表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

2 ある飼い主の証言

 その動物病院に、凄腕の医師がいる。という話をワンコ仲間から聞いた。

 毎日ワンコの散歩コースで会う元気なシーズーのパンチちゃんは、半年前余命1ヶ月の宣告を受けたほどの病状だった。

 難しい場所にできた4箇所もの腫瘍を、わずか3分で見事に手術して摘出し(ウルトラマンか!)、パンチちゃんを生還させたという神の右手を持つ人だという。


 その奇跡のような手術をする外科医。

 それが。

 『ひだまり動物病院』の、鬼瓦 萌美(もえみ)先生。


 わたしの大切なシーズー、サダコも左前足脇の難しいところに腫瘍ができた。

 最初にかかったお医者さんは、太い動脈が近くにあるので手術は無理だと言って、悪性の可能性が高いが「薬で治療しましょう」と言う。

 ・・・が、サダコは苦い薬を嫌がって、首を振って飲もうとしない。

 どうしよう・・・・

 と思っていたところで、パンチちゃんのお母さんから鬼瓦先生の話を聞いたのだった。


 ちなみにサダコという名前は、白黒のパンダカラーの長い毛がシャンプー後に、あの映画の井戸の中から出てくるキャラクターにそっくりだったところから付いた。

 なに? 冗談みたいな?

 いいじゃないの。わたしはサダコを愛しているの!

 ダンナとサダコ、どっちを取るかってシチュエーションになったら? そんなもん、サダコに決まってるでしょ!


 という私は、早速『ひだまり動物病院』にやってきた。


 その先生は・・・ある意味、凄まじい見かけの人だった。

 ピンクのウエーブヘアーに、顔の下半分を覆う青々とした髭剃り跡。その中にかわいく塗られたピンクのルージュ。格闘家かと思うほどのガタイ・・・。


 女医・・・さん? ・・・・・と聞いたけど・・・?


「うふふ♡ みんなびっくりするけど、すぐ慣れてくれるわ。あたし、心は女なの。萌美センセって呼んでね ♪」

「はい・・・・」


 ああ、そういうことか。

 パンチちゃんのお母さんの(*´艸`*)は、そういう意味の表情だったんだ・・・。

 でもだな。

 もう少し、髪とか化粧とか・・・センスってものがだな・・・。

 まあ、ガタイはなんともならないだろうけど・・・。


 バチン。

 と待合室の照明が1つ消えた。


 ヤバい。

 わたしは緊張したり興奮したりすると、謎の電磁波が出て周りの電気製品を壊すという厄介な体質を持っているのだ。


「大丈夫よ。生き物はそうはいかないけど、機械は壊れたら修理すればいいだけだから。費用を応分負担していただけさえすれば。」

 パチン。・・・・・・・


「あらあ。そんなに動脈に近いってほどじゃないじゃない?」

 萌美先生はレントゲンの画像を見ながら、のほほんとした顔でそう言う。

「あたしからすれば、神田とお茶の水くらい離れてますわぁ。全身麻酔が怖いなら、局所でやりましょ。痛みを脳に伝えるのは神経ですから、ピンポイントである部分を眠らせてしまえば大丈夫。鎮静剤はちょっと打ちますけどね。」


 なんか凄い。この先生。


「16秒。」

「へ?」

「それだけあれば手術は終わりますわ。サダコちゃんが気が付かないくらいのうちに。」


 KO予告かよ?


「怖くなければ、そこで見ててもらっても大丈夫よ。」

 萌美先生は手際良く注射を2本サダコに打つと(たぶん鎮静剤と局所麻酔だ)、患部を消毒してサッとメスを入れた。

 貞子は何をされているかわからないような、きょとんとした顔をしている。

 何か金属製の器具で開かれた小さな切り口の中から、ピンセットのようなもので小さな塊を引っ張り上げると、その周りを、すっ、すっ、と素早く切ってゆく。


 パチン。


 あっ!


「大丈夫よぉ。その機械は今必要ないから。」

 で・・・でも! 弁償・・・だよね?

 パチン!


 停電した。

 ヤバい! サダコ!


「懐中電灯。」

 萌美先生の落ち着いた声が聞こえると、看護師さんがパッと手術途中のサダコの患部を照らした。

 その光の輪の中で、萌美先生はススっと病変部を切り取ってしまうと傷口を開いていた金属製の道具も外した。

 1センチほどの傷口はピタッと閉じて、ほとんど血も出ていない。

 萌美先生がそこに何かのシートをぺたりと貼り付けた時、部屋の明かりが復旧した。


「あらぁ、20秒。恥ずかしいわぁ。停電のせいにしておきましょ ♪」


 凄い・・・。この先生。凄すぎる!

 サダコは何が起きたかわからない顔でわたしを見る。


「皮膚組織に沿って切ったから、すぐくっつきますわ。このシートはそのまま生体に吸収されますから、剥がす必要もなく放っておけばいいです。」


 先生はそう言いながら、小さなプラスチックのキャップみたいなものの付いたベルトを、くるくるっとサダコの前足と胴に巻きつけた。

 キャップが今手術した傷口部分を塞ぐようになっている。

 患犬が引っかかないような防護ベルトで、さまざまなケースに合わせて萌美先生が考案して手作りしたものが用意してあるんだとか。

 すっごく器用なんだな・・・。


「明後日になればかゆみも取れますから、これも取っちゃって大丈夫よぉ。また見せに連れてきてください。一応、術後経過を確認しますから。」


 そう言って顔を近づけてくる萌美先生の顔は、別の意味でスゴイけど・・・。

 でも、わたしは思った。


 神様って、ひょっとしたらこんな顔なのかもしれない。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