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5-13


 夜明けと同時に村は騒がしくなった。


 おっちゃんの帰還で次々と家から出て来るみんな。

 ついさっきまで倒れるように寝ていたヴィーィも起き出して来る


「あら、イグさん。早かったわねぇ」

「おかえりー! おっみやげおっみやげ」

「おかえりなさいませ」

「――パン! パン! パン!」

「おお、ただいま――って、荷台かよ。待ってたの小麦粉か」


 おっちゃんの帰還とはつまり小麦粉の到着。

 みんな、おっちゃんに一言掛けるなり、荷台にダッシュ。


「おっちゃん、小麦粉はっ!」


 それは僕も同じだ。

 何故ならパンの硬さはこの村の食事唯一の不満。実家の唯一の利点。

 しかと時が経つとともに、水分が抜けて行くのか硬くなり続けて行く。

 今や、スープか飲み物に浸さないと歯が立たないのだから。


「おい、坊主までぇ。ったく小麦粉様の威力はすげぇな、おい」

「イグ、早かったな」

「おお、ノヴァ。お前ぇだけはいつもと同じで」


 付き合いの長く、そこまで食い意地の張ってないノヴァは違って。

 荷台には来ず、おっちゃんの肩に両手を置いている。


「本当に早かった」

「そ、そうか? ちょっと色々探し回っちまったから。遅いくれぇだと――」

「早い――早すぎる」

「お、なんでぇ? 痛い痛い」

「早すぎるぞイグ! 何故寝ている間に帰って来たんだっ! これでは何も――何も出来ないだろう! くそっ次はと色々練習していたのに。次、おお、そうだ。いっそもう一度戻り直そう!」

