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5-7


 眼下に広がる遥かな森。

 どこまでも続く茫洋とした木々。


――ああ、夢だ


 森の向こうは一晩中スマホでゲームをしたように、ぶれて見えて。

 身体は全身麻酔から目覚めたてのように動かない。


 ただ、分かることは夢だということ。

 焦ってここから抜け出そうと藻掻いているということ。


 何故かここに居たくない。


――いや、違う


 目の先には森の切れ目があって。

 その向こうには僕の身体くらいある大きな岩があって。

 川があって。

 川の流れがあるってことは――


 そうだ。

 川に流れがある。

 川を上って行けば山に辿り着くはず

 なら川を下って行けば


 多分、それはこの世界では違うのかもしれない。

 ひょっとしたら、そこは同じなのかもしれない。


 ずっと疑問に思っていた。

 きっとと願い続けていた。


「ああ、そうだ。あるんだ――」


 ずっと憧れていていた場所。


 かつての人生、どこにも行けなかった人生の時から恋焦がれた場所がある。


 山。

 高い山に登って、世界を見下ろしてみたい。

 薄い空気で肺が痛くなってみたい。

 足の裏の皮が捲れて、血が出て、引きずりながら。

 空に近い場所に行ってみたい。


 雪。

 氷山、氷河でもいい。

 冷たくて、触れば溶ける? いや僕が凍るのだろうか。

 きっと冷凍庫で出来た氷なんかとは違う。

 本物の氷、雪の上に寝転んで火照った身体を冷やしてみたい。


 砂漠。

 暑いんだろうか。

 動画や画像だど、大抵みんな長袖来ているけど。

 遮るものがない、陽の光に晒され。避けるものがない、風に受けて。

 干上がる寸前の中、飲む水はきっと美味しいんだろう


 そしてもう一つ。

 川の続く先。

 大量の水の流れ着く先。

 きっとしょっぱくて、水面は揺れ動いて波になって

 僕なんか溺れてしまうだろう


「ああ、海だ」


 身体は何故か縛られていた。

 数多の蔦が絡みついていた。


「邪魔だ」


 そこへ向けて、身体を揺り動かした。

 手を振るい、足を上げ、蔦を振り払う。


 抑えるもののない僕の身体は大きくなっていく。

 前を遮る木々も軽く手で払いのけられる。


 行ける。

 どこまでも。


 森をなぎ倒し、川へ向かう。

 その先の海へと向かう。


 けど――


――待ちなさい!


 頭の中に響いた。

 甘く、しかし厳しい口調の女の声。


 ざわざわと森の木々が動く。

 僕を遮るように。

 巨大化した僕を前に行かせないように。


 寄り集まり、捩じり合わさって

 枝が伸び、幹が曲がり

 大きな大きな一つの形をなす。


 宝石でもはめ込んだような淡い緑色の目が、決意の確かな目で。

 幹で出来た顔に、葉で作られたくちびるを苦しそうに強くかんで。


 両手を広げ、立ち塞がる――どこかで見た女を象った。


 何故かその姿に無性に腹がたつ。


 お前なんか知らない

 お前なんか要らない

 お前の下になんか居ない

 お前の下から出て行く


「邪魔だぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 僕は手を上げる。

 高々と空高く、遥か森の上、天まで届きそうなほど。


 大きく高く上げた手で。

 木々で出来た女を叩き潰した。



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