第四話 弁解しなければ
でもここで諦めてはいけない。それでは私だけでなく目の前のベロニカ嬢も不幸にしてしまう。
「ベロニカ様!決してそのようなこと…」
「それは本当なの?」
ん?
最後の抵抗と思い釈明を試みるが、ベロニカ嬢の言葉によって遮られてしまった。
でも何かおかしい。
ゲームでもこのお呼び出しはイベントとして存在するが、そこでは彼女は怒り狂いジゼルに掴みかからんとする勢いで捲し立て、「この泥棒猫!」と昼ドラさながらのセリフすら吐くのだが、今聞こえた声はこちらを責め立てておらず落ち着いていた。
遅刻の謝罪で頭を下げてから緊張や恐怖で目を合わせられずずっと俯いていたが、恐る恐る顔を上げる。
怒っているかと思っていたベロニカ様は困ったように眉を下げ、こちらを見つめていた。
予想外の状況に訳が分からず何も言わずにいると、目の前の彼女はちょいちょいとこちらに向かって手招いた。もっと近くに来いということらしい。
近づくと私の耳元に手を添え、
「あまり疑いたくはないのだけれど、そのような話を聞いたものだから…。」
急にごめんなさいね、と付け加えながら彼女は囁いた。
どうやら彼女は怒っているわけではないらしい。むしろ申し訳なさそうにこちらの様子をうかがっていた。
なるほど、どうやら彼女は誰かから私とレイス様が良い仲であると聞いたものの自分で見たわけではないからと、本人である私に尋ねてきたということらしい。
あくまで噂は鵜吞みにせず、しかも私に弁解の機会を与えてくれた。
このベロニカ嬢の行動、確実にシナリオからずれ始めている。
なぜこうなったのか、思い当たる点はたった一つ。シナリオ通り発生したレイス様のイベントに対して私のとった行動がゲームの選択肢にないものばかりだったからに他ならない。
このままシナリオにはない行動をとり続ければ私はレイス様とのフラグを回避し、ベロニカ嬢も守ることができるのではないかしら?
そう思った瞬間、希望が見えた。
誤解を解くため、レイス様は入学式で倒れた私を気にかけてくれているだけでそれ以上は何もないしこちらからアプローチするつもりもない、もし気になるようだったら私を監視という形をとってもらってもかまわないと伝える。
予想外の状況に対する混乱と打開の兆しへの興奮で途中何度も詰まってしまったが、ベロニカ嬢は何も言わず、最後まで聞いてくれた。
そうして私が話し終わるとベロニカ嬢は分かりました、教えてくれてありがとうと言い、それ以上は追求しないようだった。
もっと疑われたりいろいろ聞かれるのかと思っていたので、拍子抜けしてしまった。
自分で言っておいてなんだが、あまりにもすぐ受け入れられたため本当に良いのですか?とつい零してしまった。
すると彼女は少し考えこみ、実は一つお願いがあると言う。
その言葉に私は先ほどの自らの発言を悔やんだが、すぐにそれは杞憂に終わることとなる。
「こんな風に、時々私とお話ししてくださる?教室でのレイス様のご様子を聞きたいの。」
目の前の令嬢はうっすら頬を染めながら微笑んだ。