第五十七話7月29日ダンジョン七日目6
火球が放たれ、閃光が迸る。
立花さん曰く、魔法は斬れるらしいのだが……俺は斬った事がないので出来る自信はない。
FPSや子供の頃のドッジボールで学んだ技術で回避運動を取り、縦横無尽にジグザグと不規則に切り替えながら走り、放たれる火球を避ける。
ボン! ボン! ボン!
火球魔法の爆発で、ゴツゴツとした岩肌は砕かれ、飛沫の小石が、雨のようにパラパラと舞い、肌を切裂く。
「――――ッ ちっ!」
血の混じった痰を『ぺっ』と地面に吐き捨て、輝きの鈍くなった刀を構える。
全距離対応の攻撃手段に、高い『身体能力』を持つ相手とか正直ズル過ぎるだろ……
芋虫状の胴から生えた爬虫類の足を器用に使って、加速しながら接近してくる。その姿はさながら騎兵のようだ。
百足のような足が岩盤地面を破砕し、小石を巻き上げながら駆け抜けてくる。
(あんな攻撃はただデカ図体を使っただけのハリボテ、ただの案山子だ!)
例えるなら、大型トラックが時速40キロぐらいで迫ってくるのだ。
その様は“恐怖”以外の何物でもない。
(「勇気」とは「怖さ」を知る事「恐怖」を乗り越え立ち向かう事が勇気なんだ!)
諦めるな!
諦めるな!!
諦めるな!!!
視野を広く相手の立場に立って、最善の行動を考えて実行しろ!
重量物は急には止まれない。それにこのルームの広さなら騎兵突撃と同じく『U』の字で一度回転するハズだ。なら速度を利用して壁にぶつけるか、減速してUターンをする時に攻勢に打って出るのが一番だ。
考えている間にも【形容し難きモノ】が迫る。
俺はタイミングを伺う……
3
2
1
(今だ!)
突撃を最小限の動きで躱し、剣を構え今度はコチラから接近する。
まるでクラウチングスタートのような低い前傾姿勢の状態で、全力で硬い地面を踏み締める。
ドン! と言う空砲が放たれたような轟音が轟くと砂や破砕された飛沫の小石が舞い上がり、瞬きをする間に【形容し難きモノ】へと迫る。
「――――『南無、八幡、大、菩薩』っ!!」
《魔法》の多重付与と幾度も詠唱に加え、たった一度の戦闘で命を失うかもしれないやり取りと幾度も繰り返したため、《魔法》を使う為に必要な精神が摩耗し限界見えかけていた。
例え、コイツを倒してもオークやコボルトと戦うかもしれない。と考えればとうに限界を超えている。一分一秒でも早く倒さなくては……焦燥感に身も心も焼かれながら、金色の刃を八相よりも上段に蜻蛉に構える。
迎撃のために伸ばされた触手を回避、あるいは致命傷を避けて受け、相手に接近する。
確かに【形容し難きモノ】の高い『身体能力』による攻撃は脅威だが、それは真面に受けるからだ。
体の部位に優先順位を割り振って、致命傷や欠損などの重傷にならないように攻撃を受ければ、どうと言うことは無い。
赤をパーソナルカラーに据えた少佐も「当たらなければどうと言う事は無い!」と言っている。
必殺技の一撃であっても、当たらなければどうということはないのだ。
異形の姿とは言え、上半身はヒト型。
注意深く観察すれば相手がどう動くのか? をありありと教えてくれる。
戦闘経験があっても高い『身体能力』によるゴリ押しで勝ててしまっていたのか? はたまた変化してしまった体に慣れていないのか? 【形容し難きモノ】の動きは雑で『ステータス』に振り回されていると言う印象だった。
彼女に比べれば、どのモンスターの動きも雑で遅い。
目が何段も格上の動きに慣れているから良く視えるのだろう……
感謝の念を抱きながら、槍のように突き出された触手を回避して、近接攻撃を仕掛ける。
大きく振りかぶられたショートソードを尻目に、大上段から振り下ろされた渾身の一刀がヒト型の半身を切裂いた。
『グモォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』
ようやくダメージらしいダメージを与える事が出来た。
異形の姿になって初めて感じたであろう、耐え難い激痛により身体をよろめかせ仰け反った。
この好機を逃すまいと、考え得る限り最大の怒涛の連撃を叩きこんで行く……一見すると奇想天外な回転薙ぎ払いや、肘打ち・蹴りなどを織り交ぜつつ、短剣と刀で確実に連続攻撃を繋いで体力と血を消耗させる。
その様子はまるで人間台嵐だった。縦横無尽に迸る金色の閃光の数々その全てが、通常なら強攻撃と言って差し支えない威力を誇っているのだ。如何に強大なモンスターとは言えそれほどまでの連撃を食らえばひとたまりもない。
それまでろくすっぽ与えられなかったダメージも着実に蓄積され、緑色の血や肉片が削り飛び、【形容し難きモノ】の腹は傷だらけで緑に染まっている。
「ガアアアアアアアアアアアアア!!」
苛立ちと怨嗟の籠った咆哮が、隧道に轟く。
脳を直に揺らされる程の音圧は、まさに音響兵器ではあるが、
モンスター咆哮の精神委縮効果は克服済だ。
「・・・・んんんんなろうぅぅぅ!!!」
嚙み締めた奥歯の隙間から、絞り出された心の叫びが絶叫となった時
互いに構えた白刃が交差した。
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