5-9
僕の家とノヴァの家の間には川まで続く道が出来ていた。
家と家の間のまま、5mくらいの広さの長さで――
「どう、すっごい長いでしょ」
「これで川まで安全に行けるわ」
みんなの喜びの声も耳に届かず――
「ごめん」
と呟いた。
「何故謝る?」
5m前後の幅の一本道は、切れそうで頼りなく――細い。
畑には出来ないから。
家に建てられないから。
そもそも何をどうしても、両側の森から魔物が現れるのだから。
守るための柵を作って終わりの細さだからだ。
「だって、こんな細い道使いようが――ない」
「だからってぇ謝るこたぁねぇだろ」
「そうよ」
「必要はあるよ。だって僕がそうしたんだ」
「”そうした”って? カイトが細い道を作ろうとしたということか?」
小さく頷いて「多分」と小さく呟いて返して、昨夜の夢を思い起こす。
「――夢を見てたんだ」
「夢?」
「うん、夢じゃあ僕は大きくなって――こっちに手を伸ばしたから」
「カイトも水浴びしたかったんだ!」
「ええぇ、やっぱりペルーサ――下がって」
「いや、そうじゃなくて――」
「ふふっ、冗談。なんか暗い顔しているから」
「そうだ。暗い顔をする必要はない」
「そうだぜ――ほら、ギルドに来た冒険者とかなら、ここに小屋並べて寝かしときゃいいしな」
「あ、ああ、相棒は長く走れる場所あって喜んでるぜ――なぁ?」
「いいんだ。そんな無理してくれなくても――」
合わせる顔がちょっと――ない。
だってあの瞬間は完全にみんなのことを忘れていた。
僕の勝手で、いや、あの女の人に、この先を防がれたから。
勝手ですらない。
頭に血が上ってしたことなんだから。
家に戻ろうと歩き始めた。
「何しょげてるのよ」
「ああ、顔を上げろカイト」
「でも――」
僕の肩を掴んで振り返らせるママさん。
そこには自信満々のノヴァ夫妻の顔があった。
「丁度いい使い道があるのよ」
「使い道?」
「元からここはちょっと道みたいになっていただろ?」
「うん、ノヴァが甕を背負って歩いてたから――」
「そうする前からなんだ」
「へ?」
「昔は川まで町があったのよ。私たちが住む前のことだけどね。その頃は畑も今よりずっとずっと広くて。そうするともっと沢山の水が必要でしょ?」
「いちいち甕に入れて運んでも足りないからな」
「ああ、そうか」
ミレイユが手を叩いた。
大きな手で大きな音を立てて、大きく頷く。
その横でおっちゃんもグラールとともに頷く。
「それって何?」
「なに、なにママー?」
フレアたちは僕と同じく分かってない様子。
「パパが水を運ばなくて良かったものだ」
「水を運ぶ代わりになるってこと?」
「そう」
「――ため池?」
「惜しいわね。ペルーサちゃん。それだけだと運ばないと水溜まらないでしょ」
その言葉を聞いて顔をほころばせたガーネットが手を叩く。
「ああ、水路! そういやうちの町にもあったわ」
「はい、正解」
「くそーまけたー」
転がりながら派手に悔しがるフレア。
多分まったく思いついてなかったし、勝負にすらなってなかったのに、元気だ。
「水路ってなんすか」
「水の通り道よ。地面を掘って人工の川を作るの」
「地面を掘って――はぁ」
「畑には水がいるから、これでもっと大きく出来るわ」
そんな希望に夢膨らます。
ミレイユは一歩進み出てぴしゃりと一言。
「ただま――埋めたんだろ?」
「ああ」
「魔物が沸くから、埋めたでいいんだよな?」
「そうなるな」
「水路って沸くんだ」
「沸くぜ。魔力は低い位置に集まるからな」
「沸かないよ」
「いや」
「沸いたの見たことある? 村の中で」
「え――いや、まあ、村の中なら」
「そう? 森の中の村でも?」
「んー」
「ミレイユが来る前なんて、数百のゴブリン倒してるのよ? ねぇカイトちゃん?」
「うん、村中真っ赤に染まったよ」
「えぇ、それでも――」
「魔物は出てないな」
マジかと零しながら天を仰ぐミレイユ。
「いや、木が根付かない生えないなら――」
「カイトの領土内は安全っすからね」
「夜もぐっすりだよー」
「んーマジか。理解してたと思ってたが――改めてヤバいな。ちょっと怖いぜ」
「なんだぁ? 今更かぁ? ギルドが外に漏らさなきゃ、ここを狙うお貴族様にゃあわかんねぇだろ」
「いや、そうじゃないって。自然の摂理って奴を捻じ曲げてるだろ? だからほら」
「女神様の怒りに触れると」
女神の怒り――
夢の中
僕の手に――あの感触が残っているよう
あの木で出来た女の人を潰した感触
果たしてあれは
彼女は何と言っていたか
果たして良かったのか
果たしてこれを言うべきか
「だがな。まだ何もない。もう随分経つが。二度ここは大きくなったが」
ノヴァの言葉で、僕は口を噤んでしまった。
まだ夢が現実と決まったわけじゃない
まだ夢の女の人が女神と決まったわけじゃない
そう言い聞かせて、黙った――




