第二話 本当にゲームの世界!
思い出したこと、今後のことについて考えこんでいるとチャイムの音が聞こえてきて、今日は入学式の日であることを思い出す。
さっきは頭が混乱して飛び出してきてしまったが、さすがにそろそろ戻らないと。不安は残るが私は会場へと駆け足で向かった。
式の会場に近づくにつれ人の数も増えてきた。田舎から出てきた私にはこの場に知人などいないのだが、何人かゲームのキャラクターとして見覚えがある人もいた。
中央のあたりで二人で談笑しているのが王国の騎士団長の息子である熱血漢のマルス・キルティンと、古くから続く名門一族の生まれでミステリアスなオーラを纏うクラウス・オーガンジー。
彼らは正反対のタイプだけれど大の仲良しで、この二人のどちらかのルートを進めるにはもう一方の好感度もある程度上げておく必要があり、ここでつまづくプレイヤーが後を絶たない。
少し離れて花壇を眺めているのが隣国の貴族で留学生のアレン・ジョーゼット。これは彼のルートを進めるとわかることなのだが、実は彼はジゼルと幼い頃に出会っておりジゼルの初恋の相手でもある。
更に二週目以降に解放される学院の教師であるフィル・アムンゼル先生が開会時間が迫っていることを告げに来た。その解放条件からパッケージにもあまり大きく描かれてはいないものの他のキャラクターとは違う大人の魅力で根強い人気がある。
まさか彼らを直接見られる日が来るとは…。先ほど一人になって落ち着いたためかそんなことを考える余裕も出てきて、つい見とれてしまう。
そうでなくともこの学院は貴族の子女たちが集まっているだけあって、建物の豪奢さもさることながら生徒一人ひとりが洗練された雰囲気を漂わせている。
華やかなその場の雰囲気にうっとりとしているとふと視線を感じ、そちらを振り返るとある令嬢がこちらを見ていた。
すらりと伸びた背筋に後ろでまとめた黒髪。何よりもこちらを見る涼しげな眼もと。氷のように冷たい美貌を持つ彼女こそベロニカ・フランボワー嬢である。私が振り返るとすぐ彼女は目をそらしたが、確実に一瞬目が合っていた。
先ほどのレイス様の件を既に聞いているのだろうか?あれからまだ一時間と経っていないが、あんなに人がいたら話が伝わるのも早いのかもしれない。
もしこの後彼女に声をかけられ、レイス様のことを聞かれたらはっきりとただ倒れた私を支えてくれただけで、それ以上のことはないと伝えよう。
そう意気込んだものの、ベロニカ嬢に声をかけられることもなく式はつつがなく幕を閉じ、その日はもう寮に帰ることとなった。