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4-12


 胸いっぱいだけど、腹いっぱいには足りない朝食を終えて。


「じゃあ見返すために2人も修行?」


 2人の予定を聞いてみる。

 行動によっては何か一緒に出来るかもしれない。


「んーそれはそれ――かな? 休みに魔力使うのもね。ペルーサは?」

「――寝る」

「寝るのぉ? 勿体ないでしょ」

「――寝る」

「はぁ、仕方ないわね。じゃあ私は――んー折角美味しいものが一杯ある村だしね。うん、ママさんのとこで料理ならってこよっと」

「いいね。頑張って」

「うん、ペルーサ置いてくけど――ま、ほっといていいからね」

「――いてら」

「いってっらっしゃい」


 残された僕とペルーサ。

 既に椅子の上で寝ているかのように俯いている。

 といてもフードの下で目を瞑っているか分からないけど。


 ガーネットと違ってペルーサは良く分からない。

 多分仲良くはなっているんだろうけど、いまだフードも上げてくれない。

 朝から深々と被ったままで、食事中だってそうだ。

 鼻から下しか見えていない。


 時折驚いた時に見せるのもせいぜい目がちらっと。

 ピンクの瞳に白目はあって、魔族って感じでもない。


 何か隠したいのか、ただ被ってたいだけなのか。

 とかく分からない子だ。


「――で、ペルーサはどうするの?」

「――寝る」

「ここで?」

「――寝る」


 既に寝てるんじゃないかっていう断固たる返答。


「じゃ、僕は外に行くかな」

「――どこに?」

「森に出ようと思って」

「――危ない?」

「ん、まあ君たちが休みだとちょっと不安だけどさ。ほら、おっちゃんが旅に行ってから食卓がちょっと寂しいでしょ?」


 今日の朝もそうだ。

 『レジーナのが取る』なんて言ってたけど、実際食卓の彩りが少ない。

 パンだって残りが少ないのに、食事の量が減っている。

 ここに来てジャムを出して来たのは仕方なくだと思う。


「――うん」

「だからちょっと、食べられる物を取って来ようかと」

「――っ!」


 突然目が覚めたように弾けて、フードの下のピンクの目が薄っすら見えた。


「――行く」

「行くって――森に?」

「――早くっ早くっ」


 背を押されて外に――そのまま森の中まで到達してしまう。

 領土の外に出たからか、陽を防ぐ枝葉のせいか、ひんやりとした空気が肌に触る。


 特に今日は真紅の夜明けが休みにしている。

 なのだから、魔物がいないとも限らないのだ。


 一歩一歩慎重に歩き――たいけど背中を押す力は相変わらず強い。


「ちょっとちょっと、押さないで。怖くないの? みんながいなくて」

「――別に。バフある」

「バフがあっても僕は戦えないんじゃないかなぁ。木も持ってないしさ」

「――任せて」


 そういうと背中を押す力は消えて、代わりにペルーサは僕の前を歩く。

 フレアよりちょっと大きいだけの小さい身体の胸を大きく張って。


 頼もしい格好のつもりなのだろうが、コミカルで可愛くしか映らない。

 ただ、恐らくそれでも僕より強いんだろう。

 少数のゴブリンなら”へ”でも無いのかもしれない。

 それにポリーの槍の前に身を投げ出したりしていた。


 思ったより覚悟のある子なんだろう。


 そんな子の後ろを情けない思いで歩いてると。

 以前おっちゃんと来た場所に出た。

 少し上を見ればそこには紫色の実が歯を出したような姿でぶら下がっている。


「あ、あれだ!」

「――あれ?」

「これだよ。これ、おっちゃんが取ってた奴。ちょっと怖いけど」

「おーこないだの美味しかった奴」

「いやほんと見た目はあれだけど。美味しいよね」


 紫の口のお化けのような果物は比較的高い位置に生っている。

 背の低いペルーサでは手を伸ばしても届かないし、背伸びしても届かない。


「――取って」

「はい」

「――もっと一杯、一杯とろ!」

「はいはい」


 籠に入れる度にじっと果物を見つめ。

 口の端からよだれも垂らす。


「他のも取ったら、ちょっと休憩しながら食べよっか」

「うん!」


 よっぽど食べたかったのか食い気味の返事だ。


 だけど、果物以外の物は中々見つからない。

 あっちへこっちへ森の中を村からどんどん離れていく。


 ペルーサも一緒になって探すけど――


「――カイト、これは?」

「うーん、色が怖いなぁ」


 紫と緑の毒々しいキノコを両手一杯に抱えたり


「――これどうかな?」

「ただの葉っぱじゃないかなぁ」


 実とか、食べられそうな茎でもない、食べたらエグそうなぎざぎざの葉だったり


「――これこれ、これはベリーみたい!」

「確かにこの粒と色はぽいけど――」


 ペルーサが指差したのは小さい丸い粒粒たち。

