2-6
拓けた土地はママさんが豪快に耕し畑となっていく。
追い掛けるフレアとポリー。
「検証次第ではこれは――」
横で腕組みをしたまま眺めていたノヴァはぽつりと呟いた。
「検証?」
「ああ、口に出てたか」
「うん」
「カイトの作ったこの土地。木のない領域はどういう力で、どういう仕組みで出来たのかとおもってな」
「力? 仕組み?」
「うむ、木をどかす力か、木を内に入れない力か。この二つかな」
「何か違ぇがあるか? 更地になったらいいだろぉ、なぁ相棒」
同意するように鳴きながら、グラールは顔を上下する。
けど僕も気にはなった。
「どう違うの?」
「んー言い方が悪かったな。簡単に言えば、一過性なのか。維持されるのかだ。前者なら木が増える度にカイトはまた倒れかねない。後者なら毎日徐々に魔力を消耗していくだろう」
「魔力回復がいる――なぁ。どの道、術酒を買ってこねぇと」
「今日のスープじゃ駄目なの?」
「日持ちしねぇ。ボアも都合よくいるわけじゃないしな。酒にしとけばまあ持つ」
「じゃあ」
二人と一匹は揃って首を振った。
「作り方が分からない」
「作れるならとっくに作ってるぜ。なぁ?」
「うむ、酒があればこの村に冒険者が来ることがあったろうしな」
「え、酒がないと来ないんだ」
「そら、大して金も出せねぇからなぁ。酒くらいはなぁ。あいつら酒好きだろ?」
偏見――言い掛けたけど。
記憶を辿ると、確かに僕が見た範囲でも大抵は酒、酒、酒と手に酒がないシーンがあんまり思いつかない。
「そっか――お酒かぁ」
「ま、ないものねだりをしてもしょうがない。魔力はなんとかするさ」
「しっかし、今日みたいなことがあって脊髄スープもなきゃ最悪死ぬぞ」
「えっそんなに?」
「ああ、まあ、最悪な」
「魔力切れってそこまでなんだ」
「うむ怖いぞ。だが、それは最終手段があるから――心配しなくていい」
「最終手段?」
「そうだ。それより検証をしないとな」
「えーそっちが気になるけど。それよりも大事なの?」
「勿論。仮にこの技能が無限に広げていけるならば世界を変える力になるからな」
「この森がぱーっと晴れるってわけか」
「あ、そっか。そうだね」
まだ僕は森というものの重みが分かってなかったようだ。
家の塀の外に出れたと思ったら、今度は森だったのに。
どこまでも人は行けはしないと言われたような世界で。
どこにだって僕は行けなかったというのに。
懸命に生きている人の重さが僕には無かったんだ。
「しっかし、そうなりゃどこでも行き放題だぜ」
「どこでも――あ、そうだ。それならアレを見にいこうよ!」
『どこでも行き放題』なんてわくわくする言葉だろう。
僕は半ばスキップするようにして村の中央の建物――スマホのある建物に走った。
「うわっ、せま」
中に入るなり目に入ったのは黒い球でなく、ボアが空けた穴でもなく――木。
中には木、木、木。伐採した木が積まれていた。
黒い球を覆うように丸太になった木が積まれ、上のほうには打った枝葉も。
グラールが入っても余裕があった中だったのに、今や3人がやっとだ。
「ああ、すまん。一応避けているだろ」
「ううん、驚いただけ。外に置かないんだ? 雨対策とか?」
「ん? ああ、根付くだろ? いやそう知らないのか。根付くんだ。木を地面に放置していると根付いてまた伸びる」
多分常識なんだろう。
けどノヴァも僕が常識知らずなのは分かっているのか、理由もつけてくれた。
「ああ! 忘れてた。馬車動かさねぇと。来てから動かしてねぇや。行くぜ相棒!」
「馬車? え、車輪でも」
「動かしてないと根付くな。特にイグの馬車は安物で車輪まで木製だからな」
「そう、なんだ。ひょっとして家が煉瓦なのも」
「あっという間にあ森になる」
