことはない。


 米がないなら、麦か。


「ママさん、小麦って全部粉にした?」

「ええ」

「そっか」

「必要だったの?」

「ううん、ちょっと実験だから」

「次の収穫は3か月後かしらね」

「え、はやっ」

「そう? ――ああ、普通なのよ。これくらいで」

「そう――なんだ。じゃあ次はちょっと貰っていい?」

「ええ、勿論よ」


 つまりただ待つしか出来ない。

 けど、村での月日が経つのは早い。


 煉瓦と作って、屋根を点検して、新しい麦たちが芽を出す頃。


 1月もすれば防具が出来た。




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