4-13
――朝
起こされて、みんなで食事。
――午前
村の設備チェックして、森へ食べ物を取りに行く。
――昼
ノヴァとママさんと畑でおやつタイム。
――午後
ノヴァと伐採、木工、修繕。
――夕
仕事を終えて広場で食事の始まり。
そんな毎日のルーティンをこなして過ごしていた。
ここ最近は真紅の夜明けの頑張りの成果で、ボアの狩猟が安定化。
おっちゃんが居なくて売りに出せないことで、大抵夜には肉が食べられている。
相変わらずボア肉は美味しい――いや魔味しいけど。
調理法が焼くか煮るの二択で、調味料も塩だけで味付けは一辺倒。
何度かベリーソースがけが出たけど――ノーコメントな味だった。
そんな贅沢な悩みが出始めた夕食時のこと。
「今、イグはどこかな?」
『今はどこそこに行っているだろうか』
『何を買って来るだろうか』
などと最近ノヴァは良くおっちゃんの話をする。
「元気っすかねぇ」
「旅立って二か月経つし、そろそろ近くまで来てると思うんだが」
「え、そんなに経った?」
「あーじゃあいつ戻って来てもおかしくないわね」
「――うま、肉うま」
一人だけ違う話をしつづけるいつもの光景だけど。
今日は少し違った。
「おー戻って来るってことは――じゃあパパ?!」
「うむ、迎えの祭りを考えなければならない」
「やったぁ人がふえたからなー色々出来るぞー」
「っすね」
「ふっ、そうだな。これだけいるんだ盛大にいこうじゃないか!」
ノヴァの笑顔。
久しぶりに見た気がするテンションの高い笑顔だ。
だが、同時にそれは嫌な予感をさせた。
「そうね。何しろ、今は私たちは7人いるもの!」
「やるんだねパパ、ママ!」
「ああ、ついに、ついにだ。我々は長い雌伏の時を越えついに! あの魔王と双碧、四天足を揃えた至上の出迎えセレモニーが出来る時がきたのだっ」
「おおおぉぉ!」
「すごいっす!」
「人が多いって素晴らしいわっ!」
やんややんやと盛り上がる4人。
まーったく意味が分からないのは僕だけでなく。
横を見たら顎が外れそうになってるガーネットと目があった。
「ねぇ、ひょっとして――私たち数に入れられてない?」
「双碧と四天足って――何?」
「――魔王の側近――と将軍? のこと」
「本に出てくる――あ、やっぱりその――家柄のいいとこって違うの読むの?」
「ああ、どうだろ? 五番目は森の中は凄く記憶にあるけど」
「あ、そこは覚えてるんだ。まあ魔王城の下りは結構とびとびだし、覚えてなくても仕方ないのかな?」
「――うん」
「四天足は魔王領を納める領主にして魔王城の鍵を預かる守護者なの」
「ああ、全部集めると開く的な?」
「そうそう、それ。後はそれぞれドラゴンを従えていてって設定ね」
「ドラゴン!」
「うん、森の支配者ってドラゴンを倒す下り――覚えてない?」
「いや――流石にドラゴンなんて出てきたら覚えてるはず」
ドラゴン――冒険の先にいる伝説の生物。
そんな冒険への憧れを具現化したような生物を僕が忘れるわけがない。
多分、読んでもらっていない。
それか記憶も残せていないくらい赤子の頃に一度読まれたっきりなのだろう。
「じゃあ双碧っていうのは?」
「側近ね。魔王に常に付き従う2人の女魔族って書き方をされることが多いかな?」
「――来ない方が多いと思う」
「それって勇者の物語には何種類かあるってこと?」
「うん、うちのとペルーサのとこは絵が違ったよね」
「――うん」
「絵? 絵なんてあったんだ」
「――えっ」
「無いの?」
「記憶にはないなぁ」
やはり僕は大分常識知らずのようだ。
この際だからと色々、勇者の物語に聞いてみようと思った。
けど、向こうの盛り上がりは留まることを知らない。
「ガーネットとペルーサは双碧だろう? 魔王はカイトか。じゃあ俺は――」
「まあパパったら駄目よ。狙いがみえみえ」
「な、な、何が見えてるっていうんだ」
「森の守護者がしたいんでしょ? 駄目よぉママだってそうしたいわ」
「じゃあフレアも!」
「ウチもっす!」
「ほう、まさか――被るとはな」
何か勝手に配役が決められている。
しかも魔王役とか。
それは置いておいても話が見えない。
「森の守護者って人気なの? みんなやりたがるほど?」
「んーポリーはともかく魔族の人はそうかも」
「――四天足最強、魔王軍最高の剣の達人」
「へぇ」
「勇者に一騎打ちを申し込む武人って感じよ。それにあと一歩ってところまで勇者を追い詰めるの。女神の加護がなきゃやられてたって感じで」