「あー椅子とか柵もか、煉瓦噛ませてあるのは」
「無論、根付かないためだ」
こんな森の近くの小さな村で、木の小屋一つもなく立派な煉瓦の建物ばかり。それどころか出来るだけ木製を避けている。
なんでそうなんだろうと思っていたけど、ようやく納得出来た。
「カイトのあれ――あー名前は何かないか?」
「名前かぁ、じゃあスマホで」
「すまほ? もっとこう、例えば――そう闇球とかだなぁ」
「スマホで」
「ああ! あと形も変わったよな。そう板状に。んーんー! 一見球でありながら、その実それは仮面。別次元に潜んだ板状の真の姿――次元仮面とだぁぁっ」
「スマホで」
「えぇ――」
「それでスマホがどうかしたの?」
「まあカイトがそこまでいうなら――仕方あるまい。それであの闇――」
「スマホ」
「スマホだが。我々が近づいても次元」
「スマホ」
「そうスマホは板状に変わらなかった」
比較的落ち着いているノヴァだけど、この人も魔族だった。
そういえば最初村に来た時もノリノリだったっけ。
「僕が近づいて形を変えてみようってこと」
「ああ、何か情報が変わっているはずだ。あの――」
「スマホにね」
「うむ」
僕が近づくと、音を立てず舐めならかに球形態から板携帯に変形。
後一歩で手が届くというところで、肩に手が掛かった。
「待て。ちょっと下がってくれ」
「うん? 分かった」
滑らかに球に戻る。
「前へ」
「うん」
「後ろ」
「ん?」
「前、後ろ、前、後ろ――」
「ノヴァ。一体何を?」
何をやらされているんだと思って振り返ってみる。
ノヴァは右手を抑えて震えていた。
「鎮まれ俺の魔族センス」
「何やってんの――?」
「何って。カイト。お前はあの変形を見て疼かないのか」
「うず―ー? いやまあ格好いいとは思うけど」
「あれが男のロマンだ。最初見た時から思ってたんだよ。ずっと見ていたいって」
「――うん、気持ちは分かる」
変形ロボは確かに僕も好きだった。
もっともおもちゃ一つ持っていなかったから、スマホの向こうの話だけど。
「でもロマン感じたいだけなら、もう触っていいよね」
「えー、終わり」
「はい、終わり」
この世の終わり見たいな顔で膝からゆっくり崩れていく。
もうノヴァを振り返ることなくスマホに触る。
「ひょっとしてレベルアップのせいかな」
「どうした?」
「ううん、ちょっと熱いかなって」
「ほう、魔力を消費しているのかも知れないな」
「魔力を使うと熱が出るんだ」
「ああ、そうだ。今朝もカイトが熱いってフレアたちが来たし。木も燃やせば火と熱を発するだろう?」
「木も――って魔力の塊だから当たり前か。あ、今更だけどだから塔のエネルギーになるんだ」
「ふむ、そうだろうな。熱い以外は何か変化はないか?」
「うん、そうだなぁ」
ぱっと見UIが違う。
昨日はOS画面見たいだったけど。
今日はゲームアプリが立ち上がった感じだ。
アイコンや、文字も修飾されていて見やすい。
タップすれば音も出る。
『ぴろりん』
「どうした?!」
「ああ、スマホの音」
「ほう、音? 音――しかもこの聞きなれない音。どんな楽器とも違う。とくれば、これは違う名前を。そう例えば吟遊――」
「スマホ」
「うむ」
動かしていて見覚えがあるということに気付いた。
これは恐らく、僕が死ぬ前にやっていたゲーム。
塔を建てて、拠点を守る。
所謂タワーディフェンスゲームの画面に似ていた。
「なら――大丈夫だよ。ノヴァ」
「ん? そうかやはり名前を変えるか? いいぞ幾らでも」
「いや、そうじゃなくて」
「そうじゃないの?」
「がっかりしないでよ。僕、多分、世界を変えれそうだからさ」
そうあのゲームなら。
あのゲームのように行くのであれば――
この森を僕は晴らせるはずだ。