 ただそこは地面の葉っぱの間だ。


「くさっ! 糞でしょこれ」

「あははっ! 引っかかった!」


 意外にも悪戯もするペルーサと一緒に、時間を掛けて食べ物を探した。


「やっと、一杯になった――」

「――うん!」

「じゃあ、あっちで休もうか」

「――あっち? 村じゃなくて」

「うん、手とか洗いたいしね。河原で食べよう」

「――あ、川。うん!」


 フードの下から今日一番うれしそうな声。

 ペルーサは食いしん坊――取り合えずそれだけは分かった。


「よし、何も居ないな――じゃ手を洗って食べよう」

「――はーい」


 おっちゃんと寝転がった岩の上に籠を置いて川へ。

 緩やかな川の流れに、泥で汚れた手を差し入れる。


「つっ――染みるぅ」

「――あ、血」

「ああ、切っちゃってたのかな?」


 右手の小指側の手の甲に擦ったような傷があった。

 血はもう流れていないけど、皮膚の下ピンクの部分が露出していて凄く染みる。


「――貸して」


 僕の傷ついた手を、ペルーサの小さな左手が取る。

 右手を傷口にかざして緑色の光を集めて呪文を唱えた。


「――活力を」


 すぅと光は傷口に吸い込まれていって、痛みは散っていった。


「ありがとう。こんな傷で回復使わせちゃったね」

「――回復じゃないよ」

「違うの? でも、あ――傷は塞がってないな」


 皮膚の下のピンク色の部分はまだ露出したまま――だけどさっきより色が健康な肌の色に近くなった。


「――治癒力を上げるバフなの」

「へぇそうなんだ。あ、何か皮膚が出来て来てる感じかな。ちょっとかゆいや」

「――それくらいの傷でも完全に塞がるには半日くらい掛かっちゃうから――」

「うん、ありがとう。ほら、じゃぶじゃぶ洗っても全然痛くないよ」

「――良かった」


 手を洗って岩に籠を挟んで並んで座る。

 下に眠っている口の果物を取り出して2つに割って片方を渡した。


「――あり、うまっ」


 ようやくありつけた――と、満足気に頬張るペルーサ。


「満足? あ、いやそれじゃなくて。今の暮らしが」

「――満足! どっちも」


 回復術士ヒーラーはこの世界でもっとも貴重な職業の一つ――所謂八大職だけど。

 ある意味騎士(ナイト)より貴重だ。

 それは健康に密接している、普通の人々が直接恩恵を受けている職業クラスだ。


 だから大抵冒険者なんてならない。

 必要ないくらい稼げるからだ。

 貴族やギルドに雇われることも多い。

 そうじゃなくても、村、町、都ですら幾らでも好待遇の仕事がある。

 割り合い数が居る職業であるのに、常に足りない――なんてことは幾ら常識のない僕でも知っていること。


 だから、治癒力向上とはいえ回復に類する能力を持つならば引っ張りだこのはず。


「その――ペルーサも置いて行かれた。でいいんだよね?」

「――うん」

「あの2人ってそこまでなのかな。多分、斥候系と前衛系だよね? しかも冒険者になるくらいなら騎士じゃない――いや八大職じゃない。回復系の付与が出来る術士と比べて――その――上じゃないよね。なのに置いて行ったの?」

「――ちょっと違う」


 そういうとペルーサは顔を果物から外してこっちに向けた。

 フードの下にちらっと真剣な目が映る。


「――あの2人は凄いんだ。勇者になるんだって。口癖なんだけど――それは絶対に叶えたいことで――そのために何でもするって。どんどん先に行こうとして、依頼がなくても森に入ったり――でも私たちは違った」

「じゃあ方向性の違いみたな」

「――ううん。怖かったの。そんな勢いで先に行って何かあったらって。ガーネットも私も、一緒に楽しく暮らすための冒険者だと思ってたから」

「そうだったんだ」

「――見返したいってガーネットが言ってるの――ほんとは自分のこと。置いていくなんて言われて――黙ることしか何も出来なかったから」

「そっか――」

「でも、今は楽しいんじゃないかな? 辺境に居て、強くなってるし。2人で居た時より――笑ってる」

「ペルーサは?」


 風が吹いた。


「楽しいよ」


 それは半分になった口の化物の果物を落としてしまう強くて――

 それはペルーサのフードも一緒で。


「――お」


 捲れたフード、ピンク色の瞳、それと同じ色の髪が露わに。

 意外にも髪は長かった。

 両手で顔を挟むように髪を抑えても、後ろで束ねた髪が揺れる。


「――見られちゃった」


 目と髪と同じ色に染めた頬。

 大きな丸い目と目が会うと、にかっと悪戯っぽくはにかんだ。


 次の瞬間にはフードの下に隠れてしまう。

 それ以降は前みたいに反応の薄い子に戻ってしまったけど――


 意外にも悪戯好きで好奇心旺盛な彼女のこと、今日は色々分かって良かった。




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