月の歌を地球へ
それから数十年後。
地球では月の崩壊から発せられた“謎の光”の記録が残っていたが、詳細は不明のままだった。
ある日、日本の山奥で暮らす高校生の少女・ミオは、山で拾った小さな石に触れて、不思議な音を聴く。
耳をすませると、風に乗って、遠い昔の“歌”が聴こえてくる。
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♪ わすれないで わすれないで
わたしたちの ひかりを ♪
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その旋律は、心に直接語りかけてくるようだった。
ミオはその旋律を学校の音楽室で弾き、クラスメイトに聞かせた。
最初は「変な歌」と笑われたが、不思議なことに、誰もがその歌に涙をこぼした。
「これ……懐かしい気がする」
「なぜかわからないけど、優しくなれる……」
その歌は少しずつ広まり、SNSで注目され、やがて“月のレクイエム”と呼ばれるようになる。
研究者がその歌の音波を解析し、かつて月に文明が存在していたという新たな仮説が生まれた。
そしてミオは夢を見るようになる。
白い丘、赤い空、小さな少女が手を振る夢。
「あなたのところに届いてよかった」
そう言って笑うその子は、かつて月で最後の歌を歌った少女――ユラだった。
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音は、記憶を越えて、心に届く。
かつて月に生きた人々の想いは、いま、地球で未来へと紡がれていく。