第五十八話7月29日ダンジョン七日目7
金属同しがぶつかり合い。甲高い金属音が隧道に響きわたる。
刹那の鍔迫り合いの間に互いの顔を睨み合うと、少し距離を取り互いに剣戟を幾度も放つ。
数度……否、数十回互いに剣を打ち込むと疲労のためか、様子を伺うためか長い鍔迫り合いに持ち込まれた。
ショートソードがよほど業物なのか、《魔法》が付与された刀に刃が食い込む。
「――――ッ!」
100万オーバーの現代刀も今回で寿命が尽きそうだ。
何とか堪えてくれ!! と祈り願いながら変身前に放ったショートパンチの要領で、体重を乗せた前蹴りをお見舞いする。
「グヴォッ!?」
予想外の《魔法》が付与された前蹴りによって、与えられた衝撃と呪いの痛みに身悶える。
隙を逃すまいと、前に倒れようとするベクトルを利用して相手の腹を足の一本を斬り落とす。
「――――ッ!?」
ぼとりと、水分を含んだ肉塊が落ちる音がする前に、次の手に移る。
「『南無八幡大菩薩』」
左下段に構えるような姿勢になる。
左逆手で短剣を鞘から払い横なぎに払う。
腹部の中央付近でピタリと短剣を止めると、刀と右手を上手く使い短剣の柄と柄に引っ掛け《《強く押し込んだ》》。
グチュリ! と言うやけに水っぽい音を立てて金色に輝く刃が挿入されて行く……
皮鎧のようにしなやかで強靭な皮膚と筋繊維を断ち、臓物を刻み、抉り、かき混ぜるようにグリグリと刃を動かし呪いでダメージを与える。
「――――ン゛ッ!!」
【形容し難きモノ】は苦悶の表情を浮かべ原因を取り除こうと、爬虫類を想起させる足をバタバタと動かす。
腹を捌くように一閃し一度距離を取る。
その距離凡そ5メートル。
「結構戦えるじゃねーかよ……」
肩で息をしながらポツりと呟いた。
手汗で滑りそうな二振りの柄をぎゅっと握りしめ、地面を蹴り再び接近する。
切腹のように裂かれた腹に手を当て、大量の血が流れ己が命が短い事を悟った【形容し難きモノ】は覚悟を決めたように、ショートソードと小丸盾を構え邂逅する。
振りかぶった刀とショートソードがぶつかり合うと、刀は砕けた。
「え――――?」
破砕された刀が細かい破片となって、キラキラと輝きながら視界内で飛散していく……
何十、何百と言うモンスターを素人が斬りって居たのだ。いつダメになるのかは時間の問題だった……それが今と言うのは《《不運》》と言うしかない。
その様子を見て、【形容し難きモノ】の醜い顔が歪んだ。
嗤っているのだ。
それは勝利を確信し気の抜けた笑いだった。
だが俺は諦めない。
――――動け、動け! 動け!! 今ならまだギリギリ勝機はあるっ!!
覚悟を決め半歩踏み込めば届く距離を一歩踏み込んで、残った刀身で受け流し鍔を使って相手のショートソードを絡めとる。
今だ!!
勢いを利用してショートソードを弾き飛ばすと、大きく振り上げ無防備になった右半身に身を捩り、小丸盾と距離を取りながらあらゆる生物の弱点である首を狙うため、飛躍しショートソードの金閃を閃かせた。
ザン!
金色に輝いたショートソードの横なぎにより、【形容し難きモノ】の首は一刀の元に切り伏せる。
ぼとり、と言う水っぽい音を立て生首が落ちる。
二度殺したのだ。もう甦って来ることはないだろう……だが念のため回復薬を飲みながら暫く警戒する。
3分経っただろうか?
死んだと言わんばかりに微動だにしないので、本当に死んだんだと漸く脳が理解できた。
魔石を剥ぎ取り、武器を奪って何時もと違って最短コースを走って行く……
ゲートを超え先にシャワーを浴びると、体が熱い事に気が付いた。暖かいハズのシャワーが生暖かく感じるのだ。
「不味いかな……」
シャワーから上がって服を着替え、買い取り待ちをしている間に体が少しずつ怠くなってきた。長時間の死闘による疲れからだろう……
整理券を受け取ると、直ぐにランプが点灯し機械音声で自分の番号が呼ばれる。
「お待たせ致しました。拾得物をこちらにお願いします」
受付の人がそう言うと、カウンターの下の部分が空き宝箱ごと荷物が吸い込まれていく。
「ライセンスと振込先の銀行カードをお願いします」
俺はカードを提出する。
「確認いたします。今日は数は少ないんですね……」
少し心配そうな表情と声音で、雑談と言った雰囲気で話しかけて来てくれた。
「強敵が居まして……」
「命あっての物種ですから、パーティーを組むとか安全マージンは十分確保してくださいよ?」
「あははは……切実に欲しくなりました。パーティーメンバー」
「前回も言ったけどJSUSAでは、パーティー募集のサービスも行っていますのでご利用ください。
それと前回も前々回も申し上げた通り、申し訳ありませんが、マジックアイテムやそれに類似する品の買取査定には、確認作業に少々時間がかかります。今この場で査定額を算出する事が出来ないので、お預かりしさせて頂き、後日査定額を通知するという流れに、なりますがご了承ください」
「分かりました」
「お金は銀行口座への振り込みですね。武器が未定ですので、1,2週間で査定が完了しますのでその時にお支払いいたします」
「お預かり証明書にサインお願いします」
証書にサインをする。慣れたもんだ。
「こちらがお控えとなっています、なくさないようにお願いします。本日は御利用ありがとうございました」
「ありがとうございます」
時計を見ると約束の時間を30分オーバーしていた。
読んでいただき、ありがとうございました!
少しでも面白い!
続きが読みたい!
と思っていただけたら、
『ブックマーク』と各話の広告下にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると幸いです!
評価ボタンは、作者のモチベーションに繋がりますので、何卒応援よろしくお願いします!