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5-2


「何ぃぃ」


 村中を震わすような大きな声――

 森中の木も驚いたのか、がさがさと枝葉が揺れた。


「家がなぁぁぁぁい?」

「でございますか?」


 互いに名乗った後の、住む場所の相談の時。

 おっちゃんの呟きで始まった。


「そういや空き家ねぇな」


 とはいえ、そこまで叫ぶことかな。

 という感想は僕だけでなく、ノヴァたちすらも一歩引てしまっている。


「おい、じゃあ、空き家がないってことは、ギルドどうすんだよ」

「建てるしか――」

「ひょっとして俺が来るって話は――」

「今聞いたけど――」

「ええ――」

「――初耳」

「うっそだろ。ギルド作るんだぞ? そんな適当が許され――いや、あの糞姉貴ならありえ――待て待て、話通したって――ああ、そっちにか?! あのダボがっ」

「あのーその姉って?」

「ああ、ニュービーのギルドマスターだよ」

「ジャンヌさんの――」


 嗚呼と吐息が漏れた。

 見た目が似ている――というのもあるけど、ジャンヌさんに任せたの部分に納得の吐息が漏れた。


――そりゃ適当されるよね。


 恐らくセーラさんに伝え損ねたのだろう。怒られたのかな?


「あの糞姉貴――適当ばっかやりやがって」


 ジャンヌさん譲りの巨体で肩を怒らせ、頭を叩く。

 額に掛けたゴーグルを上から叩く音が響く。


 いわゆる怒り心頭って奴だろう。

 血縁故に、長い付き合い。それ故に怒りもひとしおなのかも知れない。


 ただそれにしても――怖いほどの怒り方。

 それは僕だけの感想じゃなくて、おっちゃんもガーネットも更に遠ざかるほど。


「よろしく、フレアだよ!」


 そんな中、フレアだけは気にせず前に進み。

あろうことかぺしと肘を叩いて挨拶を交わす。


「ん、ああ――さっき聞いたぜ」

「家ないからさー、ウチ来る? パパくらいおっきいけど。パパが寝れるくらい寝るとこ広いから。あ、枕がないや。ポリー使う?」

「なんでウチを――いや使うってなんすか」

「枕にだよ。一度やってみたいんだけど。フレアじゃ角が邪魔で出来ないんだもん」

「はぁ、ないなら仕方ないっすね。一度だけっすよ?」

「ふっ、なんだそりゃ――いいよ。気持ちだけで」


 ポリーもフレアにつられていつもの調子を取り戻し、2人に絡まれてミレイユさんの毒気もどこかに行ってしまったように顔が緩んだ。


「ていうか。フレアのとこは4人だし狭いでしょ?」

「――うちが一番広い」


 となればガーネットたちも動く。


「家具がないんじゃないの?」

「あーないわね」

「そうだ。なら僕の家でいいんじゃないかな?」

「あの――一応男の家に入れるのはどうなの」

「んな生っちろい餓鬼に何もできねぇよ」

「え――いやいや、一緒には住まないよ。僕はおっちゃんのとこ行くからさ」

「馬小屋ぁ? やめとけやめとけ。特殊な訓練がいるぜ。なんせ相棒は遠慮しねぇ。小さいのもおっきいのもすっから、結構にお――いてっ!」


 グラールの噛みつき。

 怒ったのか割と強めに”がり”と音がするほどの威力。


「おい、相棒! 冗談冗談――いてっいてっ! 蹴るのはやめ、やめっ! 臭くない全然くさいなんておもってねぇからよ。おいぃぃぃしつけぇ」


 ただグラールは許さなかった。

 追って追われてどこかに行ってしまう。


「ふっはは、いいよ。別に野宿でいい。慣れてるしな」

「森の中でそれは危険かと存じます」

「あーそれはそうか――俺はともかく、あんたはなぁ」

「あ、大丈夫ですよ。それ、カイトのあれがあるので」

「っすね。ほら、あれが迎撃してくれるっすから」


 ポリーがフレアの角の上に立って宝玉の間の上を指差した。

 2人の目も追うようにして、フレアの小さな指の先の投石塔スローワータワーを捉えた。


「何だ?」

「見たことありません。石を積んでいるようですが――」

「小型の投石機か?」

「あれは精霊でしょうか?」

精霊士エレメンタラーがいるのか?! あーそれで最果てなのにギルド作ろうなんて――」

「いえ――あの、期待しているとこすみませんが、その、違って――」

「違う?」

「ならあれは何なのでしょうか?」

「僕の――塔なんだ」

「たわー?」

「その塔士タワーディフェンダーっていう職業で――」


 これで僕が固有職ユニークと分かっただろう。

 そう分かった時人はどうなるか――ガーネットのたちとの初対面の時ならマシな方で、露骨に悪態を吐かれることもある。


 ただそれを恐れたわけじゃない。


 これを受け入れてくれないと村の住人には、領民にはなってくれないから。

 帰られたらどうしようと考えてしまっただけだ。


「ああ、いい分かった。あれが守ってくれるってんならそれでいいさ」

「素晴らしい能力をお持ちにございます」

「しかし凄いな。ちょっと近くで見ていいか?」

「あ、うん、梯子もってくるよ」

「ああ、良いって、こんくらいなら大丈夫――よっ」


