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5-5


 ミレイユとヴィーィ、2人が来てから1週間が経った。


 小麦を掛ける竿は僕の家の裏まで並び。

 研がれた鎌も4本完備。

 準備は万端だ。


 小麦の収穫を明日に控えた最後のチェックを終えると既に陽は傾いてくる時間だ。


 森の夕焼けの時間は短い。

 木々の影が迫り闇が素早く寄って来る中、広場に火が灯った。


 夕食の開始。

 鍋が火に掛かると、具材が運ばれて来る。

 次々と切られた芋やら菜っ葉が投下されいっては、香りが充実していく。


「そろそろ肉も焼こうかしら。ヴィーちゃん」

「はい、ママ様。持ってまいります」

「ポリーちゃんは鍋お願いね」

「かぁ肉、肉、肉を多めで頼むぜ」

「ミレイユ。朝も肉しか食べないじゃない」

「いいんだよ。肉が一番力つくんだって」

「――肉、最高」

「だろ? くっそたらふく食べたいぜ。あー今度は俺も狩りについてくか!」


 ミレイユも結局、食事は一緒に食べるようになった。

 食べる分の食材は提供する。と律儀に毎日採って来るけど。


 1週間経って、2人はこの景色に随分と馴染んだ。


「そういえば1週間経つな――」


 ノヴァがおもむろに口を開く。

 ここ最近の僕が輪に入れず悩んでいる台詞。

 これはつまり、ミレイユとヴィーィを領民にするかどうか。


 その決断を迫っている。


『1週間経ったら領民登録をする』


 ただガーネットたちにそうしただけで、別に決まりになったわけじゃないけど。

 ノヴァはそうするものと考えているらしく、ここ数日ずっと聞いて来る。


 領民にするということは、領土を広げるということ。

 領民登録をすればそれを知らせることになるというkと。


 つまり、2人が信頼に足るかどうか。


 いや人として信頼が出来るかどうかならもう答えは出ている。

 異論は村の中では出ないだろう。


 問題は別にある。


 ミレイユならギルドの人間であるということ。

 ギルドのことは詳しくないけど、恐らく現状報告などはするだろう。

 ヴィーィも結局、どこかに繋がりがあるかもという危惧は拭えない。

 本人は意図していなくても、偵察するための何か魔法が掛かっているとか。

 考え出したら切りがない。


 そしてそれは領土を広げようとする限り続く。


 だからノヴァは聞いている。

 止めるなら今。

 黙るならここ。


 もっとも、僕の肚は決まっている。


「そうだね。1週間経った。ミレイユ、ヴィーィ。来てくれないかな」

「んあ?」

「ああ、1週間ね。行ってあげてヴィーィちゃん」

「はい、かしこまりました」


 宝玉の間――中の木は1週間でかなり回復した。

 大分狭くなった中、ガーネットとペルーサがついて来ると満員。おっちゃんは入口からほとんど出てしまっているし、グラールは上から顔だけしか入れてない。


「で、1週間記念肉祭りとかか?」

「いや、だったらここに来ないでしょ」

「じゃあ何」


 目を瞑った。

 今一度、頭を巡らす。


 今後どうなっていくのか。

 ノヴァが危惧していること。

 多分この2人は大丈夫だと思う。


 問題はこの先、領土拡張が果たされれば――この先はもう僕には止められない数の人が来るかも知れないということ。

 いずれこの世界にここが見つかる――そこまで大きくなるだろうこと。

 今のまま暮らせはしないかも知れない。

 それはノヴァたちも巻き込むかも知れない。


 けど――駄目だ。


 このまま座して死を待つわけには行かない。

 どれだけ誰かに迷惑が掛かろうとも。

 この思いは止められない。


――外に出たい。広い世界を見たい。


 何度考えても結論は変わらない。

 何度生まれ変わってもだ。


「領民になって欲しい」


 おっちゃんの少し安堵した顔が視界に入った。

 対してミレイユとヴィーィは何が何やらという感じで、顔を傾げる。


「ああ、分からないよね。領民っていうのは――」


