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4-16


 振り向けばママさん。

 恐らく外に出たら、僕がピンチで飛び込んだんだろう。

 だから、ママさんの息が少し上がっている。

 肩が上下している。


 いや違う。

 そんなわけがない。

 畑を素手で耕しながら縦横無尽に駆け抜けても疲れた顔を見せないというのに。

 ただ家から出ただけで息が上がるわけがない。


「――大丈夫ですか?」

「ふふ、それはこっちの台詞よ。カイトちゃん。そっちは任せたわよ」


 ママさんの言う通りだ。

 呆けてる場合じゃない――守らないと。


「はいっ」


 振り返って斧を握り直す。

 手が空いてたら自分の頬を張りたい気分だ。


 そんな僕の気分を読んだのか、石が飛んでくる。

 目の前のゴブリンに向けてだ。

 けど投石はある程度ばらけるもの。

 たまに僕に当たるように飛ぶ。


 勿論気にしない。

 射手塔アーチャータワーの矢と同じで、絶対に当たらない。

 空中で変に制止して落ちる。または変にカーブしていく。

 敵以外には影響を与えないのだ。


 地面に落ちても不自然に何も起こらない。

 少しも跳ねず、地面をへこますこともなく、土煙も上げない。

 当然、地面相手では衝撃もないのだから音もない。

 音が出る時はゴブリンを潰した時のみ。

 魔力に還るだけだというのに、生々しい潰れた音が。


 目の前の石で視界を遮られてもその音がまだゴブリンがいると教えてくれる。


 石は地面に当たると約1秒で消える。


 その間、ゴブリンたちにとっては障害物となる。

 だから僕は石が眼前にある、この一秒で呼吸を整え、斧を握り直す。

 そうして、石が消えると、想像通りのゴブリンの姿と体面。


 けど、想像以上に数が多かった。


「うああっ」


 掛け声を上げて気合いを入れ直して、斧を振るう。


「はっ、はっ――」


 背後ではママさんの荒い息遣い。

 互いに背中合わせで死角を消して戦う。


 だが何れジリ貧になるのは火を見るより明らか。


 弱い僕と、体調の悪いママさんでは朝までは持たないだろう。


「くっ」


 背後も僕の方にも敵は増えていく。


 けど、何も出来ない。

 ただ、来るゴブリンに斧を振るう。

 一刀両断すれど、その奥にはもうゴブリンが来る。


 石が落ちた一瞬だけの休息時間。

 石が消えればさっきより多いゴブリンがそこには待ち受ける。

 最初1匹だったものが、2匹に、2匹だったものが今や3匹だ。


「なんとか――しないと」


 斬って、石が落ちて、斬って、また石が落ちて。

 ゴブリンが道に溜まっていく。

 溜まれば溜まるほど、一回の投石で潰れるゴブリンは増える。

 それでもゴブリンは増える一方で。

 中々楽になって行かない。


 僕はまだいい。石が落ちて道を塞いだ瞬間は休める。

 ママさんは楽が出来ていない。

 背後から聞こえる息遣いはずっと荒い。


「――あれ?」


 違和感。

 石は前に落ちて来てる。

 僕の目の間に落ちて来てる。


「何故だ?」


 僕は射手塔アーチャータワーの狙いを片側の道から漏れ出たゴブリンに絞ろうとした。

 だから広場からも出て、今やノヴァの家のすぐ横だ。


 どう考えてもママさん側が宝玉に近い。


 投石塔スローワータワーの射程も宝玉の間のまでは届くくらいあるはずだ。

 少なくとも僕の位置までしか届かないなんてことは有り得ない。


「――どうして?」

「危ないっ! カイトちゃん」

「えっ!?」


 振り返ると、目の前には拳。


「うわっ」


 我ながら情けない声を上げて、無様に尻もちを着く。

 お陰でゴブリンの拳は空を切った。

 拳を突き出したままのゴブリンを呆然と見上げていると。


 ママさんが追い掛け――潰すように止め。


「御免、大丈夫だった?」

「う、うん」

「じゃあそっちお願い!」


 滅多に聞かない切迫した声に弾かれるように立ち上がる。

 と、そこには新手が迫って来ていた。


「もう――こんなに」


 広場から漏れる松明の灯りに照らされたゴブリンたち。

 走りながら僕へと突進してくる。

 射手塔アーチャータワーの攻撃を受け、倒れる仲間に脇目も降らず。


――僕に突進して来る


「あれ?」


 何かが可笑しい。

 変だ。


 でも、考える暇はない。


 目の前には走って来るゴブリンたちは休ませてはくれない。

 処理能力を越え広場に溜まりつつあるゴブリンを倒さなくてならない。


「くそっ!」


 何か引っかかる。

 なのにゴブリンのせいで頭を使う余裕がない。

 そんな僕の苛立ちに呼応したのか。


 ゴブリンに鉄槌が下った。


 上から降って来た石に潰されて生々しい音を立てた。


「えっ――」


 一瞬考える時間が出来た――よりも戸惑いが勝った。


 『敵は真っ直ぐ宝玉へ向かう』

 『塔は宝玉に近い敵から順に狙う』


 それが原則だ。


 なら何故敵は僕に向かう?


