1 ある看護師の証言
その人の外科医としての腕は、超一級と言っていい。
たとえるなら、いえ、たとえなくたってブラックジャックそのものなんだ。
他の動物病院で「手の打ちようがない」と言われてきた患犬や患猫を、魔術のようにメス1本で治してしまう。
神様。
ひだまり動物病院の B J 。
などと飼い主さんたちの間で噂され始めているその人の名は・・・。
鬼瓦 権三。
いかつい体躯にいかつい顔つき、顎まわりに青々とした髭剃り跡があり、ピンク色のウエーブヘアーをなびかせた女医さんだ。
そう・・・。
女医さんなのだ。
通称、萌美先生。
本人いわく。
「どんな見かけでも、どんな名前でも、心は女なの。」
もちろん、ピンクのウエーブヘアーはカツラである。
以前勤めていた大病院の同僚イケメン医師に失恋して、その傷心のままにここ『ひだまり動物病院』の院長先生と出会ったのだという。
自身も手痛い失恋経験のある院長の三条桜子先生はいたく鬼瓦先生に同情し、ここで働くことを勧めた——というわけだ。
「ここではどんな生き物も差別せずに救おうとしていますのよ。」
タテマエはわかります!
鬼瓦先生の事情にも同情的です!
でも・・・・
私たち看護師は・・・、鬼瓦先生と同じ更衣室を使うのは・・・・
遠慮したい・・・。(・・;)
ものすごく失礼だとは思いながらも、わたしたちは桜子先生に遠慮がちにそんな申し入れをしたものだった。
「じゃあ、鬼瓦先生には院長室でわたくしと一緒に着替えていただくことにしますわ。」
さらりとそんなふうに言える桜子先生も、わたしはある意味スゴイと思う。
そして今日も、萌美先生と桜子先生はにこやかに談笑しながら院長室から出てくるのだ。
「さあ、みなさん。今日もたくさんの幸せを生み出しますことよ。」
萌美先生もピンクの髪と青い顎で、にっこり笑う。
「張り切ってまいりましょう♡」
初めのうちこそわたしたちは引き気味だったけど、今は鬼瓦萌美先生の凄腕と優しい心にすっかり魅せられてしまっている。
なんで神様は、この人にこんな見かけを与えたのかなぁ———。