第九十二話ダンジョン攻略九日目3 集団戦1
叱りつけるが環境依存で使えなくて暫く格闘していました
――――と言う訳で手頃なモンスターを探してみる。
天井の片隅にダンジョンバット先生を見つけたので、先ずは《魔法》を発動してみる。
「『薬師如来、阿弥陀如来、大日如来よ。人食いの大妖も惑わす神仏の美酒を与え給へ』」
呪文を詠唱すると菰冠がまかれた四斗樽が出現する。
刹那。木槌が打ち付けられると酒樽から酒が霧状に吹き出し、周囲を覆う酒の霧は、物理的に視覚を覆い呼気から体内に入り込むことで周囲の生命体の身体を汚染し、同時に光太郎の心身を癒す。
やがて霧の領域はドーム状に広がり、濃淡があるものの一定の領域を汚染――――もとい清め聖別する。
「――――」
まるで酔ったか、蚊取り線香で呼吸系がやられたように墜落する。『『蟲』効果上昇』は伊達ではなかったらしい。
その様子を見て師匠はこういった。
「やっぱり毒でもあるんじゃないの……」
それに続いて中原さんはこう言った。
「流石、【神便鬼毒酒】……スライムを除けば最下級といってもいいモンスター相手だと一撃死ですか……ゴブリンだと強いけど『『鬼種』特効』が付いている分|《魔法》も強化されているから一撃死かな……」
――――と言う一声でゴブリンを探しに行った。
腰蓑《魔法》と棍棒だけの貧相な装備のゴブリンも魔法で一撃。
「グギャギャ」
――――と泡を吹いて死亡。
「コータローに勧められたから、一号から見始めたんだけど……一号頃の放射線の被爆して死ぬシーンって、緑色の泡になって死ぬんだけどそれよりもエグいモノがあるわね……リメイク版の密林ライダーとか、序だけで終わった奴ぐらいグロイわね……」
使った俺としても罪悪感を感じるばかりだ。
「見ました? 結構苦しそうでしたよ?」
金属の装備で武装したゴブリンも魔法で一撃。
「グギャギャ」
――――と泡を吹いて死亡。
「……まぁ良かったじゃない。お金稼ぎだけなら楽になりますね!」
「……私は肉や骨を断つ感触がしないのは嫌だから使わないとは思うんだけど……」
「暫くはいろんな意味で使いたくないです……」
「注意しなさい。前方でコボルトが待ち伏せしているわ」
「「――――っ!?」」
分からなかった。“気配”なんていうあいまいなモノを何となく感じられるようになってきたが、師匠程の精度はまだないようだ。
「安心しなさい。かなり離れているわ……まぁでも連携を訓練するには丁度いいわね……」
そう言うとポンと手を叩いた。
「二人とも背中合わせで戦いなさい。腰を紐で結ばれているイメージで3、いや5メートル以上離れない事。いい?」
「でもその距離だと薙刀を振った時に……」
「いいからやりなさい!」
ぴしゃりとしりつける。
「ダンジョンは階層や場所によってはかなり狭いのよ? 互いに邪魔にならない方法を学ぶには、少し弱い程度の相手と戦うぐらいがちょうどいいのよ……あ、それと二人とも制御できる《魔法》や《スキル》の使用は禁止ね」
「分かりました……」
現れたのは、四体の軽装のコボルトだった。
その中でも脚の早い二匹が回り込み退路を塞ぐ。
「――――っ!」
中原さんの吐息が聞こえる。
彼女も同じソロ経験者だ。退路を塞がれる事に成れていないのだろう……と思って声を掛ける。
「前の二匹は俺がやります! 後の二匹は頼みました!」
「了解です。御武運をっ!」
俺と中原さんは互いに1メートルほど距離を取ってそれぞれの武器を構える。
コボルト達は「3人いるのに戦うのは二人だけなのか?」とでも言いたげに視線を交わすと、遠吠えを上げた。
刹那。
二匹のコボルト達が飛び掛かって来た。
「くっ!!」
直線的に飛び掛かって来るコボルトAの攻撃を直前で横にズレ躱し、返しの一撃を叩きこもうとするが、二匹目の攻撃がそれを邪魔する。
「やべっ!」
俺が回避した事で最初に攻撃してきたコボルトAは、数秒は動けないとはいえ現在一番自由に動ける存在だ。
急いで身を翻して、中原さんの方を見ると振り下ろしを多用した“《《背後に居ると思っている俺に配慮した戦い方》》”に注力しているせいで、少し押され気味だ。
俺は自分の失敗を補填するための作戦を考えながら叫んだ。
「一匹真後ろに居ます注意して!」
「了解です。来ます!」
薙刀を振り回し息をも付かせぬ連撃で、見えない背後をカバーしながら二匹のコボルトを押し返す。ある程度余裕が生まれた所で、頭ごと視線を動かしコボルトを確認すると、薙刀の石突を用いてけん制すると、攻撃の機会を伺っていたコボルトAは溜まらず退避する。
中原さんが動いた事を確認した俺は、一番近くにいる二匹目のコボルトBとタイマンを張る事にする。
コボルトBを俺が相手にする事で、中原さんに張り付いているコボルトC、Dと連携して一人を仕留めるか? コボルトBを助けるか? と言う二択を強制的に押し付ける事が出来る。
「戦いとは迷えば負ける。だが考えなければ勝てないのだ……」と心の中の爆弾魔がそう言っている。
俺の方が動けるようになったのは遅いが、レベル2の『ステータス』の分だけ俺の方が早かったようだ。
「――――疾っ!」
コボルトのショートソードが届くよりも早く、剣を横なぎに振いがら空きに胴目掛け斬り付ける。
ショートソードは抵抗無くコボルトBの横っ腹を切裂くと、内臓が飛び出した。俺は素早くその場を離れ、中原さんの攻撃で離脱したコボルトAの背中を斬り付ける。緑の血飛沫が舞いコボルトAはバタリと音を立て力無く地面に倒れると、少しの間ピクピクと痙攣を繰り返した後、何の反応も示さなくなった。
横目で中原さんの方を見るがこちらも終わっているようだ。
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