 宝玉の間は扉を空け放っている。

 『宝玉に真っ直ぐ進むルートがない場合、敵は直進するための障害を壊す』という原則があるからだ。


 確かめてはいない。けど、そうだった場合畑は終わりだ。

 寝る時だって開けっ放しだ。


 だから敵のルートは確保されている。

 いやだとしても僕に向かうのはおかしい。


 それに塔も変だ。


 さっきの僕の位置の前に投石塔スローワータワーは投擲をしていた。

 そもそもこれだって可笑しい。

 僕の家の屋根からは射程の短い投石塔スローワータワーだって宝玉の間まで届く。

 最悪入口で守るつもりだったから当然の措置だ。


 にも係わらず落ちてたのは僕の前。

 そして180度回転した今も僕の前。


――たまたま敵が後ろから来たタイミングで投擲をした?


 その可能性はある。

 けど違う。


 決定的な違い。

 射手塔アーチャータワーの攻撃対象だ。

 こっちに向けて撃ってる。

 広場から抜けようとしている敵、僕に近い敵を狙っている。


 それに、さっきのゴブリンも間違いなく僕を狙っていた。


「そうかっ!」

「カイトちゃん? 何か分かったの?」

「僕だ。僕を狙っているんだ!」

「そりゃそうじゃ――ないのね」

「うん」


 ゲームに置いて宝玉は、プレイヤーの分身たる魔術師の所持品。

 恐らく、あの拠点の中で宝玉を抱えたまま鎮座しているのだろう。

 ゲームオーバーの演出的は宝玉が割れるというものだけど。

 実際には魔術師がやられている――はずだ。


 いや、そうでなくてもこの力の源泉は僕なのだから。

 あの宝玉のライフは僕の物であり――この拠点の弱点は僕ということ。


 だから僕を塔は守るし、敵は狙う。


 なら――逆に簡単じゃないか。


「ママさん突破します」

「どこ――いえ、分かったわ。ジリ貧だものね」

「ママさんの方のゴブリンに隙が出来たら、反転して広場まで」

「ええ!」


 斧を構えて待つ。

 ママさんが横に並ぶ。


 斧を前に構えて突撃、邪魔なゴブリンに体当たりをかましながら突き進んだ。


 目標は広場の中央。

 いつも焚火をしている場所。


 走り込みながら僕は目線を上げた。

 宝玉の間の屋根の上。

 射手塔アーチャータワーに向けて叫ぶ。


「解体!」


 ママさんの顔は驚きを浮かべた。

 けど、ゴブリンのただ中で余裕がないからか、僕を信頼してくれているからか。

 もはや何も聞かずに包丁を構えてゴブリンと対峙する。


「建てろ――投石塔スローワータワー! ママさん、上から降って来る石は無視して下さい」

「無視って――?」

「矢と一緒で当たらないので」

「え、ええ、分かったわ。でも一体――」


 僕が弱点になっているなら、敵が僕に向かって来るなら。

もっとも僕に近い敵に投石は行われる。

 そして石は僕らには当たらない。

 当たってもダメージはない。


 なら応えは簡単だ。


「三重投擲――喰らえっ」


 奇しくも僕らの周りには敵がひっきりなしに現れて。

 奇しくも3本の投石塔スローワータワーはタイミングをずらして投擲をした。


 間断なく降って来る石。

 もはや立っているだけでも、ゴブリンは目の前で潰れて行く。

 もっとも目の前は石で見えないけど。


 正直、僕ですらこの石が怖い。

 けど、ママさんはもう口笛を吹く余裕すらある。


「ひゅー! すんごい石の雨(ストーンシャワー)

「後は――木材が持つかどうか」

「んもう、心配性ね――あら、雨が」

「止んだ」


 止まった投石。

 視界は晴れ――けど辺りは濃い赤い霧で包まれていた。


 斧を握る手にもう一度力を入れ直す。

 ママさんだって、言っていることの割りに構えは解かない。


「あ、終わってるわね」

「え?」


 いつものあっけらかんとしか口調が戻ると――目の前の霧は晴れて行く。

 松明の揺らめく光から赤みが消え去った後に現れたのは――火を付ければいつでも夕食が作れるような。


 いつもの、何事も無かったような広場の姿があった。


「はぁ終わった」


 手も足に力は入らなくなって、立っていられず、手にした斧も落としてしまう。

 そんな僕の目の前にはママさんの手。


「違う違う違うわカイトちゃん。勝った――のよ」

「勝った」

「ええ、ほら、そういう時は?」

「ああ、そっか――」


 それは起き上がらせるために差し出されたものではなく。

 共に勝利を分かち合うためのもの。


 ママさんの右手に、僕はタッチした。

 声を上げ、遠慮なく――


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