 領民、領土、それらを広げたいということ。

 その説明をした。

 たまにガーネットが助け船を出してくれたり、おっちゃんが補足してくれたり。

 お陰ですんなりと理解はしてくれたようだ。


 だからこそミレイユは大げさに驚き。

 ヴィーィはじっと黙って聞く。


 ただ結論は2人とも同じだった。


「いいぜ」

「構いません」

「え、そんな軽い。分からないんだよ? どうなるか」

「まー先人もいるしな?」

「――何にもない」

「うん、それにフレアたちは領民になってから町に出たんでしょ?」

「ちげぇねぇ」

「狙って来る奴? そっちは多少気になるっちゃなるけど。まあ何とかなるだろ」

「はい、何とかなりましょう」


 何か想像と違う。

 僕の考えすぎだったのだろうか。


「あ、あと、職業分かっちゃうけど――いいかな?」

「私は従者サーヴァントです。構いません」

「あーま、いっか。別に隠してないしな。俺は鍛冶士ブラックスミスだぜ」

「いや宣言しなくて良かったでしょ」

「あ、そっか。ははっ、ま、ほんといいんだって。じゃあそれやろうぜ。登録?」


 少し乾いた笑いを上げながら、僕を急かして来る。

 気にしていない――人の行動じゃない気がしたけど。

 多分触れない方がいいんだろう。


「じゃあ、ここにタッチして」

「おう、と」


 彼女の大きな身体に見合った大きな手。

 鍛冶と名の付く職業なだけはある、汚れてごつごつとした職人の手だ。

 それを繊細に画面にタッチ。


 画面には『鍛冶士ブラックスミス ミレイユ』と出た。

 けど、中々手を離さない。


「おお、冷っとしてガラスみたいだな? あーでも奥からちょっと熱感じるな。この光って絵とか文字だしてんの魔力か?」

「うーん、多分」


 と答えるも聞いてない。

 目が悪くなりそうなほど近寄って、舐めるように画面を見回す。


「ほらミレイユ。ヴィーィが待ってるから」

「お、悪い悪い。興味が尽きないなこれ」


 ヴィーィのターンはすぐ終わった。

 おずおずと前に出て、さっと手で触れ『従者サーヴァント ヴィーィ』と画面に映る。


「ありがとう2人とも。これで10人まで後2人っ!」

「やったわね。ああ、もっと広くなったら――新しい建物建てましょ」

「――ボア牧場!」

「10人になると広くなるのですか?」

「うん、成長する」

「へーんじゃ早いとこ集めたいな。姉貴にも手伝わせ――ん? 10人?」


 何かを閃いたように目を見開き上を見るミレイユ。

 指を折りながら数を数えていく。


「ひぃふぅみぃ――あれ? 10人いるだろ?」

「ああ、僕は数に入らないから」

「それでも9だろ?」

「ああ、俺ぁが入ってない」

「なんで?」

「そらぁ10になる時でいいだろ?」

「今やっても一緒だろ」

「まあそうなんだけどよぉ。俺ぁ旅に出るからなぁ――」

「出るから?」

「ほら、何かあったら」

「何かって? 何かあったら、そん時はそん時。1つ分かって良かったでいいだろ」

「んーまぁ、そうなんだがよぉ。ほら、なぁ」

「男の癖にぐだぐだいってんじゃねぇ。ほらカイト。登録っての出せ」

「うん、ほら、押すだけだから」

「いや、坊主までぇ?」


 いやいやするおっちゃんをミレイユが掴もうと手を伸ばす――

 と、そこに割って入ったのは栗色の毛の長い鼻。


「おお、相棒。なんでもねぇよ。別に責められてたわけじゃ――おい、相棒?」


 おっちゃんとミレイユを押しのけ、グラールは宝玉の前に進み出る。

 画面をマジマジと見てから、馬特有の横長の瞳孔で僕を見ると――


戦士ファイター グラール』


 宝玉にそう出た。


「おいぃぃぃ、相棒――」


 おっちゃんは抵抗を止めて、領民となった。


 肩を落としてタッチする姿は可哀想だったけど。

 夕食は1週間記念で豪華なもの。

 特にずっと前から用意していた、ボアの頬肉の塩漬けの効果は絶大。

 上機嫌で歌を唄ったりして、夜が更けるまで騒いだ。



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