 飛びあがり、手で軒先を掴んで身体をがくるりと反転させた。

 一息で屋根の上に登って、するすると塔の近くに寄る。


「はぁー思ったより、しっかりした作りだな。はんはん、ここで石乗せたスプーンを引いて弓見たいな奴にぶち当てて飛ばすって感じか――中々面白いっ」


 見終わって、今度は屋根の上から飛び降りる。

 それも意外と軽やか――地面に着くとくるりと回って衝撃を逃がす。

 土煙が立つこともなくスマートに着地した。


「おお、かろやか!」

「――意外」

「へっ、高いとこは良く上ってたからな。なあ、あんただっけ動かしてるの」

「カイトです」

「ああ、そうだった。わりぃ一度に沢山だったからな。それでどう動かすんだ?」

「あー勝手にって感じで」

「自動かよ。ますます精霊士じみてんな。え、じゃあ稼働時間はどうだ?」

「今のところ最長で2か月かな?」

「おいおい、なんだそりゃ。お前何物だよ」


 ミレイユさんは何だか楽しそうだ。

 恐らくこういうのが空き、技術者なんだろうか。


「ふっふっふ、何をかくそー! カイトは宝玉の主(オーブマスター)なのだ!」

「何だいそれ――フレア――あ、また何か始める気かな?」


 僕の前でどんと飛び出たフレアは、膝をついて僕を称えるように両手のひらをひらひらさせてくる。


「それだ! よくやったフレア! 虚を突かれて普通に自己紹介してどうしようか、悩んでいたところだ。」

「それで静かだったの――?」

「ナイスよフレアちゃん! んもう恥ずかしいわ」

「恥ずかしいって感情はあるんだ――?」

「お、おい、何なんだ――あんたら突然」

「おお、聞いてくれるか! そう我ら――我ら――我らが最果ての――最果ての――あ、ちょっと待った! 集合!」

「え、ええ――だから何なんだよ」


 ノヴァの掛け声に素早く集まるママさんとポリー。

 何故か肩を組み、円を作って頭を合わせる――所謂円陣を組み。

 何故か僕も組み込まれ、何故かノヴァの角がちくちくささっていることに気付いてくれていない。


「いっ――」

「折角フレアが作ってくれたチャンスだ。ここで盛大に出迎えなければならない」

「いたっ」

「そうね。フレアちゃんのグッジョブを無為には出来ないわ」

「へへっ、何にしよっか」

「ささってる。ささってるよ」

「でも待たせすぎると興醒めっすから。さくっと決めないとっすよ」

「だな。よし取り合えず――行くぞ!」


 勢い良くばらけて頭が解放された。

 今度はミレイユさんたちの前に一列に並んだ。


「我ら辺境の――三魔族!」

「待った! 待つっす。それこないだやったっすよ」

「あ、そうか」

「しかも、それじゃカイトちゃんたちが参加できないわ」

「くっ、待った! 待った! もう一度、もう一度チャンスを!」

「え、ああ――」

「よし! 集合!」


 再びの円陣の合図。


 次は頭に穴が空きかねない。

 だから今生一の反射神経を見せて――僕はしゃがんで躱した。


「俺としたことがネタ被りだなんて――すまん」

「いいのよ。ここから取り返して行きましょう!」


 上手く行った。

 謎のやり取りは頭の上で行われている。


 僕はばれないようにそっと円陣から這うようにして脱出。

 ミレイユさんは呆れた顔で眉を寄せて皺を作って――


「なぁ、何なんだ?」


 と聞いて来た。


「えーノーコメントで」

「おい、それじゃ、どうしたらいいんだよ」

「待てとのことでしたので。待たせて頂きましょう」


 この事態にもヴィーィは眉一つ動かさないで、行儀よく手を合わせて立っている。


「暇な人だな、あんた。ま、歩いてこようとする酔狂な人だし、そりゃそうか」

「その節はありがとうございました」

「えっじゃあミレイユさんの従者サーヴァントってわけじゃあない?」

「ああ、そんなん今いないよ」

「――そもそも知り合い?」

「知らないよ。来る途中、外縁を歩いてる奴見つけたから声かけたんだよ。話を

聞いてみたら”最果てに行きたい”だぜ? 人として乗せるだろ?」


 確かにそうだ。

ただそうなるとこんな場所に何故来たがるのか分からない。


「えーと、じゃあヴィーィは一体何をしにここに?」

「流離って居たのです」

「ああ、流離いのって言ってたけど――え、いや? それでこないでしょここまで」

「私は従者として生まれ落ちました。つまりそれは、この世の遍く人に仕える立場でございます」

「言い過ぎでは――」

「いえ、過言ではありません。それが私に与えられた役割であります。そうして今日まで在り続けたのであります。そのために流離っているのであります。さすらばまだ出向いたことのない辺境に、と。それに――噂に興味がありました」

「噂? それは」

「あの最果ては果てる気配がない――と」


 彼女ヴィーィの冷たく暗く、感情のないような深い緑の瞳を見ていたら――

 以前ノヴァに言われた嫌な言葉を思い出してしまった。


 僕の力が知られたら――最悪、消される。という言葉を。


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