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3-13


 その夜、ギルド内には20人を超える人が集まった。

 ギルドのテーブルの7割くらいが埋まっている。


 駆け出しっぽいのは僕たちともう1パーティ。

 それ以外の冒険者はジャンヌさんのように傷が残っている人も多い。

 いかにもな歴戦感があた。


 そんな人たちの前にも、僕たちの前にも酒が注がれたコップがある。

 でも誰も手を出さない――それどころか神妙にその時を待っていた。


「えーでは、皆さま盃をお持ちください」


 妙に仰々しいジャンヌさんの挨拶で一斉にコップを持ち上げる。


「今日この生命の水を頂ける感謝を女神様に――!」

「女神様に」


 一斉に床を踏み鳴らして、一斉にコップを机に叩きつけた。

 衝撃で酒を零す。

 それが義務であるかのように勢いよく。

 そして一斉にコップの中身を一息で空ける。


「わーっはっは飲め飲めー!」

「うぇーい! 祭りの始まりだぁぁ!」


 あの後、僕らは無事脱出した。


 扉を閉めて一安心――とは行かない。

 休む間もなく走った。タームがダンジョンから溢れたらという心配もあった。


 フレアとポリーには遠慮なく全力を出してもらって。

 僕が付く頃にはもう事態は動いていた。

 更にセーラさんが辿り着く頃に、丁度酒瓶を咥えたジャンヌさんも戻った。


「何ぃぃ! タームが? 中には誰が? 他に居なかっただろうね」

「入場届は出ていません」

「ばっか、勝手に入る奴はいるだろうっ! 私が見て来る。君らはとっととタームをやれる冒険者を見繕って」


 初めてみる本当のギルドのトップとしての顔だ。

 血相を変えて居るか分からない冒険者の安否を気遣う様に少し格好よく見えた。


 僕らは中には戻れなかった。

 正確な状況の報告があったからだ。

 フレアとポリーは試験のためにも戻りたがったけど――駄目だった。


「試験が中断した場合での規定では基本的にやり直しです」

「えーじゃあじゃあ」

「――ついてないっす」

「ですが、過程に応じては試験官の裁量で完了と見なしていいとあります」

「じゃあ」

「ダンジョンの半分も行けませんでした――」

「あーカイト」

「まあまあ最後まで聞こうよ」


 多分大丈夫だ。

 2人の実力は冒険者になる前としては破格に見える。

 それに何だかセーラさんは少し笑っていた。


「今回はイレギュラーを見られたことはむしろ冒険者の資質を見る上で非常に参考になったと思います。それも逃げる選択をしたのです」

「あー戦えばよかったー」

「えーじゃあカイトが受かったんじゃないっすか?」

「まあまあ」

「数も多く、情報もなく、囲まれた状態です。無謀にも戦いを挑む、置いて行かれた仲間を助けたくて共倒れを選ぶなどと愚行をすれば失格でしたよ」

「え、じゃあ」

「てことは」

「はい、合格です」

「やったー!」

「ひょー」


 おめでとうと言う前に2人は倒れた。

 疲れてたのかそのまま眠ってしまう。


 そして2人が目覚める頃にジャンヌさんたちが戻って来た。

 ダンジョンの調査。

 周囲へタームが漏れてないか。

 そういったことを解決していたら陽が暮れていたらしい。


「何でタームが沸いたんでしょうか?」

「魔力が増えたんだろね」

「なんでー?」

「いやまあ考えられることと言えば。森、も、森で――うっごほっ、あー喉の調子が悪いかな。ううんっ」

「大丈夫ですか?」

「ああ、ちょっとね。まあ森で――何かあったんだろうね。それよりも――だ!」

「はぁ」

「セーラも承諾したぞ」

「何を」

「打ち上げ! 飲み会! 宴会だぁぁ!」


 というわけで僕らもギルド飲み会に参加している。


「よっしゃ行くぜぇっ!」

「おいおい、脱ぐなよ! まだ脱ぐなよ!」

「おら飲め飲め。若いんだからさぁ」

「ギルドマスター飲んでます。飲んでますって。ちょっ近い!」


 のっけからギルドの建物が揺れるほどの騒ぎ。

 こういう時、どうしても冒険者の輪には中々――入れない。

 やっぱり僕は端っこに立って見ているだけだけど。


「どうしてお酒零すんだろ」

「もったいないっすよね」

「カイト?」


 今日は違った。

 前のテーブルに座る2人は僕の方を見て座っている。

 当然のように輪の一員と数えていた。


「女神に飲ませてるんだって」

「女神様に?」

「うん、叩きつけた音で”酒ですよー”って知らせて。零して地面に飲ませると酒が女神に届くんだって。それをしないと怒って酒が無くなる――らしいよ」

「そんなにセコくないっすよ」

「そーだよねー」


 2人は女神を信じ切った目で、女神が少しセコく聞こえる伝承にケチをつける。

 信心深いな――と思った。


 僕は元々の世界のこともあり、信心がない。

 だから違和感を持ってしまう。

 神という存在こそ、いるのだろうけど。

 僕がここで生を受けたのだから、多分居るんだろうけど。


 ただそれが信じるに値する、善なるものかは話が別じゃないかと思う。

 神道なんかじゃ神は荒ぶるものだ。

 生贄、人柱なんか昔じゃやってたんだろう。

 暴れないから、代わりを寄越せって言うやくざみたいなもんだ。


 それ以外の神話でも、大抵人を大量に殺していたりする。

 神罰という名の下に。


 だから僕は蔦の女神に全幅の信頼なんておけない、おいていない。

 祈っても、そこに心はない。


 それは今回のことで更に根が深いものになった。

 魔力が増えた。

 木は魔力だ。

 なら僕が減らした森の分の魔力はどこにいった?


 それが今回の騒動の答えじゃないかって。

 これがこの世界の生活圏が狭くなっていく理由じゃないかって。


 だとしたら、随分意地の悪い神だ。


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