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4-5


 この村を大きくしていく。

 その結果何かが起きるかもしれない。


 けど今はそれどころじゃなかった。


「実は木がない。カイトの塔も実はもう矢が出ないんだ」

「えっ――」

「あ、それで朝ゴブリンが」

「ああ、すまん。言っておけばよかったな。時間が経っても塔が残るのは分かった。だから今度は木がストレージからなくなったらどうなるか気になってな。残った木も柵として植えてしまった」


 そういえば宝玉の間が随分広くなっていたっけ。


「じゃあ抜いて使いまわしゃいいんじゃねぇか。当面は」

「ああ、ただ。いずれにせよ木は足りない」

「じゃー今日は木を伐るんだね! 伐採任務だ!」

「ああ、そうだ。フレア。だが”今日は”じゃない。暫く続くぞ」

「折角根付かないなら、柵を一杯作っちゃえってことですか?」

「ああ、そうだ」

「木なら幾らでもあるっすからね」

「よーしばんばん伐るぞー!」

「こらこら、魔物が沸きやすくなるんだからな。真紅の夜明け(スカーレット・ドーン)は主に見張りを頼む」

「はーい」

「よっしゃ、はじめっか!」

「いくっすよ!」

「――ほい」


 みんなが気合い入って始めようというところ。

 僕は待ったを掛けた。


「あ、ちょっといいかな」

「どうした?」

「僕は柵の配置を考えてていいかな? 塔の射線とか。守るべき場所とか。そういうの含めてどこに柵を置くか。決めたいんだ」


 説明はしづらかった。

 何故ならそれはタワーディフェンスゲームの原則の話だからだ。

 恐らくこの領土もそうなってると思うけど――確証はとれないから。


「分かった任せる」


 けど、ノヴァは何も言わずに任せてくれた。

 他のみんなもだ。

ガーネットたちがちょっと不思議そうな顔をしたくらいで。


「ただ、村にも動線があるからな。それを邪魔しないように頼む――そうだなイグとレジーナと相談してやってみてくれ」

「俺ぁもか?」

「ああ、頼む。グラールは借りるぞ」

「わーったよ。水は飲ませてやってくれよな」

「ああ、それでいいか?」

「うん、ありがとう」

「よし、じゃあ改めて開始だ」


 ノヴァが斧で地面を叩くとそれが合図。

 ノヴァが先導して村の外へ。


「よーしやるぞー!」

「おーっす」

「伐採の護衛なんて――なんかランクアップした気分かも」

「――緊張」


 といってもすぐそこ。村の入口からほんの一歩行った場所だ。

 そこは柵の向こうで――僕がまた踏み出せない場所で。

 いつもなら、かつてならそれは僕の胸を締め付けることだけど。


 今はもうそんな気分にはならない。


「しっかし柵って取り囲むんじゃ駄目なのか?」

「うん」

「ほぉん、そんなぁもんなんか」

「ママさんは畑?」

「ああ、いくべぇ」


 畑は村の反対側だ。

 宝玉の間の前の広場を通り、ノヴァの家をぐるりと回る。

 家の角を曲がって、広がる景色に――思わず声が出た。


「うわっ――綺麗」

「あら―2人ともーどうしたのぉぉ?」


 目の前に広がるのは一面、直線に整列した緑。

 もう芽とも言えない。膝くらいまであり、鮮やかで濃く力強い緑。


「おぉレジーナぁぁぁ! ――随分育ったな」


 そのど真ん中で作業していたママさんは手を振りながらこっちに駆けて来た。


「そうねぇ。根付かないって聞いてたから――不安だったけど。この通りよ」

「早い――よね?」

「どうかしら? 短くするのは得意じゃないから――収穫まで1月は見ててね」


 早い――と思ったけど口には出せなかった。

 多分、この世界の常識なんだろうし。

 けどどうやら顔に出ていたらしい。


「早くねぇよ? 普通そんなもんだからな」

「うん、あ、でも量は任せて頂戴! ここの広さなら1年はパンに困らせないわ!」

「はぁーここだけで?」


 けどこの世界で見たどこの畑より小さいここで――1年分。

 これも正直よくわからない、けど多分凄いんだろう。


「まあ普通の農士ファーマーの倍くらいか?」

「そうね。それでどうしてこっちに? 手伝ってくれるのかしら?」

「ああ、いや、ちょいと聞きてぇことがあってよぉ」

「いいわよ。どんどん聞いて? 何?」

「村を守る柵を作ろうと思うんだけど。魔物ってどこから来るかな?」

「そりゃ森だけど? えーと、そうね。大体は森の深い方で――川が無い方角からが多いかしら? だから畑が荒らされやすいの」

「なるほど例外もある? いつも同じってわけじゃあ」

「ええ、ないわ」

「だよね」


 タワーディフェンスゲームとの最大の違い。

 それは『敵の出現場所が分からない』ということ。


 どこから、どんな敵が来るかまで大抵は分かる。

 けどここじゃそうは行かない。


「どこに柵があったら邪魔かな?」

「んーまあ大きさによるけど。今あるのくらいなら飛び越えるからどこでも」

「おっちゃんは?」

「川に相棒連れてくことあるからなぁ」

「危なくないの?」

「昼は案外なんもねぇのよ。後は馬車が入って来れれば俺ぁ問題ねぇ」

「あ、収穫した小麦を掛ける場所は狭くして欲しくないわね」


 僕らの後ろ、家と畑の間を指差す。

 ボアを捌いた場所だ。


「んーじゃあ、まあ川へ出られるように。入口は狭くしない。中側には柵を置かないで考えてみるよ」

「村の周りをぐるって覆うんじゃ駄目なの?」

「それでいいなら。考えねぇと思うぜ」

「うん、駄目なはず」

「”はず”?」


 2人は片方の眉を上げて首を傾げる。

 わざとらしいくらい大げさに怪訝な顔を作った。


 変なことは言ってる自覚はある。

 でも上手く説明が出来ない。

 何故ならタワーディフェンスゲームの鉄則というか原則に係わることだからだ。


 魔物は防衛地点――僕の場合は宝玉、それを最優先にする。

 そしてそこを壁などで塞いでしまてはならない。

 必ず一部は通れる道を作っておかなければならない。


 塞いでしまえば守るのに簡単になるから。

 『塞げない』とメッセージが出るか、塞ぐと敵が壁を壊すかだ。


 一度試してみれば説得できるだろうけど――今は木が惜しい。

 宝玉の間を塞いでゴブリンがどうするか見てみたいけど。

 ダメージが入りそうで怖い。


 気軽にやり直しなんて言えない。

 うっかり領土を失ったら、村ごと森に飲まれるかもしれないのだから。



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