4-6
宝玉が失われたら、この村はどうなるだろうか。
今までの分を取り戻すように森に飲まれるのだろうか。
そうならなかったとして、畑は維持できるのか。
やり直ししたとして、行き成り領土の大きさはどうなるのか。
何をどう考えても――良いことは起こらないのは確実だ。
なら出来得る限りのことをしなくては――
「そいつぁ、村の地図か?」
「うん」
僕はしゃがんで地面に指で溝を掘って地図を作った。
村の外周は木に囲まれ、細い道だけが内側への道。
建物は大小合わせて6つ。
村の入口側には2件の家と小屋が一つ。
入口付近の小さい小屋――馬小屋みたいなところがおっちゃんとグラールの家。
その隣のそれなりに一番大きい家がガーネットとペルーサの家。
村の中央には宝玉の間――ここも大きい建物だ。
その前の森側に開けた広場は集まって食事を取る時の場所だ。
森側には僕の住んでいる場所とノヴァたちの家の2つ。
ノヴァの家の裏は少し開けていた。
今は更に畑もあって村が二倍近く広くなったといっていい。
「こうして見ると広くなったなぁ」
「そうねぇ」
「川ってどこの辺り?」
「この辺りかしら?」
「ああ、そうそそんくらいだろな」
ママさんが手を伸ばして線を引く。
僕の住む場所の方――村の横から伸びて、入口の丁度正反対へ伸びて行くようだ。
「川じゃ無い方って言うことは――畑の奥が多いんだ」
「なのよ。だから前は守れなくて」
「食糧は基本的に畑から?」
「いえ、前は確かにそうだったけど」
「じゃあボア?」
「んなボアは頻繁にこねぇよ。来たら今頃大金持ちだぜ。大体は金で買って来てる」
「豆なんかは森の中に生ってるの」
「じゃあ畑が無くても暮らせるってこと」
「金があればな。ボアは月に一回もこねぇこともざらだからなぁ」
「畑は守らないと駄目か」
「だな。生きて行くにも。人を集めるにしても。畑は必須だ」
「いい売り物になるわよ。辺境の小麦は」
「そっか――後、こないだのゴブリンの大軍は頻繁にはないんだよね?」
「流石に滅多にないわ。あの日の前に大雨だったから」
「あーそういや降った形跡があったな」
「じゃあ、ゴブリン以外の魔物は?」
「この辺りじゃ出ないわ。もっと奥に行けばいるけど」
「そっか――」
整理しよう。
基本的に来るのはゴブリン。
それも散発的にで、大抵は畑の奥から。
これだけなら今の形で守れている。
この1週間問題なかった。
けど来た時みたいに大軍だったら。
ボアも居たら?
大軍には柵でいい。
最初ノヴァが置いたみたいに、柵で行動を制限できる。
ボアは宝玉の間の壁を破って来た。
なら簡単な木の柵じゃあ――駄目だ。
「一杯木があれば強い壁も出来るかな」
「そりゃ無理だぜ。ノヴァでも1日1本を毎日ってのはきちぃと思うぜ」
「フレアが手伝っても――最初はねぇ」
「まあなぁ、これまでやらせてりゃ多少は違ったんだろうがなぁ」
「今まで手伝いとかはしてないの? やりたがりそうなのに」
「させてねぇな。森にはいらねぇといけねぇし。それに伐ってると魔物が沸くだろ」
「そう――なんだ」
僕の知らない世界の常識。
だから依頼なんて形を取らなきゃいけない。
だからノヴァも護衛を頼んでいたんだ。
「ま、木が大量にあっても強い壁なんてできねぇよ。それ専門の職業よばねぇと」
「そっか――そうだったね。僕らじゃ駄目なんだ」
「ふふっ安心して。作物が出来たらなんとかなるんじゃない?」
「ああ、俺ぁが金に変えてくらぁな。そしたら人を雇えばいい」
「そういうのもあるんだ――」
「なんのためのギルドだよ。金ありゃこっちから依頼出せるんだぜ」
「そっか、受ける方しか考えたことなかったな――じゃあ今はこうしよう」
僕は勢いよく指を滑らし、地面を掘った。
おっちゃんとママさんが興味深そうに見入る。
