5-12
丸くポッコリ出たお腹には新しい命が宿っている。
ママさんのお腹が目立つようになっても、やっぱり村は変わらないでいた。
毎日、畑仕事で出て行くし夕食も作るし。
ノヴァがママさんの手伝いで伐採することが減ったくらいだ。
フレアたちは精を付けると言って今まで以上に魔獣狩りに邁進。
ミレイユは新しい命のために、ギルド建設を後回しにしても色々作っている。
ヴィーィはママさんの料理をすべて覚えようと頑張っていた。
僕には出来ることはない。
技術はないし、気も使えない。
お腹の近くに行くのも、ちょっと怖い。
だからみんなの作業を出来るだけ手伝うことにした。
取り合えずは朝だ。
「おはようございま――」
「おはようヴィーィ!」
「おはーっ」
「やあ、おはようフレア!」
「あれ? 朝から元気っすね」
出来るだけ朝の早い時間から活動開始。
ヴィーィもフレアたちも早く開放出来るし、その分昼も長く使える。
早起きは三文の得――早く起きた分出来ることを増やそう。
朝には森に入って食べ物を採って来て、設備もチェック。
日中は煉瓦作り、それとノヴァが伐採に行くときは手伝うこともした。
そうして夜はいつもより早く、倒れるように眠る。
早起き煉瓦伐採夕食睡眠。
「おはよう! 今日も元気に行こう!」
煉瓦。
「ミレイユ。どうかな? 今日は100分の88成功だった」
伐採。
「一日一本!」
夕食。
「頂きます」
そうして倒れるように睡眠。
そんな忙しい毎日を繰り返していくうちに、胸のもやもやは消えた。
更に元気よく早起き煉瓦伐採夕食睡眠を繰り返す。
どんどん慣れて行って余裕すら生まれた。
ふと、忘れていたことを思い出す。
「今日、少し夜にやりたいことがあるんだ」
それは夕食時のことで。
ママさんと2人で防衛をしていた時の話が出て、思い出した。
「夜?」
「うん、夜通し掛かるかも知れないんだけど。ポリー手伝ってくれないかな」
「いいっす――けど、一体。はっ! まさかウチを。いやウチと――!」
「え、カイトってそっちのケがあるの?」
「ケ?」
「いや、分からないならいいわ。知らない方が嬉しいし」
何故か恥ずかしがるガーネット。
自分で言い出したのに。
「それで何するっすか?」
「敵の動きを見たいんだ。ほら、長い道が出来たからさ。家とか畑から長く敵の動きを見られるでしょ。だから詳しく知りたいんだ」
「ほー」
「領土内なら分かるんだけど。外の敵は全然だからさ」
「そういうことなら任せるっす!」
検証その1は領土内に入った敵の行動の変化だ。
実際ちゃんと確認していなかったこと。
今まで来なかった大ヒルが村まで来ている。
魔物とは人を狙うもの――けど、僕らが夜に居る場所は変わっていない。
ならそれは領土が伸びたせいと考えるのが妥当だ。
女神の怒りに触れたとかを排すなら、それが自然な考え方。
僕とポリーは屋根の上に上がってその時を待った。
「お、来そうっすね。道のさきっちょの方っす」
ポリーは立ち上がって耳を動かし、食い入るように森の中を見つめる。
「見えてるの? 気配を感じるとかじゃなくて?」
「うーん、フレアじゃないっすから。見てるわけじゃないんすよね」
「じゃあ音が聞こえてる?」
「音――うーん、耳でも捉えてるっすけど」
「頭の中に地図が浮かぶ感じ、とかじゃないんだ?」
「違うっすねぇ。敵が居る方向、距離が、こう――ぼぁっと――」
「光る?」
「うーん、違うっすね。音の方が近いっすよ。気配っていうんすかねぇ?」
「じゃあ僕とは結構違う――」
頭の中で何かが触ったような感覚――領土内に侵入者あり。
「あ」と口から声が漏れるとポリーも一緒に声を上げた。
「こっちに来るっすね」
「うん――どう? 元のルートから考えると変わってる?」
「っすね。こう来て、こうな感じっす」
「ほとんど直角に曲がったんだ。普通そう動くの?」
「大ヒルはじめっとしたところを通ることが多いっすから――」
「ああ、水路に入らず、こっちに来るのは」
「おかしいっすね」
魔物は意思を持たない。
本能というよりももっと原始的な、反射で行動するもの。
「やっぱり、領土内の誘引効果は確かにあるんだ」
「終わりっすか?」
「いや、本命はもう一つあるんだ。取り合えず家に入ろう」
「中に?」
家に入って戸を閉じる。
ヴィーィは相変わらず倒れるようにベッド脇で寝ている。
「うわっ、ヴィーィ大丈夫っすか」
「ああ、そうやって寝てるだけだから」
「なんすか寝相が悪すぎるっすよ」
「ちょっと事件みたいだけどね」
「しまった、敵が撃たれた――」
「あ、本当っすね。どうするっすか? 次待つっす?」
「うん」
いっそ射手塔を解体しようか。
流石にそれは危険か。
そうこうしている内に次の大ヒルが来た。
「じゃあポリー。家から出て、領土内の端っこまで行って少し立ち止まって戻ってきてくれない?」
「こ、細かいっすね。えーとあっち行ってちょっと止まって――戻る」
「うん、お願い」
検証その2――というか本命。
果たして僕と宝玉どちらが敵の優先順が高いのかだ。
まずは僕以外ならどうかを確認。
ポリーが4つ足で走っていくのを見て、戸を閉める。
「変わらない――うん、宝玉に向かってる」
「どうっすか?」
「ありがとう。じゃあ、僕が次行くから」
戻って来たポリーと入れ替わって僕の番だ。
小走りに森の淵まで到達。
ひんやりとした森の夜気。
その中に混じった、赤みと熱のある――敵意。
「やっぱり――」
「魔物はカイトを狙うんすね」
「前に大軍が来た時あれっと思ったんだよね。ただ僕への道が壁や柵で覆われていると宝玉を狙う」
「なるほど。分かっていれば、守りやすいっすね」
ポリーはきっと僕を領土を守るといっているのだろう。
それも当然ある。
けど僕が確認しておきたかった、はっきりしておきたかったのは別の意味もある。
「うん、守るのに使える」
僕に敵が寄って来るならば――いざとなれば僕は囮として使えるのだから。
「ものっすごい敵が来てもカイトが逃げ回ったらいつか倒れそうっす」
「そっか、僕に届くまで追いかけるんだから――グラールに乗ってもいいかも」
「いいっすね。後は――宝玉に届く直前でカイトが現れたら。こっちくるんすよね」
「だろうね」
「じゃあ、カイトに迫る寸前でカイトが建物に隠れたらどうなるっす?」
「宝玉に向かう」
「永久にうろうろさせられるっすね!」
「確かに、凄いよポリー。確かにそれならほとんどの魔物はいける」
「じゃあじゃあ――」
色んな策が思いつき、話が弾んだ。
寝るのも忘れていて、気付けば部屋が白む。
「うー気付けば朝っすね」
「うん、結局、付き合わせちゃったね」
「いいっすよ。面白いかったすっから。それに――あっ!」
ポリーは声を上げると、ベッドの上に飛び乗って両耳を立てる。
「ん、何か――来る?」
「やっぱりそろそろだと思ってたっす!」
「何が――」
ポリーは飛び出した。
思い切り戸を開いて、駆け出しながらこっちを向くことなく答えた。
「帰って来たっす!」
ほどなくして、馬車の車輪の軋む音が僕の耳にも届いた。




