第七十一話8月01日探索者はお金がかかる5 作刀依頼1
「良い鍛冶師を紹介してあげる」と立花さんに言われて、新幹線と電車を乗り継ぐ事数時間。俺はもうグロッキーになっていた。
「頭のネジが外れている割にはセンサイな子ね」
「生まれてこの方何もする事無く座っているのが苦痛なんですよ!」
俺は抗議の声を上げて二人分の荷物を座席の上から降ろし、電車から降りる。
さらにそこから駅のロータリーに居たタクシーを捕まえ、1,2時間揺られると目的地にたどり付いた。
「到着しました。料金のお支払いはどうされますか?」
「はい。あっ、すみません。QR決済で良いですか?」
そう言って俺はスマホを取り出した。
「大丈夫ですよ。ご利用ありがとうございました」
送金完了の音が鳴り、タクシーを降りた。
工房を見ると、門の中からは鉄を打つ音が聞こえてくるので、ここが目的の工房なのだろう。
「立花さんのお知り合いとの事ですが……その方に打って頂けるんですか?」
「馬鹿言うなよ。彼が作刀したら一体幾らになる事やら……」
「そんなに高価なんですね」
「刀剣の人間国宝は過去に六人いたけど、すでに鬼籍に入られている。現在の最高位である『無鑑査刀匠』の有力候補者だから、コータローが依頼できるような相手じゃないの。1年に1度開催される『現代刀職展』でも賞を取っているから」
調べて見ると、1年に1度開催される『現代刀職展』で入賞15回のうち、特賞を8回以上受賞し、そのうちに高松宮記念賞を2回以上受賞した者、もしくは特賞を10回以上(特賞を6回以上)受賞した者と大変厳しく、約60年で『無鑑査刀匠』になった人物は39人と非常に稀である。
「これから紹介するのは、中学時代の友人よ……変人だけど良い奴だから……」
と不穏な事を言う。
「そんな心配そうな顔しないでよ……腕は確かだから……」
どうやら顔に出ていたようだ。俺のポーカーフェイスもまだまだだな……
何人もの鍛冶師が鉄火場で、金床に置かれた赤黒い金属に向けて槌を振う。金属を叩く音が木霊している。
「確かにコレは都会では厳しそうですね……」
「でしょ?」
と談笑しながら歩いていると、頭にタオルを巻いた和装の青年が歩いて来た。
「立花さん。九条さんがお待ちです」
「案内してくれる?」
立花さんは慣れた様子で、自分よりも年上の男性に案内をさせる。
この人の剛毅さは見習わないといけないな……
暫く歩くと事務所のような場所に通された。
「ご苦労様です」
白いワンピース姿の和風美人と言った風体の女性が出迎えてくれた。
和風美人がそう言うと、男性は「失礼いたしました。」と言ってこの場を後にした。
「胡蝶はそう言ういかにもな格好がホント似合うわね……あの人は弟子?」
「違うわよ。師匠の弟子で私が面倒を見ているだけよ……」
女性は俺の存在を無視していた事に気負が付くと謝罪した。
「失礼いたしました。お話は、銀雪から伺っています。私は九条胡蝶。刀匠……鍛冶師としての名前は炭須濃黒と申します。由来は鍛冶師は英語でブラックスミスと申しますでしょう? それに胡蝶とも呼ばれる。濃姫にあやかり名付けました」
「なるほど……」
どうやら彼女は俺と同じタイプの人間のようだ。
「コイツは昔から凝り性で、好きな事にしか努力出来ないバカなのよ……そのくせ要領はいいからいつも満点だったもの……」
――――と昔の愚痴をポロリと漏らした。
「銀雪は戯れに指導をする事はあっても今まで“弟子”は取って来ませんでした。そんな銀雪の紹介です。寄り一層気合を込めて作刀しましょう! 早速ですが身長と体重、腕の長さと筋力を計らせて頂いてもよろしいですか?」
俺が疑問符を頭上に浮かべているのを察してか、胡蝶さんが説明してくれた。
「腕の長さは、刀の刀身の長さに影響します――――」
そう言うとタブレットを取り出して、画像付きで解説してくれる。
「分かりやすく言えば、ゲームなんかで“太刀”と言う名称で出て来るのは『大太刀』や『野太刀』と言って三尺……90㎝以上の長さがあり、寺社仏閣へ奉納される祭具やご神体であったと言われていますが……上級の武士が馬上の戦で使っていたとも言われています。まぁ馬と言ってもポニーですが」
画像が切り替わり馬に乗った武将にイメージ画像が切り替わる。
馬の背中までの高さが133~136と表示され、武士のイラストには159㎝と書かれ、騎乗しても2Ⅿ程度の身長と表示されている。
確かにこれなら90㎝以上の刀を使っても問題ないだろう。
「『七支刀』をイメージして頂ければ、わかりやすいでしょうか?」と付け加えた。そして画像は、鹿の角のように枝別れたした剣が表示される。
「鎌倉中期から作られたのが、『小太刀』と呼ばれる太刀で二尺……60㎝程の長さで、儀式や祝いの場で用いるのがほとんどです。よく『脇差』と間違えられる刀です。
ここまでが現代の式典でのサーベルような扱いの刀たちです。
徒戦……つまりは歩兵戦へ移行されていくに従い長巻や薙刀、槍が登場し刀剣は、悲しい事に指揮棒に成り下がっていきました。」
「大河ドラマや映画では剣で戦っていますけど」
俺は当然の疑問を口にした。




