表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/72

5-8


――光


 目に光が映る。

 けど、身体は上手く動かせない。

 まだ、夢の中なのだろうか――


「おはようございます」


 突如聞こえたヴィーィの無機質な声で、身体の重みが戻ったよう。


「う、うーん」


 身体の重みに潰れたように肺から空気が漏れ出るだけ。

 中々身体が上手く動かせず、視界もぼやけたまま。


「カイト様。こちらを――」


 冷たさすらある声の中、妙に暖かいものに包まれた。

 顔が起きて、口に何か当たって――喉に熱いものが流れて胃に落ちる。


「うっ」


 きつめの病院臭に思わず呻く。

 苦味を予感させる薬のような匂いからは、考えられない熱が骨身に染みるよう。


「うわっ、きっつ――何これ」

「おはようございます。カイト様――術酒、効いたようでなによりでございます」

「え、あ――術酒――ああ、そっか――倒れてたのか」

「はい、フレア様たちに運ばれ――目覚めしだいこれを飲むようにと。残りもお飲みになりますか?」

「いや――ええ、どうしようかな」


 正直飲みたくない。

 酒の名のつく飲み物は嫌いじゃないけど、これはきつすぎる。

 酒と薬の融合したもの――にしても苦くて熱い。


 出来れば飲みたくないから、断ろうと思った。


「ママ様に全て飲ませるようにと。飲めなかったら――」

「はい、飲みます」


 ヴィーィの手から瓶を受け取って、鼻を摘まんで一気に流し込む。


「けど不味い」

「良く効いておられるかと」

「――確かに、身体は軽い。むしろいつもの目覚めよりいいかも」

「では食事を、昨日の残りがありますので」

「昨日の――?」

「はい、昨日の昼過ぎに倒れられてから。一晩寝て居られました」

「うへ――一日潰れちゃったか」

「はい」

「あーそう言われたらお腹減ったかも。昨日の残りって――もしかして小麦料理?」

「はい、では取ってまいりま――あ、参りました」


 ヴィーィが戸の前で翻って一歩戻る。

 と、同時にバンと扉があけ放たれた。


「おっはっよっー! うわっ、起きてる!」

「おはよーっす。お、大丈夫みたっすね」

「おはよう」


 いつもより気持ちテンション高めな4人が扉から飛び込んでくる。

 いつもの朝が始まる――と思ったけど。


「――おは」


 最後に入って来たペルーサの少し恥じらうような、消え入るような声。

 入口から入って来ようともしない姿に――

 全て思い出した。


「あ、あああ、昨日は――ごめん。その水浴びしているとは思わなくて。しかもその――ちょっとテンション上がっちゃって」

「良いっすよ。減るもんじゃなし」

「いいよいいよ。今度はカイトも一緒に泳ごうよ」

「いや、それは――」

「ほんとにそれはいいの。だけど大丈夫? ペルーサに飛び掛かりたくならない?」

「いや、ならないよ。なんで」

「そう、ならよかった。大丈夫だってよ」

「――ふぅ良かった」


 胸を撫でおろして入って来る。

 けど相変わらずフードは深くかぶったまま。


「一体どういうこと? 僕は別にそこまで――」

「あーそういうのじゃないのよ。違うの。カイトはなんて言ってたっけ? ピスカサのこと、おじいちゃん見たいな呼び方してたじゃない?」

「え、ああ、人魚?」

「そうそう。ピスカサは私たちの町だと10人かな?」

「――今は11だよ」

「あ、そうだったわね。出る前に妊娠してたっけ」

「――うん」

「ピスカサはみんなこうして帽子とかフードとか被って顔を隠すのよ。なんでかって言うと――異性を惑わすから」

「――迷信だって」

「そうかしらねぇ? あの時のカイト異常だったじゃない?」

「ペルーサまっしぐらだったよねー!」

「鼻息荒かったっすねぇ」

「そ、そんなにだったかな?」


 確かに興奮していた。

 でもそれは異性として惹かれたからってわけじゃない。


「カイトはそういうこと知らないだろうってノヴァも言ってたから。今回は許すわ。でもペルーサの顔をみちゃ駄目だからね」


――一度してます。


「ただでさえ同性しか居ない場所じゃないと顔出せないんだからね」

「あ、そうだね」

「――暑いぞ」


 フードの前をペラペラと手で上下させる。

 その度にガーネットが叩く。


「それより、外外!」

「そうっすよ」

「あ、どうだった?」

「ほら、こっちこっち」


 フレアに手を引かれて外に連れられる。

 「朝食を」と言いかけたヴィーィごとだ。


 やっぱりいつもよりテンションの高い4人。

 それくらい凄く森が拓けたのかと期待してしまう。


「おお――」

「どう?」


 外に出ると景色は確かに違った。

 目に入る森が”遠い”のは明らか。


「大体今までの倍くらいになったっすね」

「倍?」

「ほら畑の向こうに合わせる感じで広がったみたい」

「だからもっと一杯畑増やせるよ」

「――牧場! 牧場!」

「ボアは飼えないって」

「――えー」


 テンションの高い4人に比べて――僕は少し肩を落とした。


 それは『思ったより広がらなかった』と思ったから。


 暮らしは楽になるだろう。

 また人が増やせるだろう。


 けど、どこかに行けるようになるわけじゃない。


 地道にやるのは仕方ない

 盛大に世界は変わらない

 なんておっちゃんなら言うだろうか。


「うん、まあ、良かった」

「ほら、やっぱりがっかりした! カイトはすると思ったんだ」

「ちくしょーっす!」

「――ふぁっく」

「何何――一体」

「賭けてたのよ。夕食のおかず。ここだけ見せたらカイトはがっかりするかなって」

「いえーいフレアの勝ちー」

「ここだけ?」

「うん、がっかりするのははやいよ!」

「え?」


 パッと見は変わらない。

 ぐるりと顔を回しても、おっちゃんの家の方も同じくらいの広がり方。

 更に顔を回して、村の入口を見ても、そっちはむしろ前と変わらない。

 畑と合わせて、だからノヴァの家の向こうだって変わらない。

 残すはガーネットたちの家の方――けど、手を引かれた先は家の裏手。


 ノヴァの家の方で。


「ほら」

「どうっすか?」


 ポリーは僕の肩に乗り、頭を掴むようにしてフレアの指の先を見せる。

 僕の家とノヴァの家の間、森の奥側へと通ずる方向。


 それは今朝見ていた夢の中で、僕が手を伸ばした方向。


 あの夢。


 そう夢の最後の僕が手で叩き潰した場所に――


 長い道が出来ていた。

 遠く大岩まで視界に収まる――川へ至る道が出来上がっていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