3-12
――投石塔
射手塔と違って角ばった形の塔。
八角形の屋上部分には、射手塔と同じく弓がある。
ただし横向きについているし、サイズも全然大きい。
それに大きく引かれた弦に引っかかってるのは矢ではなくスプーンだ。
弓の下を支点として回転し、何かを飛ばせるような――
それが未だ解き放たれぬように綱でくくり付けられている。
だからこれは弓でもなく、石弓でもなく、バリスタでもなく――投石機。
ただ投石機といっても精霊サイズの小さいもの。
射手塔よりちょっと横に大きく、高さはその分低い。
僕の二人分の幅と僕の腰より低いくらいの大きさ。
「そんな――小さいもので何がっ」
セーラさんの疑問はもっともではある。
僕だって初めて射手塔の大きさを見た時は絶望した。
これで何が出来るんだって、暴れたくなた。
「見ててください」
でも今は希望しかない。
精霊は投石塔に合わせて形を変えていた。
角のついた鉄兜を被って、髭を蓄えて、ずんぐりとした背丈。
炭鉱夫かドワーフのような見た目。
確実に仕事をこなしてくれそうで、頼もしくあった。
その精霊があくせく丸太を削り、光の粒となって塔の上に戻って椀に石を積む。
小さい小さい石を積見上げて、もう乗せられなくなる。
達成感のある顔で腕組みをして一度頷く。
そして両手に唾を吐くと斧を取り出し――スプーンを留めていたロープを切った。
限界まで張っていた弦が元に戻ろうとすれば、勢いよくスプーンを回す。
サイズに見合わない低く大きい駆動音。
お腹に響くゴウンという音を響かせスプーンは回転を始める。
まるで巨大な投石機かのようにゆっくりと回転していく。
そして頂点を超えて弓にぶつかるようにして止まる。
激しい衝撃音とともに、待ってましたとばかりの勢いで石たちが解き放たれた。
数多の礫が、下手すればそこらの砂程度の小さい石だけど――
「何でこっちにっ?!」
セーラさんは身構えた。
近づいたように見えるくらい石が大きくなったから。
視界一杯に広がって向こうが見えないくらいに。
まあ僕も一瞬焦ったけど。
「大丈夫ですよ。ほら」
「あ――す――」
石は大きくなって迷宮の通路一杯に広がりながら、地に落ちた。
変に音がしない綺麗な着地――だけどタームたちはぺしゃんこだ。
潰れて、赤い霧を吹き出しながら石で埋まってしまう。
「もう一本いるかな――よし、今だ! 建てろ投石塔」
「通路ごと埋まってるように見えますが。もうこれないのでは――」
「いえ、石に見えますが実体はない――のかな? 多分魔法の一種です。だから仮に僕やセーラさんがあの石を受けても何ともないです。矢の時は避けていきましたし、石でも同じだと思いますよ。だからすぐ消えます。それにそれはタームも」
「消えますね」
役目を終えた石はエネルギーが切れたみたいに消えてしまう。
タームも魔物だから死体は魔力の霧と還る。
それにまだ、あの不快な虫の口のキチキチと動く音は消えていない。
「だからもう一本」
投石塔の投射間隔――ゲームで言えば攻撃クールダウンは長く設定される。
範囲攻撃で威力も高めなのだから当然だろう。
それは僕の投石塔も同じで、多分4秒近くある。
タームの速度なら何れ塔を超えて来てしまうくらい遅い。
だからクールダウンをずらしてもう一本を建てさせる。
2秒に一度の攻撃ならば抜けられることもほぼないだろう。
ただ問題はもう一つある。
ノヴァと村で検証した結果――僕がもっとも力を発揮するエリアがある。
『カイトの領土――』
『いや領土ね』
『そう――? まあそのサン――領土の内外で明らかに変わるな』
領土内の僕はノヴァ曰く『異常』らしい。
この世がひっくり返るほどに。
けどそれはあくまで領土に居てこそ。
領土内に僕が居て
領土内にストレージがあって
領土内に塔を建てるなら
『自動迎撃』
『侵入検知』
『味方識別』
全て僕の意識外で出来る。
無限に生えて幾らでも消費したい木さえあれば、僕自身の疲労もない。
効果時間に関しては検証中とはいえ。
それも出発直前でも、塔はあって動ける状態だった。
つまり領土内なら森の脅威がないということ。
それはこの世界の常識がひっくり返るほどの性能で『異常』なこと。
「カイトー! もー何で立ち止まってるの――って」
「おわっ新しい奴っすね」
「えっ、何これ――」
「――すご」
「これ、さんくちゅありの――」
「領土ね」
「凄いことになりそうっすよ!」
「うん、だから今のうちに逃げよう」
「えっ――でも終わるんじゃない、これ?」
通路一杯に広がる投石。
一撃でタームを押しつぶす威力。
交互に撃ち続ける様はまさに蟻の這い出る隙もない。
このまま終わりに見えるのも分かる。
――だけど
ここは外だ。
領土内じゃない。
領土の外の僕は前のまま。領土を持つ程度の性能と同じだ。
僕の身体から沸くようにしか塔の精霊は現れない。
見える範囲で、撃つ相手が居ないと塔を建てることが出来ない。
更に範囲の外に出るか、戦闘が終わったと思えば塔は瓦解して消えてしまう。
一端攻撃がやんで、また沸かれたたら――終わり。
一歩外に出れば僕は動けないし、燃費も異常に悪い、使いづらいただの固有職だ。
「いつ止まるか分からないので」
「うん、逃げよう」
「っすね。ゆっくり行って。消えたらダッシュっす!」
「え、ああ、そっか。あれだけの範囲攻撃を連発したら――そうよね」
「――行こう」
歩きだす皆を余所に、セーラさんは動かないでいる。
命を賭す覚悟が肩透かしになって呆然としているのか。
タームによって命を散らされることを想像して恐怖で腰を抜かしたのか。
それとも僕に助けられて悔しいのか。
「セーラさん。行きましょう」
「――っ」
「セーラさん!」
奥歯を噛んだまま俯いて――動かない。
「もう、早く早く! ってセーラさん疲れたの? じゃフレアが運ぼっか」
「え、いや――その」
「行くよ! ほいっかるいなー」
「きゃっ、ちょっと危なっ」
「あ、角。捕まるとこだから。じゃいっくよー!カイトついてきてね!」
有無を言わせず持ち上げ背負いこむフレアの勢い。
必死に角にしがみつくセーラさんの困った顔。
何だか可笑しくなって僕も走った。