「――しかも義理堅いイケメン」
「そうそ、それでアスコット公の旧友で出番も多いからね」
「――ていうか他のが出番ない」
「出番ないの?」
「うん、4人倒せば門が開くぞって話なのに。森の守護者倒したら鍵4つあるの」
「――話抜けてる? って思った」
「へぇ、まあ昔の話だもんね」
ボスより人気あるイケメン敵役。
まあ向こうの面子が全員狙うのも分からないでもない。
「俺だ。やはりパパだろ。守護者は男って設定だぞ」
「フレアだよ。だって四天足で一番若いでしょ」
「ママよ! 一番血が近いはずよ!」
「じゃあウチは――ウチは――うぅぅぅ何にも――ないっす。でも他のは嫌っす」
「ああ、御免なさいね。ポリーちゃん。駄目ね。これで決めるのは――」
「うむ、そうだな」
「ごめんねーポリー。じゃー勝負だ! 勝負して決めようよ!」
「良いわね。対等の勝負で決めましょう」
「後腐れなしっすね!」
「ほう、いいだろう。いずれにせよ俺が勝つがな」
「負けないもん!」
4人の火花散る睨み合いの中。
焚火を飛び越える勢いで、間に割って入ったのはガーネット。
「待って待って待って!」
「なんだガーネット。ジャッジをしてくれるというのか?」
「そうじゃなくて――」
「え、じゃあ――ひょっとして参加したいとか?」
「――そうだ。私だって森の守護者がいい!」
「いや、そうじゃないでしょペルーサ。なんかやる流れで決定みたいだけど?」
「無論、何を疑問に思うことがある?」
「あら、ガーネットちゃん変わったこと言うわね」
「ほら、いつものことっすから」
助けを求めるように、ガーネットはこっちを僕を見る。
「――森の守護者を譲るならやろう」
「ほう、悪くない取引だ」
「ぐぐぐ、痛い――痛いけど――!」
「仕方ない今回は譲りましょう。今の村の人数なら幾らでもやる機会はあるものね。あ、そうだ。ポリーちゃん順番でやってくのはどう?」
「いいっすね」
「待って待って! だから待って! ちょっとペルーサ何裏切ってるのよ」
「――森の守護者ペルーサと呼ぶがよい」
ガーネットの奮闘空しく話は進んでいく。
「ちょっとカイト。助けてよ」
「まあ、うん、魔王役はちょっとなぁ」
「そうじゃないでしょ」
「ああ、うん。そんな三人が端役になるのしなくても」
「違うでしょ」
「ああ、御免。慣れちゃったかな。やるのは決定なの?」
「決定だよー!」
「うむ、それに賛成派は5人いるからな」
「うっ、いや、ほら、こういうのって迎えられる人の問題でしょ。おっちゃんが喜ぶかな? というか喜んでたことある?」
「当然ある」
「当たり前よねぇ?」
「うんいっつも『あ、ああ、ははは、いいんじゃ、ねぇか?』って拍手するよ!」
「滅茶苦茶、苦笑してるじゃない!」
「だとしても満面の苦笑っすよ!」
「そうよカイトちゃん。私たちの全力の出迎えを喜んでないわけがないじゃないの。どれだけ準備すると思っているの?」
「一人よがりじゃないかな――相手の喜ぶことをしてこそのエンタメじゃないの」
5人は顎が外れるくらいに口を開けて固まって――
「な」
「ん」
「だ」
「と」
「――っ」
倒れ行く5人。
言い過ぎだったかな? と思うくらいにショックを受けてる。
「なんでペルーサも効いてるのよ」
「――盲点だった」
「そ、そう」
「ともかく、おっちゃんが喜ぶものを出そう。例えばほら食べ物とかどうかな?」
「食べ物――なぁ」
「うーん」
「びみょっす」
反応が良くない――と思ったけど。
「良いわね。たまには思い切り料理するのも」
「――っっ!」
若干2名の心は動いたようで、焚火を挟んでこっち側に立った。
「ふふっ、形成逆転ね。ナイスよカイト」
「くっ、しかしイグが好きな食べ物――知らずば作れまい!」
「それって?」
「ボアの頬肉の塩漬けよ」
「レジーナ! 君まで俺を裏切るというのか!」
「ふふっ貴方は時流を読めなかったのよ」
「そっすね。ノヴァ。時既に」
「時代遅れー」
気付けば向こうサイドノヴァ1人。
ちょっと可哀想ではある。
「――そのボアの頬肉の塩漬けって作れる?」
「何度も作ったことあるわ。だけど――」
「はははっそうだ。作れまい。あれには大量の塩が必要だからなぁ。くーはははっ!これはもうやるしかないだおるぉぉっ」
「往生際が悪い」
そんなにあれをやりたいのだろうか?
