4-11
おっちゃんは「少し長くなるぜ」と旅立った。
それからしばらく――僕が最果てに来てから1月が経とうとしていた。
「今日はお休みなんだ!」
いつものように3人での食事をして5人で卓を囲む、いつもの朝。
フレアに寄って唐突に発表された休み宣言。
寝耳に水だったのか、ガーネットはパンにベリージャムを塗った途中のまま固まりペルーサはパンを頬張ったままフードの下から目を覗かす。
「へ?」
「――ふぁふぅふ?」
「ペルーサ飲み込んでからにしなさい」
「言ってなかったっけ?」
「そりゃ昨日寝る前に初めて出て来た案っすからね」
「あーそっかーそうだったな。ガーネットとペルーサはそれでいいかな?」
「んーまーたまにはいいかな」
「――良し」
「よーしお休みだ! 今日はパパと稽古するぞー 剣から絶対火を出ーすっ!」
「休み――なんだよね?」
「だから思いっきり出来るんだよ」
「ノヴァ可哀想っすねぇ」
「ポリーもやるんだよ? 弓の練習するんでしょ」
「やーごろごろするっす」
「駄ー目っ、弓の練習するからって、フレアのお肉とってったでしょー」
「えーあ! あれはーっ!違うっすよ! ごろごろしたいっす」
「駄目ー」
「あ、そうだ! 今度返すっすから」
「駄ー目ーっ! いくよ」
「やぁぁぁぁ」
逃げだそうとするポリー。
だがあっさりと尻尾を掴まれて引きずられて出て行く。
捨てられた子犬のような目をしていたけど――
「――安らかに眠れ」
「いや、そこまではちょっと可哀想だよ」
「ま、仕方ないわね。ボアの肉を余分に食べたんだから」
「――そう、ボア肉はこの村の掟、不文律、最高権力者の証」
「いや、そこまでは――」
あるかもしれないなと思った。
遊ぶ――なんてない村じゃ食事が最高の娯楽だ。
そんな村でこの世で最高の食材とも思えるボア肉を喰らう。
その危険性を認識してなかったポリーが甘いのだ。
「しっかし、この村本当なんでも美味しいわよね。このジャムも」
「――最高」
「でしょって、あーあーペルーサ幾らなんでもつけ過ぎ。ほら、口についてる」
「――どこ? とって」
「しょうがないわね。あーまだ付けるの? なくなっちゃうじゃない。待ちなさいよカイトはまだなんじゃない?」
「うん、ああ大丈夫だよ。全部食べていいよ」
「――しゃっ!」
ガーネットたちともまあまあ打ち解けたと思う。
出会いは正直良いとは言えなかったけど。
それは向こうも一緒で、再会後――村に来てから暫くはなんというかぎこちなさが残っていた。
けど、もうその面影はないはずだ。
毎朝一緒に食事を取って、話をして、大分気安い関係になってると思う。
だから少し気になっていたことを聞いてみる。
「そういや2人はどういう関係なの?」
「あーペルーサと?」
「うん」
「――お隣さん」
「ああ、同じ村出身なんだ」
「ええ――4人でね。パーティを組んだのよ」
「そっか、そうだよね。ごめん」
「良いのよ。別に今のが性に合ってるから。特にハリー――ああ、五月蠅いほうね」
「――勇者勇者うるさい」
「そう、そうなのよ。勇者になる! とか言ってね。だから私たちじゃあ足りないんだって言って置いていかれたの」
「――昔は泣き虫だったのに」
「泣き虫? 彼が?」
「彼らよ。2人とも。私たちの後をついて歩くばっかりだった」
「想像が付かないや。特にもう1人の大きい人は」
「あーエギル? あいつもあいつで暗いとことか駄目でね。納屋とかで駄目なの」
「――かくれんぼ」
「ああ、そうそう。納屋に隠れたらあいつ入ってこれないの。それで――」
ころころ笑う2人の顔が、すっと暗くなった。
子供の頃からの知り合い。
仲の良い幼馴染。
それに置いて行かれた心痛――
「カイトはどうなの? 小さい頃の友達――ここで育ったわけじゃあないのよね」
「ああ、僕は家から出たことなかったから」
そう僕には分からない。二度の人生を持ってしても。
「――え、あ、御免」
「ずっと家で修行の日々でね」
そういうと、2人の顔は唐突に晴れて「すごーい」と声を同時に上げた。
「――貴族?」
「貴族だったの?」
「え、えーと分かるの? 貴族ってそういうもの?」
「うん、そうだよ。貴族の子は修行修行の毎日でほとんど家から出ないって聞くよ。私たちの町のしょうもない領主だってそうだったな」
「へぇ、みんな同じなんだ」
「え、どこの出身だっけ?」
「えーと都」
「はっええっ大貴族じゃない。それが何で――」
「――ガーネット」
「あっ、あーそっか。そうだったね――御免」
「いや、いいんだよ。別に仮に固有職じゃなくても最果てには来たと思うから」
「へぇ、カイトもそういうタイプなんだ」
「僕も?」
「ん、ああ、あいつらも似たような感じじゃない? 勇者になるってんだから。森を旅する気なのよ」
「そう――なんだ」
少しあの2人に親近感が沸いた。
あの見下したような、冷たい目しか思い出せなかったけど。
少し話してみたいと思った。
「ま、だからここで強くなったらあいつらビビるでしょ? あれあれ? お2人さん勇者勇者五月蠅かった割には、森で暮らすこともしてなかったのかしら? ってね」
「ふっ、なにそれ」
「えっ? 可笑しい? いつか言ってやろうと思ってたんだけど」
「――ぷっ」
「ちょっとペルーサまでぇ」
3人で笑い、冗談を言いながらの食事。
きっと多分、これが友達という奴なんだろうか。
まだ自信はないけど、期待以上の何か暖かい気持ちになった。