「はは、いつも通りで――ありがてぇ痛いほどにな」


 荷台には麻の袋。

 ママさんが開くと少し粉が舞う。


「うん、良いわね。これで明日から美味しいパンが食べられるわよ!」


 ”明日”その言葉に全員が動きを止めた。


「明日からなの?」

「今日は? ママ今日はダメなの?」

「一日置かないとパンにはならないのよ」

「えぇ――そんなぁ」

「――残念」


 ママさん曰く、パンには発酵という過程がいるらしい。

 そのため一日は置かないと駄目らしい。


「おらおら、がっかりしてんな。土産は小麦粉だけじゃねぇんだからよぉ」

「でもぉ完全にパンの口だったのに」

「――無念」

「はぁ、しゃぁねぇな」


 おっちゃんは荷台に上がると、並んだ樽の1つに手を掛けた。


「ノヴァよ。予定より、少し多めに小麦粉を売ったぜ」

「かまわんよ」

「やっぱ冒険者呼ぶならこれがねぇといけねぇからなぁ。おら坊主手伝え」


 斜めに立てて淵を起点に転がすように荷台の端へ。

 僕が下でそれを受け止める。


「うっ、おも――」


 ずっしりと重い。

 かつての僕なら持てなかっただろう重さ。

 ゆっくりと降ろそうとしたけど、ちょっと勢いがついた。

 その衝撃で中身が傾き、ちゃぷと波打った音が響く。


「液体? ――あ、このブドウみたいな香り。お酒だ?」

「酒! 酒ぇぇぇ!」

「酒っ! イグ、買って来たのか」

「ま、最近はどこも辺境が後退してんだぁ。坊主のお陰でここは豊作なんだがなぁ。てなわけで色々買って来たぜってことよ。じゃ、次はほいこれ」


 おっちゃんは僕とガーネットとペルーサを手招き。

 今度は木箱から取り出したのは小瓶、赤い液体の詰まった――術酒だ。


「坊主に1本渡しておく。こっちの残りは嬢ちゃんが使ってくれ」

「――術酒!」

「こんなに――助かります。イグさん」

「お前ぇらがしっかり働いてくれねぇと畑も荒らされちまぁからな。じゃ――」

「つーぎつーぎ」

「わくわくっす!」

「んじゃあお前らのにすっか。ちと待ってろよぉ――ミレイユよ、頼まぁ。俺ぁじゃ無理だ。おい、今飲むわけじゃねぇのに、いつまでかじりついてんだよ」

「んああ、匂いだけでも――もっと嗅がせてくれ!」


 抱き付いた樽からノヴァに引き剥がされる。


「ったく。お前ぇはこっちだろうが」


 フレアたち向け――のはずの樽が、ミレイユに渡される。

 何故と思った理由はすぐに分かった。


「あ? この音――おいおい、まさかおっさん!」


 樽を軽々と持ち上げ上下させると響く音。

 じゃらじゃらと、がらがらと中でこすれて、ぶつかって。


「うぉぉぉっ! 鉄に、こっちは石も――いいぜ。いいぜこれ!」


 両手に持ち上げた麻の袋に耳を当ててうっとりとした表情で音を聞く。


「古い鉄と廃石はいせきだ。お前ぇならなんとかよぉ、素材に出来ねぇかと思ってな」

「おお、出来る出来るぜ。何作るんだ? 鍬、鋤? 井戸の滑車を鉄にするか?」

「違ぇよ。そりゃポリーとフレアの土産だぜぇ?」

「うんうん」

「そしてお前ぇは鍛冶士ブラックスミスと来たら」

「ひとつしかないっすね!」

「お、おお――じゃあ、装備を」

「出来れば防具を頼む。ずっとこの格好で戦っているのはな」

「危なっかしいわ――ってパパとずっと話てたのよ」

「いい防具あったら買って来てくれってなぁ。ま、でも鍛冶士ブラックスミスがいんならよぉ。鍛冶してもらっちゃったほうが安ぃだろ?」

「お、おお――」


 珍しく歯切れ悪い。

 素材を手に持ったまま、きょろきょろ左右を見渡し――挙動不審だ。


「だめ?」

「ギルドの仕事で来た人に無理言っちゃったかしら?」

「いや、そうじゃない。いい――のか?」

「いいっすよ。ねぇ?」

「うん!」

「あ、ああ、でもよ。ほら、もっと名の通った工房とか。ドワーフ印のとか」

「ミレイユのがいい!」

「そうか――本当にいいんだな。よし、やってやるぜ!」


 そういうとミレイユは素材を樽に詰め直すと、抱えてどこかへ飛んで行った。

 めちゃくちゃに頬を綻ばして――


「よっしゃ、じゃあ残りは3人――と1人だな」

「3人と」

「ひとり?」


 おっちゃんはそれには答えず、また荷台にしゃがみこんで荷物を漁る。


「おう、あったあった。これだ」


 取り出したお土産を広げて見せる。


「あら綺麗な布! しかもそれ」

「綿でございますね」

「おうよ。久しぶりに都に行ったからな。こっちのちょいと色の悪いのはヴィーィの繕い物に使ってくれ」

「助かります」

「レジーナも繕い物するだろ?」

「ええ、ありがとう」

「で、いっちゃん上等のこの真っ白でふわふわっな奴はだな。最後の1人のお祝いにってぇわけで」


 おっちゃんは荷台から降りると、お腹の赤ちゃんに挨拶するように布を渡す。

 白い布、かつての世界のタオルのような。

 こっちでは実家でくらいしか見たことのない上等さ。


「あぁ柔らかい」

「ありがとうイグ。助かるよ」

「フレアちゃんも麻の布は嫌がったものねぇ」

「えーフレア、そんなことないよぉ」

「ちっちゃい頃はそうだったのよ。堅い、痛いって。泣いてたもの」

「な、泣いてないもーんっ」


 そうして夜。

 パンこそないものの久しぶりの酒で宴会。


 フレアが回って

 ノヴァも踊って。

 ポリーは飛び跳ねて。


 身重のママさんが遠慮しなくちゃ行けなくて、ちょっと悔しそうだったけど。

 とても盛り上がった。



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