表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/72

5-9


 僕の家とノヴァの家の間には川まで続く道が出来ていた。


 家と家の間のまま、5mくらいの広さの長さで――


「どう、すっごい長いでしょ」

「これで川まで安全に行けるわ」


 みんなの喜びの声も耳に届かず――


「ごめん」


 と呟いた。


「何故謝る?」


 5m前後の幅の一本道は、切れそうで頼りなく――細い。

 畑には出来ないから。

 家に建てられないから。

 そもそも何をどうしても、両側の森から魔物が現れるのだから。

 守るための柵を作って終わりの細さだからだ。


「だって、こんな細い道使いようが――ない」

「だからってぇ謝るこたぁねぇだろ」

「そうよ」

「必要はあるよ。だって僕がそうしたんだ」

「”そうした”って? カイトが細い道を作ろうとしたということか?」


 小さく頷いて「多分」と小さく呟いて返して、昨夜の夢を思い起こす。


「――夢を見てたんだ」

「夢?」

「うん、夢じゃあ僕は大きくなって――こっちに手を伸ばしたから」

「カイトも水浴びしたかったんだ!」

「ええぇ、やっぱりペルーサ――下がって」

「いや、そうじゃなくて――」

「ふふっ、冗談。なんか暗い顔しているから」

「そうだ。暗い顔をする必要はない」

「そうだぜ――ほら、ギルドに来た冒険者とかなら、ここに小屋並べて寝かしときゃいいしな」

「あ、ああ、相棒は長く走れる場所あって喜んでるぜ――なぁ?」

「いいんだ。そんな無理してくれなくても――」


 合わせる顔がちょっと――ない。


 だってあの瞬間は完全にみんなのことを忘れていた。

 僕の勝手で、いや、あの女の人に、この先を防がれたから。

 勝手ですらない。

 頭に血が上ってしたことなんだから。


 家に戻ろうと歩き始めた。


「何しょげてるのよ」

「ああ、顔を上げろカイト」

「でも――」


 僕の肩を掴んで振り返らせるママさん。

 そこには自信満々のノヴァ夫妻の顔があった。


「丁度いい使い道があるのよ」

「使い道?」

「元からここはちょっと道みたいになっていただろ?」

「うん、ノヴァが甕を背負って歩いてたから――」

「そうする前からなんだ」

「へ?」

「昔は川まで町があったのよ。私たちが住む前のことだけどね。その頃は畑も今よりずっとずっと広くて。そうするともっと沢山の水が必要でしょ?」

「いちいち甕に入れて運んでも足りないからな」

「ああ、そうか」


 ミレイユが手を叩いた。

 大きな手で大きな音を立てて、大きく頷く。

 その横でおっちゃんもグラールとともに頷く。


「それって何?」

「なに、なにママー?」


 フレアたちは僕と同じく分かってない様子。


「パパが水を運ばなくて良かったものだ」

「水を運ぶ代わりになるってこと?」

「そう」

「――ため池?」

「惜しいわね。ペルーサちゃん。それだけだと運ばないと水溜まらないでしょ」


 その言葉を聞いて顔をほころばせたガーネットが手を叩く。


「ああ、水路! そういやうちの町にもあったわ」

「はい、正解」

「くそーまけたー」


 転がりながら派手に悔しがるフレア。

 多分まったく思いついてなかったし、勝負にすらなってなかったのに、元気だ。


「水路ってなんすか」

「水の通り道よ。地面を掘って人工の川を作るの」

「地面を掘って――はぁ」

「畑には水がいるから、これでもっと大きく出来るわ」


 そんな希望に夢膨らます。

 ミレイユは一歩進み出てぴしゃりと一言。


「ただま――埋めたんだろ?」

「ああ」

「魔物が沸くから、埋めたでいいんだよな?」

「そうなるな」

「水路って沸くんだ」

「沸くぜ。魔力は低い位置に集まるからな」

「沸かないよ」

「いや」

「沸いたの見たことある? 村の中で」

「え――いや、まあ、村の中なら」

「そう? 森の中の村でも?」

「んー」

「ミレイユが来る前なんて、数百のゴブリン倒してるのよ? ねぇカイトちゃん?」

「うん、村中真っ赤に染まったよ」

「えぇ、それでも――」

「魔物は出てないな」


 マジかと零しながら天を仰ぐミレイユ。


「いや、木が根付かない生えないなら――」

「カイトの領土内は安全っすからね」

「夜もぐっすりだよー」

「んーマジか。理解してたと思ってたが――改めてヤバいな。ちょっと怖いぜ」

「なんだぁ? 今更かぁ? ギルドが外に漏らさなきゃ、ここを狙うお貴族様にゃあわかんねぇだろ」

「いや、そうじゃないって。自然の摂理って奴を捻じ曲げてるだろ? だからほら」

「女神様の怒りに触れると」


 女神の怒り――

 夢の中

 僕の手に――あの感触が残っているよう


 あの木で出来た女の人を潰した感触


 果たしてあれは

 彼女は何と言っていたか


 果たして良かったのか

 果たしてこれを言うべきか


「だがな。まだ何もない。もう随分経つが。二度ここは大きくなったが」


 ノヴァの言葉で、僕は口を噤んでしまった。

 まだ夢が現実と決まったわけじゃない

 まだ夢の女の人が女神と決まったわけじゃない


 そう言い聞かせて、黙った――



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