4-2
飛んで跳ねて喜ぶ3人。
ついにはママさんも参加だ。
右手一本で回して見たりと――いつまでも終わる気配がない。
おっちゃんもまだ戻らない。
初対面のガーネットとペルーサは固まっている。
ならあれを止めるのは僕の仕事だ。
「おーい! 皆っ」
「わははたのしー!」
「おーい! ちょっと! 聞いてー!」
だけど4人は止まらない。
それもそのはず、ママさんが加わった今。動力源が2つになったようなもの。
もはや風は叩きつけるようにこっちまで飛んでくる。
ペルーサもフードを抑えっぱなしだ。
「聞こえてないわね」
「――楽しそう」
「うん、おーい! あ、ゴブリンだぁぁぁっ!」
「全然駄目ね。本当に辺境の人たち? 危機感がなさすぎるんじゃ」
「まあ――うん、そうだね」
「――日が暮れる」
「いっそ入ってみる?」
「多分死ぬよね」
「まあ、前衛職じゃなきゃ耐えられなさそうな回転してるわね」
「一人は生産系なんだけどね」
「――流石魔族」
「どうする? 明日にする?」
「おっちゃんが戻ってくれば止められるはず――あ、いや、ひょっとしてあれなら」
「あれ?」
「うん、気が進まないなぁ」
「そうは言っても――家壊れそう」
「仕方ないか――レジーナさん」
そう呟いた。
普通にしていても聞こえないかもしれない大きさだった。
けど、ぴたりと風は止む。
回転は止まり、その中央には目を更に赤く光らせたママさん。
「カ・イ・トちゃん? 今、なんて――行ったのかしら――アハッ?!」
「ひぃっ」
「――っ」
ペルーサはガーネットの後ろに隠れようとする。
けどガーネットも逃げようと僕の後ろに行く。
「あーこっちの2人が――ほら、大丈夫怖くないから。いや怖いけど」
「――無理」
「あーそういえばお客さんが居たわね」
「ん? 客?」
「客じゃないよー!」
「忘れてたっす!」
「こっちの2人は」
「ほう――ひょっとしてこれは自己紹介の流れか?」
「ええ、はい、私はガー――えっ?」
自己紹介をしようとしたガーネットを遮って、ノヴァは飛びあがる。
「とうっ! レジーナ!」
「はいっ! はっ!」
「フレア! ポリー!」
「うん」
「いくっすよ」
3人も後を続いて飛びあがって屋根に着地。
「辺境の3魔族! ノヴァ!」
「レジーナ!」
「フレア!」
「そしてぇぇ」
ポリーだけは一息で飛び乗れず、台詞を溜めてよじ登るのを待っている。
「ポリーっす!」
「この地に足を踏み入れてただで帰れると思わぬことだな。ふははは」
「ふーははは!」
良くわかないポーズで決め台詞と高笑い。
多分自己紹介だったのだろう。
フレアと長く離れてたせいかな。
今日はテンションが高い。
「あ、私はガーネットって言います」
「――ペルーサ」
片や、2人は普通にお辞儀をする。
まったくリアクションがなく。何だか冷えた空気も漂った。
「あ、うん、驚いてくれないのね――」
「すみません。そのフレアと一緒だったし」
「―ー慣れた」
「しかも、さっきのノヴァの後だとね」
「――順番間違ったわね――パパ」
「すまんっ! やはりファーストインプレッションが大事か――」
「次っすよ!」
「うん、そうだよ! 次、がんばろー!」
「ああ!」
よくわからないけど上では堅い握手が結ばれていた。
「それでお2人は――ひょっとして――フレアちゃんのお友達っ?!」
「ええと、お友達というか」
「――仲間?」
「ほう、仲間――ということはここで暮らすってことか?!」
「はい、よろしくお願いします」
「――よろしゅ」
「よろしくね!」
「ああ、こんなに増えるだなんてなぁ。よろしく!」
「しかも2人はフレアとポリーと一緒のパーティメンバーなんだ」
「ほほう! それはそれは」
「あらやったわね。おめでとうみんなっ!」
「待て待て、まだ早いぞレジーナ。あるんだろうフレア」
「ふふっ勿論」
「さあ発表してくれ、パーティ名を」
「真紅の夜明け・フェーズ2!」
「おおぉぁっ!」
「なんて――ことっ!」
「ちょ、ちょっと、ノヴァさん? レジーナさん?!」
2人は雷にでも撃たれたようにびくりと身体を一度震わして――倒れた。
地面に転がり、びくびくと痙攣。口からは泡を吹いたように。
目は白――じゃない黒目を向いて。
「――だ、だだだ大丈夫?」
流石のペルーサも慌てている。
「ああ、いいのいいのいつもの発作だと思う」
「――発作?! たいへん」
「あーそういうのでもないから、感動してるだけ」
「感動って――何を? パーティ組めて大げさじゃ」
「君たちがまだまだ魔族に慣れていなかったってことだよ」
僕の読み通り、ノヴァもレジーナも倒れたのは振りだった。
ひとしきり震えて見せたら、足取りも確かにすっくと立ち上がる。
「凄すぎるわ。フレアちゃん。フレアちゃんの赤い髪色と魔族の赤い目、それと朝の赤い太陽を――始まりと懸けたのね」
「そうなの!」
「しかも既に段階が進んでいる――ちょっと見ない内に大人になったな」
「へへ」
フレアは嬉しそうにしながら2人に抱き付いた。
「ほんとだ。良かったぁ」
「喜んでただけだから」
「そうなの。変なパーティ名だと思ってたけど。あそこまで喜んでくれるなんてね。私も嬉しいわ」
「――うん」
2人も満更でない笑顔。
なんだけど――僕はずっと気になっていた。
あのパーティ名、懸かってるのフレアだけだよなぁって。
「よお、今日は一段とテンションたけぇな」
「あ、おっちゃん。グラールは?」
「草食ってらぁな。フレア、ポリー! あーあの荷物は?」
「あ、忘れてた!」
「荷物?」
「ノヴァ、ちょっと待ってるっすよ。フレア」
「うん、待っててパパ」
2人は村の入口に放置してあった荷台へ走る。
”あの荷物”とは帰りに買ったあれのことだろう。
自分たちの武器よりも優先したノヴァへの土産。
僕にはとても持てそうにもない大変な重さ。
それを2人で――まあほとんどフレアが持ちながら、運んできた。
それは細長くした五角形で、赤銅色の、フレアの身体ほどもある。
「――盾か」
「しかも超銅金製の!」
「ほんとパパが前使ってた奴みたいじゃない」
「ああ、本当に」
ノヴァは2人から盾を受け取ると、片手で軽々持ち上げる。
振り回してもびくともせず、構えてみれば地に足が生えたよう。
何物も通さないであろう堅牢さは僕のイメージするかつての世界の騎士のよう。
「格好いいよ」
「似合ってるわパパ!」
「よっ、辺境の騎士」
「ふっ――当然だ。フレアが選んだんだからなぁっ! いやっほぅぅぅっ!」
可愛い娘からのお土産。
格好いい似合ってるとおだてられれば、テンションも上がるのは分かる。
舞い上がって、飛びあがって、再びノヴァは屋根の上。
盾の重さも忘れてだ。
「うわっ、うぉぉぉぉぉっ!」
「あー」
穴が空いて家に吸い込まれていくノヴァの姿と声はあまりにも――
フレアをして「かっこ悪い――」と言わしめた。