けど、僕の指がすぐ止まると不思議そうな顔で同じ言葉を口にした。
「これだけ?」
「うん、これだけ。節約していきたいと思ってね」
村の地図に柵の線を書き込んだのは畑の外周だけ。
それも囲いにはせず半円状に森側だけをだ。
他のところは柵がないから、当然村側からなら出入りは楽勝。
「畑を踏み荒らされなければいいってことかぁ?」
「そうだね。本格的な柵作りは人を雇ってからでいいかなって。どうせ今の柵じゃあボアには意味がないだろうし」
「でも畑の向こうじゃない――他のところからも来ることあるわよ」
「それは塔に処理してもらう」
僕は畑を見ているノヴァの家の上の射手塔を指差す。
「つってもよぉ。あれは畑くらいしか見えてねぇだろ」
「だから射線を通すために塔を置く台を作ろうかなって」
「台?」
「屋根の上に?」
「うん、柵を作るより効果的かなって。塔を建てられる本数も限られてるから」
「そういや何本だ?」
「感覚的にはあと今は2本建てられるはず」
「感覚なの? あの、何か操作してた奴で分かったりはしないのかしら?」
「レジーナ――んな簡単に行くわけねぇって」
「あら、じゃあ飾り? 確かに――格好いいけど」
「飾りじゃなくて――あ、いやそうだ。忘れてた! それだ!」
「えぇおい!」
すっかり忘れていた。
そもそも宝玉とは何か。
ただの守るための飾りじゃない。
急いで走って宝玉の間に入る。
スマホに近寄り宝玉に変形。
その間も惜しいくらいで、もう玉部分が出来上がった状態から手を伸ばした。
「やっぱり」
変形し終えた宝玉の表面には見覚えのある画面――ゲームの画面だ。
画面には村を上から見たマップが映されている。
精巧で、恐らくこの世界にはない技術で非常に貴重なもの。
ノヴァの空けた屋根の穴すら見える。
でも僕の目はそこではなく、下側に釘付けだ。
1週間前、村を発つ前にはそれはなかった。
でも今は違う。
新しい塔を出せるようになった。
つまりそれはチュートリアルが終わったということ。
チュートリアルが終わればゲームの開始だ。
ゲームが始まればチュートリアルでは使わない要素が順々に解放されていく。
画面に下側中央にそれはあった。
石のハンマーの描かれた丸いアイコン。
上から被さるように書かれた文字は――
『アップグレード』だ。
「ああぁ、やった!」
少し手が震えて、アイコンを2連打してしまう。
けど無事に、地図の上に下からパンした新たなポップアップ画面が現れた。
―――――――――――――――――――――
マスター
ドミニオン
タワー
―――――――――――――――――――――
そこには3つのボタンだ。
「よし! よしっ!」
「おおいぃ! はええよ。何で急に――」
僕はそれには答えなかった。
聞こえていなかった。
いや耳には入っていたけど、理解しようとしなかった。
楽しみだった――目の前に現れた情報に熱中していた。
初めて転生を理解した時、初めて塔を生み出した時。
それらと同じくらい今わくわくしている。
『タワー』のアイコンを押して画面が変わる。
そして変遷した画面には更に『射手塔』『投石塔』『魔法塔』の3つのボタン。
その内の『射手塔』を意気揚々と押した。
―――――――――――――――――――――
?? ← ?? ← ?? ←
↑
威力上昇
↓
?? ← ?? ← ?? ←
―――――――――――――――――――――
見慣れたツリー式の強化項目がそこにあった。
「おお、何か動いてんじゃねぇか。どうなってる? 大丈夫なのか? おいおい」
「やった! やったよ。おっちゃん」
「めでてぇってことなのか」
「そうだよ。だって――」
僕は画面の左下に目を移した。
そこには『Pt』の表記。
そして『Pt』は現在『1』ある。
この1のポイントは割り振れるということだ。
それはつまり「強くなる」ってことだ。




