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4-14


 かつてこの村が最果てと呼ばれる前。

 川の近くまで広かった時。


 ノヴァたちは村の外、森の中に入って探索をしていた。

 その時に見つけたダンジョンの一つに岩塩鉱があるらしい。


「最低でも行き帰りだけで1日は掛かる」


 ダンジョンで塩を取る時間も込みで1日半。

 最悪のケースで2日掛かるとのことだ。


 つまりどう足掻いても一晩は確実に村を空けなくてはならない。


 当然魔物や魔獣は待ってくれない。

 畑の小麦はそろそろ色付く頃合いだし、宝玉だって守らなければならない。


 放っておいても塔が守ってくれる――なんて無責任は出来ない。


 だから――


「僕は残るよ」


 ノヴァが行くよう提案した時から分かっていたこと。

 それに今更、ちょっとダンジョンまで出かけたいなんて思わない。


 だから明け方旅立つ5人を送る時も、むしろ晴れやな気分だった。

 ただ――


「レジーナを頼む」


 ノヴァの真剣な表情は気に掛かった。


 その言葉通り、ママさんの調子はどんどん悪くなっていった。

 朝はまだましだったけど、昼からはもうだめ。

 夜の食事の時なんて――


「何も――要らないの?」

「うん、ちょっと食欲がねぇ。あ、ベリーを食べたから大丈夫よ」


 ろくに食事を取らない。

 せいぜいベリーを少々つまんだくらいだ。

 魔族じゃなくても、まったく足りない量しか口に出来ないでいた。


「もっと食べないと身体が」

「うーん」


 肉を差し出すけど、ママさんは眉を寄せるばかり。

 いつも明るい顔で快く応える姿はどこにもなく――


「早いけど。寝るわね」


 ついには家に戻ってしまった。


 ママさんの戦闘力は職業クラスを考えれば相当高い。

 身体能力も高いし、最初ボアに止めを差していた。


 ゴブリン程度ならよほどの数が居なければ勝つ――というか実際武器を振るえないノヴァの代わりに村を守っていたらしい。


 だからこそみんな一晩くらいなら居なくてもいい。

 と考えていたはずだ。


 けど無理だ。

 畑仕事も辛そうで、大半が僕に任せる始末だった。

 とても戦える状態じゃない。


「僕が守る」


 そのための準備は既にしてあるんだから。


 この2月の間、僕も成長している。

 領土内の情報を把握することに関しては相当だ。

 特に敵と塔の状況は起きた時に、寝ている間のことすら分かるようになった。


 それら情報を整理して分かったこともある。

 それは魔物はやはり宝玉にまっすぐ向かって来ると言うことだ。

 それと柵は迂回するということ。


 もともと魔物には知性はないとされる。

 視界に映る生物を愚直に攻撃を仕掛ける。

 柵で視界を遮れば、壁がある家の中なら、狙わないのもこのため。


 ただ見えてなくとも宝玉は狙ってくるし、宝玉の位置が分かったように動くのに、柵は乗り越えてこない。

 まるで上から見下ろした時の――平面で情報を取っているよう。


 そんなタワーディフェンスゲームの敵まんまな動きをするということが分かった。


「よし、ここも大丈夫だな」


 僕は夕食の後、暗くなった後に村中を回った。

 松明の明かりの火の熱で汗が垂れる中、柵の点検をもう一度した。


 ここ2週間で新たに追加した柵がある。

 宝玉の間を除く、建物の外側から領土の淵まで扇形に作った。

 魔物は空いた東西南北のそれぞれ柵の隙間から、宝玉の間へ向けて直進する。


 タワーディフェンスゲームでもっとも有り得ない配置だ。


 普通なら迂回させるように施設や柵を置く。

 そうして遅延させてる間に上から塔が狙う。

 これが通常の戦略だ。


 正反対のこの配置が、この村では正解だ。

 宝玉の守備は大事だけど、それより夜にゆっくり眠れることが優先だ。

 生活のための領土なのだから。


 もっとも散発的なゴブリンの襲撃なら真っ直ぐ来ても余裕だ。

 仮に最初の頃ほどの大軍だとしても――


「よし、これだけ木があれば――」


 宝玉の間に積まれた丸太は数えきれないほど。

 壁際にぎっしり天井まで積まれ、全員入れた部屋のサイズが今やトイレくらい。

 壁の穴も穴である意味を為さないくらいで。

 念のために扉はずっと開け放っている。


 ストレージの光内にある丸太の数に安堵した。

 広場に松明を差して、今度は屋根に登った。

 今や登るのも手慣れたもの、広場の明かりがあれば問題なく。

 梯子がなくたって、ここと厩なら簡単に登れる。


 宝玉の間と広場に通ずる十字路。

 そこを射線に納めるように、村の内側を見られるような台座を追加している。


 それら宝玉の間の屋根から見る限り、午前と変わらない状態。


「よし、大丈夫だ」


 台座の無事も確認して、下に降りる。


 これで射線は完全に通る。


 仮に、仮にだけど、仮に大軍が来たのであれば――

 投石塔スローワータワーが大軍を処理して、細かい敵を射手塔アーチャータワーで撃ち倒す。


 そういうタワーディフェンスゲームでは当たり前のプランで迎え撃つ。


 ずっとそう考えていた。

 けど塔というのは万能じゃない。


 それは『射程内の敵の内もっとも宝玉に一番近い相手を狙う』というルールがあるからだ。


 それはどの塔でも例外はない。

 攻撃間隔の長い投石塔スローワータワーで少数の抜けた敵を追い掛けられたらどうなるか――


 だから今度は家に戻った。

 入ってすぐ、横にした梯子が壁に立てかけられている。

 今はその更に奥には斧。


 ノヴァから貰った使い古しの斧だ。

 あの堅い木を穿つのだから当然、大きく重い。

 刃の部分だけでも僕の顔より大きい斧。


 それを今や僕は片手で持ち上げることが出来るまでになっている。

 肩に担いで宝玉の間に向かう。


 そして僕は宝玉の前に陣取った。

 斧の刃を地につけ、柄を杖のようにして仁王立ち。


「いざとなれば――」


 僕の覚悟に呼応するかのように。

 風は吹き――そして水が落ちて来た。


 一滴二滴、ぽたぽたと落ちて来る――雨。

 やがて視界を遮る豪雨となった。



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