まだ向こう岸でノヴァは粘るようで声を荒らげる。
「うっ、だが事実だ!」
「塩ってどうやって手に入れてるの?」
「今はイグさんが買って来るのよねぇ」
「今は? 今までは違ってたんです?」
「――あ、確かに?」
「んー」
「レジーナ。辞めなさい」
「でも」
「でもじゃないだろ」
「もうフレアちゃんは大人よ」
「うっ」
「良い仲間にも出会えた」
「うっそうだが」
「強くなったってこの間も言ってたじゃない?」
「だけどぉ」
「危ない場所ってこと?」
「ええ、ダンジョンよ」
「ダンジョン! おーあるんだ!」
「遊びに行っちゃいそうだから黙ってたのよ」
「じゃあ、そこってフレアじゃあ危ないくらいの敵が出るってこと?」
「ああ、そうだ」
観念したのかノヴァもついにこっち側に来て会話に参加する。
「――今の私でも?」
「実力的には丁度いいかも知れないな」
「じゃあ」
「親としては嫌ねぇ。4人で行っても下手すれば戦闘不能になりかねないし」
「タームとか出たりしちゃったり?」
「場合によってはな。大抵出るのはワニゲータやパイソンあたりだが」
「よゆーで勝てるよ!」
「勝てないなんて言ってないわ」
「じゃあなんなんっすか?」
「危ないんだ。武器はいい。ギルドの支給品も今は質がいいみたいだからな。だがな防具ない。鎧もなしで敵の攻撃を喰らえば――まともな耐性もないまま受ければ――最悪の当たり方をすれば一撃で戦闘不能行きだ」
確かにギルドが出してくれた装備は武器だけだ。
これは恐らくオープン依頼が戦闘を念頭に置かないから。
あってもゴブリン程度だから。
倒せる武器さえあれば、支障なく依頼をこなせるから。
何故ならゴブリンは素手だからだ、牙も大きくはない。
ノヴァの今上げた魔物は違うのだろう。
身を守る防具なければ、爪も牙も皮膚を破り肉を裂き――骨までも危うい。
つまりは、そういう敵が出る場所ということ。
「じゃあ防具があれば?」
「ないものを議論する気はない」
「仮にあったらの話だよ?」
「ん? まあ、そこまで堅くはないからな。タームが出たら不味いが。まあ、あれは逃げ切れない相手じゃない――それなら入ってもいいと思えるかな」
「じゃあ解決だ」
「何を言ってるのカイトちゃん。あったらでしょ? もう売り払ってちゃってそんな物残ってないわ。木で作れる職業の人も居ないんだし。用意出来ないわよ」
「あるじゃない、あの盾が」
「あれ重いよぉ。フレアじゃあ持って戦えないよ」
「そうだ。俺以外使える者が――」
ノヴァも気付いたのだろう。
僕を見て、僕が頷くのを見て、ノヴァは自分自身を指で差した。
「俺――か」
「そう、ノヴァが行けばいい」
その後、ちょっとぐずったけど。
ダンジョンへの遠征が決まった。




